第七章

第六十八話【おきらく、台風襲来】


「アイーシャ・ベステラティン! 15歳なのじゃ!」


 仁王立だったわ。

 ドレス姿で、腰に手を当てて、15歳と言う割に成長がちょっと遅めの女の子は、そう宣言したの。


 停戦協定から約一ヶ月、ようやく落ち着いてきた所で、ガラディーン・ベステラティン辺境伯の娘さんが、魔術学園に入学するためにやってきたのだけれど……。

 貴族特有の豪奢な馬車が、学園の前に止まると、執事とメイドが降りてきて、朱絨毯を引いたの。

 その上を、しゃなりしゃなりと歩き始めたのは、ちょっとロリっぽい見た目のアイーシャさんだったわ。


 連絡を受けて待っていた私だったけれど、目が点になっちゃったわ……。


「貴女がこの学校の教師かの?」

「え、ええそうよ」

「ふんっ! アイーシャはあのガラディーン・ベステラティンの娘なのじゃ! こんな田舎で教わることなんて何もないのじゃ!」


 今度は腕を組んでふんぞり返るアイーシャさん。

 ふんとそっぽを向いて、そして気がついたわ。


「あ、あれ?」


 そこに広がる風景は、都に劣らない……いえ、はるかに都市整備が行き届いた私の街並みよ。


「……のじゃ!? アイーシャはいつのまに都に来たのじゃ!?」

「アイーシャさん、ここは都ではありませんよ。ミレーヌ神聖王国の首都ですよ」

「え!? だ……だってジャングルの新興国ってきいてたのじゃ! どう見ても都なのじゃ!?」

「お褒めの言葉と受け取っておきますわ。まずは寄宿舎を案内しますわね」

「ふん。父上もどうして別宅を用意してくれなかったのじゃ。田舎の寄宿舎など冗談ではないのじゃ」

「新設したばかりですので、気に入っていただけたら良いのですが」

「家具は全部持って来させたのじゃ。精々快適に改造するのじゃ。そうそう、アイーシャが出た後も家具は好きに使っていいのじゃ」

「お気遣いありがとうございます」


 私はにこやかに返答すると、アイーシャさんを完成したばかりの寄宿舎に案内したわ。

 魔術学園……。

 そう、すでに魔法学校的な状態を越えて、完全に学園になっているわ。

 初期の生徒さんは、生徒でもあり教師でもあるわよ。

 首都の少し外れ、緑溢れる広大な敷地に、その学園は建築されたわ。

 もちろん寄宿舎もその敷地内にあるわよ。


 製造型メイド人形のミカンがつきっきりで完成させただけあって、非常に豪奢な建築になっているわ。

 美術館の人足をそっくりそのまま使ったので、公共事業としてもばっちりだったわ。


「なっ……なんじゃこれは!? アイーシャの実家より豪勢なのじゃ!」


 彼女の第一印象は悪くないみたいね。


「お部屋に案内しますね」

「う……うむ。よしなに」


 この寄宿舎は、全部が二人部屋よ。流石に雑魚寝というわけには行かないですからね。

 恐らく大陸中から入学希望者が集まってくるでしょうし、アイーシャさんのように身分の高い方もいるでしょうから、そのあたりは気を遣ったわ。

 備え付けの家具は、オレンジやラナンキュラス、ミカンたちの教育を受けた、ミレーヌ神聖王国の中でもトップクラスの職人集団が作った物よ。

 

「なっ! なんなのじゃこれは!? おっそろしく出来の良い洋服タンスなのじゃ! こんな瀟洒なタンスもテーブルも、父上ですら使ってないのじゃ!」


 部屋に入った途端、備え付けの家具にかぶりつくアイーシャさん。

 どうやら気に入ってもらえたようね。


「それにこのベッド……ふっかふかなのじゃ……ふっかふか……ぐう」


 羽毛と、ガルドラゴン王国から取り寄せた絹を使った布団に、横になったアイーシャさんが、ベッドに転がったと思ったら寝息を立て始めたわ。

 長い時間馬車に乗って疲れていたのでしょうね。

 お付きの執事さんが、そっと起こしたわ。


「しっ、失礼したのじゃ」

「いえいえ。気に入ってもらえたようで嬉しいわ」

「……これでは父上に無理を言って持ってきた家具が役立たずではないか」


 もしかしたら、自慢したかったのかもしれないわね。


「まあいいのじゃ。荷物を置いたら、女王陛下に挨拶に行くのじゃ」


 そこで私とブルーが顔を見合わせてしまったわ。


「あら、聞いてないのかしら? 私がミレーヌ・ソルシエよ?」

「のじゃ? ……のじゃ!?」


 大きな瞳を限界まで見開いて私を凝視するアイーシャさん。


「ちょっと待つのじゃ! 先ほど教師と言っていたのじゃ!」

「ええ。私も一教師として教えていますからね」

「女王陛下が教師をしておるんか!?」

「驚きました?」

「お……驚き過ぎて言葉がでないのじゃ……。その……お初にお目にかかり光栄にぞんじまず……のじゃ」


 流石に今更感を理解しているのか、ものすごーくバツが悪そうに貴族風の挨拶をしてくれたわ。


「はい。でもこの学園では普通に教師と生徒として接してくれればいいわよ」

「ご配慮……ありがたいのじゃ……」


 こうして、アイーシャさんは、部屋に籠もってしまったわ。

 そんなにショックだったのかしら?


「ミレーヌ様」

「なに? ブルー?」

「ご希望であれば、辺境伯に送り返しますが」

「可愛い反応じゃないのよ」


 そう。この時はまだ。ね。


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