幕間

幕間【プラッツ、リスタート】


 俺の名前はプラッツ!

 世紀の大魔導師さまだ!


 ……なんて信じてたのは1年前まで。今じゃミレーヌに次ぐ魔導士としか言えないな。

 それにしても……人生って変わるもんなんだな。


 ◆


 俺が生まれた村は、ジャングルにある小さな集落だった。

 全員で30人そこらの小さな村さ。

 ジャングルに点在する集落の中でもかなり小規模だったはずだ。

 もっともそん時は、うちの村こそがジャングルで一番凄い所だと思ってたんだけどな。


 普段の生活は狩猟だ。

 男は狩りに行き、獲物が獲れれば良し。取れなければ芋やバナーナを探して帰ってくる。

 森は俺たちに豊かな恵みを与えてくれた。

 だけどじっちゃんはそれではダメだと言う。

 本当は父親が村長候補だったんだけれど、事故で死んでから、じっちゃんの考え方が変わっていったように思えるんだ。


 決定的だったのは、行商人から少しずつ集めた金を全て使って、俺とレイムを都に出す事に決めた事だ。

 俺とレイムは、じっちゃんから、読み書きと算学を習っていた。

 じっちゃんを抜かせば村一番の知識人だって思ってたんだ。

 だから都に行く必要なんかねぇってさ!


 でも、都は凄かった。

 生い茂る木々の代わりに、石の建物が並び、どこを歩いても人だらけ。

 地面は剥き出しの土はなく、全てに石がひかれている。馬車や2足トカゲ車も沢山走っていた。

 正直、ジャングルを抜けてからずっと驚きっぱなしだったけど、都を見たときの衝撃は忘れられないぜ。


 特に中央にそびえる巨大な石の建物。

 城といって村長……いや王様という一番偉い奴が住んでるらしい。

 一番偉い奴なら、挨拶に行こうとしたら、師匠に止められた。

 どうやら王様って奴は偉いくせに、滅多に人に会わない奴らしい。

 それで一体どうやって村……じゃなくて国の事を決めるんかね?


 おっと、今ではちゃんと理解してるからな。


 都は銀貨が物を言う場所だった。

 村ではそれぞれ、役割をもって、それをこなしていれば、喰い物に困る事は無かったが、都は違う。

 何をやるにも金が必要だった。


 俺とレイムが持たされた金は、もし無駄遣いしたらあっと言う間に無くなる金額だった。

 幸い飯は師匠のところで食べられる。


 レイムも教会で飯を出してもらっているはずだ。

 だから、極力金には手を出さないでいたが、毛皮一頭分で飯代くらいってのは、流石に酷いだろ!?


 街中には文字が溢れていて、結構な人数がそれらの文字をきちんと理解しているんだ。

 俺は驚いたよ。村の中で読み書き出来るのなんて俺くらいだったんだから。


 そして俺が読み書きだと思ってたもんは、読み書きの入り口でしか無い事を知ったんだ。

 覚えなけりゃ行けない文字は、どんどん出てくるし、算学も重要だった。

 特に魔術文字は難解を極めたぜ。

 でもここを乗り越えられないと、大魔導師にはなれない。

 俺は必死になって食らいついたよ。


 師匠はのんびりした人だった。

 女魔導士だったんだけれど、だいぶ太ましい体型で、いつもおっとりした笑顔を浮かべていた。

 他にも沢山の弟子がいて、そのほとんどは、俺と同じ様に遠方から学びに来ていたようだった。

 俺は世界が広いことをそこで知った。


 宿舎は雑魚寝で、自然と色んな奴と話す機会があった。

 自分を田舎者だと理解している奴もいれば、自分こそ最強だと思っている奴。

 ……ああ。

 俺も自分が一番すげぇって思ってたよ。その時は。


 師匠はあまり魔法の術を教えてくれなかった。

 月に2回のテストで高得点を出さないといけないからだ。

 俺たち弟子は、必死になって勉強し、テストを受け、なんとか合格点に届いた奴が、ようやく魔法を教えてもらえる。

 今では理解しているけれど、この頃は魔法と魔術の区別もついていなかったな。

 まぁミレーヌの基準もだいぶおかしい気がするけどよ。

 とにかく、この頃は、魔法って行ってたり、魔術って言ってたり、誰も気にしてなかった。


 でも今ならわかる。あの集まりは、ミレーヌがやってる小学校みたいなもんだったんだ。

 必要最低限の知識を得る場所で、魔法を覚える事は主眼じゃ無かったんだ。

 魔法という餌に飛びつくプライドの高い俺たちに、どうやってか知識をつけさせるための場所だったんだ。

 だから、魔法と魔術の違いなんてどうでも良かったんだろうな。


 それでも俺は、負けん気を発揮して、仲間内では一番多く魔法を教わっていた。

 ほとんど意地だったな。

 だが、それが俺をより増長させたのかもしれない。


 俺が一番弟子だと、大声で広言して回ったのは……今では封印したい記憶だ。黒歴史も良いところだ。

 それでも、この時に努力したことは後悔していない。

 なんたってそのおかげで、ミレーヌの一番弟子になれたんだからな。


 今でも目にクッキリと焼き付いている。

 食料庫に溜め込んだ飯が目的だったのか、ゴブリンどもが大挙して村を襲ったあの日。

 まるで後光を背負うように現れ、伝説の魔術であいつらをなぎ倒していった、ミレーヌの姿を。


 光の矢を数え切れないほど浮遊させ、それを次々に撃ち出していく、神々しくも、美しい姿を。


 ああ。

 思ったさ。あれこそ女神だってな。


 魔女なんて呼んで悪かったよ。

 いまだに謝れてないけどよ。


 今の目標は、ミレーヌを守れるほどの魔導士になることだ。

 ミレーヌ基準だと、俺は魔導士どころか魔法士レベルらしい。

 まずは一つ上の、魔術士を目指す!


 畜生、ティグレなんかに負けてたまるか!

 何に負けないかは聞くなよ!


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