第七十一話【おきらく、女学生はじめました】
のじゃ!
今日はこのアイーシャ・ベステラティンの日常をお送りするのじゃ!
寄宿舎の朝はそれなりに早いのじゃ。
アイーシャ以外の学園生は、アルバイトの写本などやっておるようなのじゃが、アイーシャには必要無いのじゃ!
着替えて廊下に出ると、武装した身ぎれいな猫獣人が見廻りをしていたのじゃ。
「おはようにゃ」
「おはようなのじゃ。ミケ殿」
時々女子寮の警備にやってくる、ミケ・ニャウ・フーリ殿に挨拶をすると、人なつっこい笑顔を返してくれたのじゃ。
この国では獣人に対する偏見もほとんどなくて驚くのじゃ。
男子寮と女子寮を挟んだ共有区間にある、食堂に向かうのじゃ。
最初は庶民と一緒に食事を取るなど、冗談ではなかったのじゃが、とある事情で我慢しておるのじゃ。
その事情とはの……。
「おっ! 今日の料理は、ラナンキュラスさんが作ってるぞ!」
「マジか!?」
「やったぜ! オレンジ髪と青髪のメイドさんが作った飯は、普段以上に美味いからなぁ」
「ああ、普段の食事だって信じられないくらい美味くてお代わり自由なのにな」
「おい! 急がないと席がなくなるぞ!」
「やべっ! 俺の席も頼む!」
「わかった!」
事情とは……食事が美味いのじゃ!
誉れあるベステラティン家のアイーシャですら食べたことの無い美食が毎日出てくるのじゃ!
ジャガイモをふかしただけの料理にフォークが止まらないとか嘘なのじゃ!
まず、食材が違いすぎるのじゃ。
アイーシャはにんじんが大嫌いだったのじゃが……。喰えるのじゃ。ここのにんじんは美味いのじゃ……。
そして、さらにおかしいのが、メニューの数なのじゃ。
毎日最低でも10種類以上のセットが用意されているだけではなく、新メニューが毎回必ず用意されておるのじゃ。
アイーシャの実家の料理人でもこんなにレパートリーを持ってないのじゃ!
一応、連れてきた執事たちに用意させた食事を、部屋で取っても良いと許可はもらっているのじゃが、一度ここで食べたらそんな考え吹っ飛んだのじゃ……。
貴族ですら口に出来ないご馳走を、食い散らかす庶民たちを見ると、無知とは恐ろしいのじゃと感じるのじゃ。
国元に戻ったら、何も喰えなくなるのじゃ……。
どうにかしてここの料理人を連れ帰らねばならんのじゃ。
朝食が終われば、授業なのじゃ。
教師は何人かおるのじゃが、アイーシャの所属する初等部の教師は、ほとんど中等部の生徒じゃ。
最初はなんで生徒に教わらなければならんのじゃと憤慨していたのじゃが……。
「……というわけで、この魔法式に流す魔力は……、そうそうこの魔力消費の事を魔力係数と呼んで……」
驚くほどレベルの高さなのじゃ。
用語を覚えるだけでも手一杯なのじゃが、全てが恐ろしく効率的に組まれているので、手を抜けないのじゃ。
その代わり、一定量の授業を受けると途端に魔術……魔法の世界が広がるので、やめられないのじゃ。
おぬし、自分の魔法の腕がめきめき上達してやめられるのじゃ?
プラッツの授業が終わると、今度はロドリゲス・エボナ神官長殿がやって来たのじゃ。
ロドリゲス先生殿は、この学園唯一の高等部の生徒なのじゃ。
噂では相当高度な授業をミレーヌ殿下から直接教わっているらしいが、確認は出来ておらんのじゃ。
ルーシェ教の神官だと言うに、布教活動は一切無し。それどころかそれまで神の奇跡と明言してきた治癒魔術を、平然と魔法の一つとして論理的に教えるのじゃ。
ミレーヌ陛下の求心力は一体どれほど強大だというのじゃろうな。
「それではアイーシャさん、基礎術式を展開してから、治癒術式を乗せてみてください」
「うむ。やってみるのじゃ」
この学園で最初に覚えさせられる、超複雑じゃが、汎用性が桁違いの術式を発動してから、治癒の術式を乗せて、
「おお、とうとう成功しましたね」
「のじゃ!? 発動したんか!?」
「ええ。治癒魔法の教師として保証しますよ」
治癒魔法は怪我をしていないと、成功しているのかわかりにくいのじゃ。
「アイーシャが……治癒の魔法を……」
「ええ。ミレーヌ神聖王国外から来た魔導士の方は、先入観からなかなか成功させられませんからね。アイーシャさんは才能がありますよ」
「あ! 当たり前なのじゃ! アイーシャは誇り高きベステラティン家じゃからの!」
ふふふ!
プラッツの授業はムカつくが、ロドリゲス先生殿の授業は好きなのじゃ!
「ロドリゲス先生! 良ければ先生のやっている研究のお話を聞かせてもらえませんか?」
他の生徒が立ち上がったのじゃ。研究とは何なのじゃ?
「そうですね……少し脱線になりますが良いでしょう。私がやっている研究は、薬草学と治癒魔法を組み合わせる研究ですね」
「のじゃ?」
「今作っているのは、
のじゃ!?
それは、治癒魔法を持ち歩けるという事では無いのか!?
「まだ1週間くらいで効力が半分に落ち、その後急速に力を失ってしまうのですが……」
「そ……それでもとんでもない事なのじゃ」
「ははは、まだまだですよ。私の夢は世界中にこの薬……ポーションと呼んでいるのですがポーションが普及することです」
「そんなの……世界がひっくり返るのじゃ……」
「そうなると本望ですね。なぜこの話をしたかというと、皆もこの様に世界を幸せにする研究には、ミレーヌ神聖王国から膨大な研究費が出ることを教えておきたかったからです」
「ぬ? それは初耳じゃ」
「ええ。話のついででしたから。ちなみにその予算で600人の人間を雇っています」
「のじゃ!?」
ろ……600!?
「それほど、ミレーヌ女王陛下は平和への貢献を望んでおります。これから何か研究職を目指す人は頭の片隅に置いておくと良いでしょう」
あ……あいわからず、とんでもない国なのじゃ……。
いや、ベステラティン辺境領は、位置的にこの国に編入されるから、アイーシャの国でもあるのじゃな。
嬉しいような悔しいような複雑な気持ちじゃ。
さて、授業が全部終わると、自由時間じゃ。
回りの庶民たちは連れだって遊びに行ったり、写本などのバイトを始めたりじゃが……。
アイーシャは暇なのじゃ。
廊下に出ると、プラッツとすれ違ったのじゃ。
「ん? 今日も一人なのか? いい加減友達くらい作れよ」
「余計なお世話なのじゃ!!」
まったく! デリカシーの無い男なのじゃ!
プラッツを睨んでいると、奥からミレーヌ陛下が歩いてきたのじゃ。
ミレーヌ殿下は気さくなお人柄なのじゃ。挨拶も一般的な物で充分なのじゃ。
「こんにちは、アイーシャさん、プラッツ君」
「おう。今日は学園にいたんだな」
「ええ。ちょうど良かったわ。これから美術館に行くんだけど、二人も一緒にいかない? 新しい催し物を開催していると連絡があったの」
「へえ。もちろん行くぜ」
「俺も行くぞ!!!」
「うわっなのじゃ!?」
突然現れたのは
びっくりしたのじゃ!
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