第六十六話【私、大国を知ります】


「さて、ここで会ったのも何かの縁だ。少し話でもしようではないか。ベルーア国王よ」

「ほ、それは良いアイディアじゃな。ちょうどその部屋を休憩用に借りているのじゃ」


 そう言って入っていった部屋は、迎賓室近くの、お付きの人とかが待機する部屋よ。

 もちろん、迎賓室に負けない程度の造りではあるけれど、わざわざその部屋に連れ込むあたり、自分たちの力関係を見せつけるためのパフォーマンスよね。


「ま、ベルーア国王よ、座るがええじゃろ」


 半ば強引に着席されられたベルーア国王陛下の正面に、ガルドラゴン王国国王陛下と、ルードウィヒ皇帝陛下が並んで座ったわ。

 きっともの凄いオーラを放っていたでしょうね。

 100年も戦争を続けてきた、水と油、天敵同士が腕を組んで並んでいるんですもの。下手したら停戦協定より事件よ。


「さて、ベルーア国王よ、貴殿、我らが来訪しているのを知っていての急な来訪か?」

「そ……それは……」

「ルードウィヒ皇帝陛下よ、知らぬ訳があるまい。大陸中の子供ですら知る事実じゃぞ?」

「それは失礼した! まさか幼子すら知っている情報を、大国ベルーアの国王ともあろうお方が知らぬ訳がなかったな! ふははは!」

「はは……はは……」


 下を向いたまま、脂汗を流すベルーア国王陛下。もちろん知らないわけはないはずよ。

 つまり、二人は、俺たちが大事な会議やってる途中に、飛び込んで来やがったんだよな? って脅してるのに近いわね。


「なに、それほど急ぎの用事があったのじゃろうよ。……そうじゃ皇帝陛下よ。良ければベルーア国王の悩み、ワシらでも聞いてみたらどうじゃろう?」

「なるほど。もしかしたら何か手助けが出来るかもしれんな。どうだろう、良ければベルーア国王よ、私たちに急ぎの案件とやら打ち明けてみては」

「あぐ……う……」


 普通に考えて、他国と他国の問題に口を突っ込むなんてのは、干渉でしか無いのだけれど、追い詰め方が陰険よね。

 そもそもベルーア王国と両国とでは国交すら無いでしょうに……。

 滝の様な汗を流しながら、ベルーア国王陛下は、苦々しく語り出したわ。


「実は……急ぎの案件がありまして……両陛下が来訪していることは存じていたのですが……」

「ほう! それはよほどの案件とお見受けする! 場合によっては手を貸さないことも無い。せっかく歴史的な3国会談が実現したのだ! 遠慮無く申してみよ!」


 いつの間にやら3国会談呼ばわりされたら、もう後には引けないでしょうね。


「……実は、このミレーヌ神聖王国と領土に関していささか問題が発生しておりまして……」

「ほう」

「宰相、地図を」

「はっ」


 それまで影のように控えていた宰相が、すぐに地図を取り出したわ。

 これは停戦協定の確約をいただいた時点で、両国に送った物よ。

 もちろん、精度の低い略図だけれどね。

 精度の高い地図は戦略物質なのよ?


「さて、ベルーア国王よ、どのあたりで、どのような問題があるのか、ぜひお聞きしたい」

「うむ。詳しく知れば解決案を提示出来るかもしれんからのぅ」

「うぐむ……っ」


 内政干渉レベルだけれど、大国っていうのは、こういうしたたかな面も持っている物よ。


「ぐ……こ……このあたり地域一帯で……」


 こうしてベルーア国王はいやいやながら、内情を暴露させられることになったの。

 ベルーア王国首都より南側の大半が、ミレーヌ神聖王国への編入を求めているという事実を。


「……なる程、理解した。ならば簡単ではないか」

「は?」

「うむ。こんなものはここ、この川と森を境に、国境線を引き直せばよろしいじゃろ」

「なっ!? ばっ! ばかな! それでは我が王国の3割以上を明け渡せと!?」

「仕方なかろう? その地域の8割以上が編入を希望しておる」

「うむ。残り2割の住民を新たな自国内へ移動させるしかあるまい」

「いや……それではっ!」

「まさかとは思うが……国境はそのままで、これほどの住民を難民・・として、ミレーヌ神聖王国へ押しつけるおつもりか?」

「難民という言い方は、承服できませんな。彼らは自らの意志で編入を希望したのですから、それが当たり前で……」

「編入というのは、自らの土地を持ってという話じゃろ? ただ移り住みたいのであればとっくにそうしとるじゃろ?」

「先日、難民局という組織を案内してもらったのだが、この国は難民をほとんど受けているそうだ」

「うむ。食料のある国は羨ましいのぅ」

「ま、我らもこれからはそうなる予定だがな」

「しかりしかり」


 かかと笑い合う二人に、絶句するベルーア国王。


「さて、最も平和的に解決する方法はこれしか無いと、我々は意見できるが」

「そうじゃのう……仮に……仮にじゃ。別の方法をとって、再びこの国と戦争など起きた場合の話じゃが……」

「ああ。仮定の話で申し訳ないが、もしこのミレーヌ神聖王国が戦争になるようであれば、我が帝国は全力でこれを支援する。もちろん武力を持ってな」

「皇帝陛下よ、一人だけ格好つけるおつもりか? その際には我が王国の軍隊の通行許可をいただきたい物じゃが?」

「ふはは! その場合のみは認めてやろうとも!」

「その時は歴史が動きますのう!」

「ふははは!」


 ベルーア国王は……真っ青よ。

 つまり、この条件が無ければ、軍事介入も辞さない。そう言っているわけですからね。

 私の国をそれだけ評価してもらえるのはありがたいのだけれど、知らないところで話を進めて欲しくなかったわ!

 これじゃあ私、大国二つをバックにつけてるみたいじゃない!


 ……。

 少なくともベルーア国王はそう判断したみたいね。

 幽鬼の様にふらふらと立ち上がったベルーア国王は、適当な挨拶を残して、その場を去ったわ。

 そして。


「え? 国境線の引き直し……ですか?」

「……簡易的な案だがこちらにまとめさせた」


 私と会談を始めてすぐに、ベルーア国王はとんでもない提案をしてきたわ。

 ベルーア王国の3割ちかい領土をこちらに引き渡すという。

 ペストン宰相など泣きそうな勢いよ。

 きっと慌てて作成したのでしょう、たたき台案を見て、絶句したわ。


 住民の移動に関する諸費用と安全はこちら持ちだけれど、それ以外は本当に、領土分割案だったのですから。


「あの……本当にこれで良いのですか?」


 さすがのティグレさんも驚きの余り言葉を続けられなかったわ。

 今も何度も何度もその草案を読み返している最中よ。

 きっと穴が無いかを徹底して調べているわね。


「問題無い……それより、その、ぜひとも、我が王国とも友好条約を組んでいただきたい」

「それは……もちろん大歓迎です」


 え?

 どうなってるの?


 こうしてミレーヌ神聖王国は、つい先ほどまで戦争していたベルーア王国と、国境問題を全て解決した上で、友好国となったのよ。

 ……え?

 なんで?

 世の中には不思議な事が一杯ね。


「ミレーヌ様。この後、帝国、王国の停戦協定が無事結ばれたら、しばらく休養期間を設けましょうか?」

「ブルー! 大好き!」


 私、平和のためにもうちょっと頑張るわ!


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