第六十五話【私、意地悪二人組に呆れます】


 ガルドラゴン陛下がメイド人形をご所望になったわ。

 たしかに今までずっと、出荷・・してきたのだから、同じ様にしても良いのだけれど……。


「すみません。それはお断りさせていただきますわ」

「普通の人として扱うと約束するがの?」

「それでもです。申し訳ありません」

「そうか。残念じゃが仕方がないの。それで、貿易したい品物は多々あるが、最も急ぎでした品は……これじゃ」


 陛下が指で持ち上げたのは、条約の取りまとめを記載した用紙よ。


「これ……というのは?」

「紙じゃよ、紙。出来れば製法を伝授いただけたら嬉しいんじゃがな」

「たしか、ガルドラゴン王国は、小麦の大生産地とか」

「ふむ? 唐突じゃな。今は戦争で疲弊しておるが、停戦すれば数年でまた黄金色の平野が拝める事じゃろうよ」


 それは凄いわね。

 やっぱり平和が一番よ。


「……そうですね。帝国へ小麦の輸出を考えてもらえるのであれば、一つ、紙の技術を伝授しても良いですよ?」

「何じゃと!?」

「条件としては、無理の無い税率で、帝国へ小麦を輸出する事になりますが」

「ちと……考えさせてもらうじゃ」


 しばらく側近の方たちと話あっていたけれど、結論が出なかったのでこの件は後日に持ち越されたわ。

 もっとも、後日これは許可されて、技術提供が決まったの。

 ちなみに技術提供したのは、わら半紙の技術よ。


 ミレーヌ神聖王国で普及している高品質な紙と比べると、耐久性などで劣るけれど、小麦大国であれば、向いているわ。

 紙の増産と小麦の増産が比例しているのも良い事ですしね。

 陸続きの王国から帝国に小麦を輸出してもらえた方が、全員幸せになると思うわ。


 こうして王国との首脳会談も、大変有意義に終了したわ。


 それから数日は、両国王陛下を、交互にミレーヌ神聖王国を案内して回ったりして忙しい日々が続いたわ。

 もちろん停戦協定に向けた協議も、水面下で官僚による話合いが続いているわよ。

 協定内容も最終確認が取れて、明後日にも調印式を開催できるというタイミングで、事件が起きたの。


「ミレーヌ様。ベルーア王国より、国王陛下がこちらに向かっているでござる」

「なんですって?」


 朝一で情報を持ってきたのは、シノブよ。


「本日の夕方にも、この首都に到着するでござる」

「それは大変! ブルー! すぐにお出迎えの準備をしてちょうだい!」

「かしこまりました」

 

 その直後に、先触れの使者が来訪するなど、慌てて歓迎の準備を整えたわ。

 ただでさえ、ベルガンガ帝国とガルドラゴン王国の両陛下がおいでになって、混乱気味だったのだけれど、そこは私のブルー率いるメイド隊よ。

 サファイアとアイオライトの頑張りもあり、ベルーア王国の国王陛下をお出迎え出来たわ。


 なんと国王陛下は、信じられない事に、国王陛下を含めてたったの5名で来訪したの!

 さすがにびっくりだけれど、そのメンツを見て、なるほど彼らなら4名でも充分国王陛下をお守り出来るわねと納得もしたわ。

 一人は立派な軍馬にまたがった、オーコーゼ・ディッシュ将軍。

 一人は足の速そうな馬にまたがった、ガラディーン・ベステラティン辺境伯。

 一人は巨大なトカゲ騎にまたがった、ラガルト・レザール大隊長。

 最後は普通の馬にまたがった、ペストン・ラーゼオン宰相よ。


 武力に秀でたオーコーゼ将軍と、ラガルト大隊長。それにこの時代ではかなり上位に位置すると思われる魔導士のガラディーン辺境伯。

 国王陛下自身も立派な馬にまたがっているのだから、それほど速度を重視したのでしょうね。


「お久しぶりですわ、ザックガード・ベルーア国王陛下」


 ベルーア国王陛下とはすでに面会済みよ。

 もっとも一度訪問したあとは、全部ティグレさんに任せちゃったんだけどね。


「うむ。急な来訪失礼する」

「それは構わないのですが、何か急用でも?」

「うむ。……急かすようで悪いが、会談を申し込みたい」

「了承いたしました。すぐに準備いたしますので、少々お待ちください」

「わかった」


 ベルーア国王陛下一同は、こうして入城したわ。

 一体何のお話かしら?


 不安に思いつつ、会談の準備を進めていたのだけれど、まさかこの短い準備時間の間に、ベルーア国王陛下が心変わりする大事件が起こるとは予想も付かなかったわ。


 これは後になって、シノブに聞いた話なのだけれど、ベルーア国王陛下がメイドに案内されて、待機室に向かう途中、廊下で待ち受けていた、二人の人物と出会うことになったの。

 その二人とは、もちろんガルドラゴン国王陛下とルードウィヒ皇帝陛下よ。


「お初にお目に掛かるな、ベルーア国王陛下よ」

「ん? お主は?」


 一国の国王に対して無礼な口をきいてくる男性に、ベルーア国王陛下は胡散臭げな眼差しを向けたらしいわ。

 その男性は少し面白げな笑みを浮かべて、こう答えたそうよ。


「失礼、自己紹介が遅れたな。私はルードウィヒ。帝国の皇帝だ」

「なっ!?」

「ならばワシも自己紹介しておこうかの。ガルドラゴンⅤ世じゃ」

「ガッ!?」


 なんていうか、二人とも趣味が悪いわよね……。

 名乗りも簡易的だし。

 お互いの立場が簡単に理解出来るわ。


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