第六十四話【私、今度は王国と話します】


 帝国との話合いの骨子は、停戦協定が前提で、食料支援と農業技術支援の二つを柱とすることになったわ。

 帝国からの提供は魔核の予定よ。ベルガンガ帝国領内には未処理のダンジョンがかなり数多く存在しているらしいの。

 停戦したからといって、すぐに軍隊を解体するわけにもいかないので、当面は兵力をダンジョンに振り分けるらしいわね。


 今のところ、魔核を魔石に変換出来るのは、私だけよ。

 学校の教師もだいぶ確保出来てきたから、そろそろプラッツ君を本格的に弟子にして、魔石の製作など手伝ってもらっても良いわね。

 本来なら私もまだまだ修行中の身なのですけれど、プラッツ君に頑張ってもらえばその分楽でき……んん!


 もう少しゆっくりしたいわ……。

 ベルーア王国との問題が片付けばねぇ。


 そんなのんびりしたい私の心を無視して、今度はガルドラゴン王国より、レオパルド・ガルドラゴン・ウォルポール陛下がいらっしゃったわ。


 今回、帝国の首都に立ち寄ってからの来訪と言うことで、本当に停戦すると噂が広がっているわ。

 帝国と同じ様に千人規模の行列が入国してきたわ。

 国民の多くが集まって歓迎ムードよ。


 レオパルド陛下は彫りの美しい馬車に乗っているようね。

 さすがに外に出て手を振ったりはしていないわ。


 城前の天幕に馬車が停車すると、50代ほどの白ヒゲを蓄えた男性が降車してきたわ。


「ようこそ遠路はるばる我が国へお越しいただきありがとうございます。レオパルド・ガルドラゴン・ウォルポール陛下。わたしはミレーヌ・ソルシエと申します」

「ほ。若いとは聞いていたがのぅ。いや、失礼したの。ワシが5代国王、レオパルド・ガルドラゴン・ウォルポールじゃ」

「お疲れでしょう、まずは休憩なさいますか?」

「気遣い無用じゃ。国民に挨拶させてくだされ」

「ありがとうございます。ではこちらに」


 お連れの方と一緒に、城の展望台に移動、陛下と一緒に顔を出すと、一斉に湧き上がったわ。


「見事な都市じゃな。ここ1〜2年で建国したとは、とても思えませんの」

「お褒めの言葉として受け取っておきますわ」

「いやなに、嫌味無しで感心しておるんじゃ」

「ありがとうございます」

「明るい国民というのは平和な印じゃ。ここに来るまででも、彼らの顔を見れば、どれほど幸せなのかがわかるっちゅーものじゃ」

「私は国民に恵まれましたわ」

「ふん。恵まれたのは国民じゃろうに」


 挨拶を終えると、そのまま首脳会談よ。

 迎賓室で給仕をする、サファイアとアイオライトの二人を、ガルドラゴン陛下はじっくりと見ていたわ。


「まずはこの度の停戦協定に感謝するじゃ。いい加減帝国のしつこさには辟易しておったでな」

「まぁ……」

「向こうからすれば、ワシらこそ侵略者という言い分なのかもしれんが、不毛な会話にしかならんからの」

「戦争というのはそういうものですよ」

「政治的な問題になると、なんでも複雑化するものじゃからのう。……いや、愚痴はやめるのじゃ、とにかく感謝するのじゃ」

「お役に立てたのなら光栄です」

「さて、この停戦協定が終われば、貿易ルートの構築も考えているとか」

「はい。貿易は最大の戦争回避手段ですわ。お互いに利益が出る状況を作り上げれば、簡単にそれを壊そうとは思いませんから」

「ふむ……なるほど。一方的な搾取は望まぬと」

「それは逆に戦争を呼び込む行為ですわ」

「気に入った。ぜひ貿易をしたいところなのじゃが……」

「何か問題でも?」

「間に、帝国があるからのぅ……」

「それなら問題ありません。通行税は取られてしまいますが、いくつか商業用にルートの開放を提案しております」

「なん……じゃと?」


 そう、昨日の話合いで、実はとっくにその辺は提案済みよ。

 皇帝自らの許可をいただいているので、完璧よ。

 ……話を出したのはティグレさんだけどね。

 ほんとティグレさん有能だわ。


「首都を経由するルートが一番税率が高く、国境沿いを迂回するようなルートほど格安になります。こちらが詳細です」


 羊皮紙を渡すと、食い入る様に読み込む国王陛下。

 読み終わると、ふうと背もたれに体重を預けたわ。


「まったく……、よくぞこれほどの条件を飲ませたものよ。これを見たら商人どもが歓喜するじゃろうて」

「それは良かったですわ」

「女王陛下は商売にも精通しておられるようじゃな」


 提案したのはティグレさんですねどね。


「ブレーンが優秀ですから」

「それも含めて、女王陛下の能力よ。……それにしてもここのメイドは皆レベルが高いのぅ」

「ありがとうございます。そちらの二人は生体ゴーレム……私どもはメイド人形と呼んでいますが、人造生命体なのですよ」

「なんじゃと?」

「もっとも、普通の人間として接していただけたら嬉しく思います」

「それはもちろんじゃが……ゴーレムといえば、無骨な石の巨人しか思いつかんのぅ」


 あら、ゴーレムの技術は残ってるのね。

 可能なら見たいわ。


「もし可能で有れば、そちらのゴーレムを拝見したいですわ」

「ふむ……ならば、そこのメイド人形。一つ我らに譲ってもらえんか?」

「え?」


 予想外の提案が来たわね。

 さて、どうしようかしら?


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