第六十一話【私、美術鑑賞です】


「これも見事な建築ですね」


 ガルドラゴン王国のスタインさんが、新築の美術館の中を見回して感嘆したわ。


「なるほど、美術館……というのは、建物自体も芸術なのですね」


 ベルガンガ帝国のメンヒェルさんが続いたわ。


「お気に召していただいて嬉しいわ」


 その後、オープニングの演説と、テープカットを行ったんだけれど、お二人にも参加していただいたわ。

 入場料が無料と言う事もあり、沢山の来場者が訪れてくれたわ。

 私たちも館長の案内で、美術品を見て回ることにしたの。

 中でも大きな人だかりを見つけたわ。

 見学していた人たちがこちらに気付いて、すぐに正面のスペースを空けてくれたの。ありがとうね。


「こ……これは?」


 スタインさんがその絵画に眉を寄せたわ。

 飾ってあったのは、私が寄贈した、ペカソさんのキュービズム自画像よ。


「ふむ……これはなかなか斬新な絵画ですね。一見落書きのようにも見えますが、……人の二面性を表現しているのでしょうか?」

「あら、メンヒェルさんは芸術にも造詣が?」

「囓った程度ですよ。インパクトのおかげか、目を止めてしまいますね」

「ええ。私この絵画好きですよ」

「手に入るものであれば帝国本国へ持ち帰りたいほどですよ」


 私とメンヒェルが雑談していると、スタインさんが慌てて、近くの風景画に目を付けたわ。


「こ、これもそのペカソさんの絵画なのですね。雄大な自然が豊かな色彩で実に活き活きと描かれておりますね!」

「ふむ……悪くはないですが、先ほどのインパクトと比べると大人しい印象ですね」

「とても上手・・な絵ですよね……あら?」


 その時、目の端に、話題の人であるペカソさんを見つけたの。


「こんにちはペカソさん」

「これはミレーヌ様。お久しぶりです」

「ご無沙汰しておりました。こちらの絵画も展示されたのですね」

「ええ。私個人としては、出来がいまいちなのでお断りしようと思っていたのですが、館長さんの熱心な頼みを断れなくて」

「こちらの絵画も悪い物ではないわよ」

「なんともお恥ずかしい限りです。私のコーナーをぜひと頼まれまして」

「館長は押しが強いところがありますからね」


 なぜかスタインさんが愕然としていたわ。

 逆にメンヒェルさんは得意気に見えるわね。


 その後もこんな感じだったわ。


「この彫刻は艶やかでいいですね」

「ふむ……良い物なのは確かですが、わずかに違和感を感じますね」

「これは、うちのメイドが昔の彫刻を模した物ですね。本家には及びませんがなかなか良い出来だと思っております」

「う……」


「この絵は白い紙に、黒い線を引いた物……ですか?」

「これは恐らく書でしょう。繊細にして大胆な筆致。元の文字の意味を知らないのが悔やまれます」

「これは東方から届いた、書ですね。筆という道具で書かれた物らしいです」

「うぐ……」


「こ……このランプは、その、なんというか……鉄をふんだんに使って……」

「これは普通の照明ですよね?」

「え、ええ。もちろんそれなりの物は用意しましたが……」

「ふぐっ!」


 恐らく最後の方はスタインさんは意地になっていたのじゃ無いかしら。

 きっと冷静なら、こんな見栄張りはしないと思うわ。

 どうも、帝国と王国の確執は根深いようね。

 仮に停戦出来たとしても、わだかまりが消えるのにはそれなりの年月がかかりそうだわ。


 そんな感じで楽しんでいたのだけれど、前方で人だかりが出来て、ちょっと騒がしいわ。

 美術館は静かに楽しむものよ?


「あれは……招待絵師たちのようですが?」


 館長さんが首を傾げつつ、騒ぎの方へ向かったので、私たちも後に付いていったわ。


「皆様、どうしましたか?」

「これは館長さん。いえ、ちょっとこちらの方に、ぜひモデルになっていただきたく、熱くなってしまいまして」

「ほう?」


 見ると、人だかりの中心には、エルフのリンファさんが、困った様子でいたのよ。

 何人もの画家たちが取り囲んでいるようだわ。


「ぜひ私の絵画のモデルになってください!」

「いやいや! そんなへっぽこ絵師では貴女の美しさが死んでしまいます! ぜひ私のモデルに!」

「なんだと! お前は風景画専門だろう!?」

「たまには人物だって描くわ! 今まで私の審美眼にかなう女性がいなかっただけだ! 貴様のように誰彼構わず描き散らす人間と一緒にするな!」

「なんだとぅ!」

「そんな絵師二人のモデルになる必要などありませんよ! 私の石像モデルにぜひ!」

「貴様は裸婦像専門の!」

「下心のあるやつは帰れ!」

「裸婦は芸術だ! 貴様らこそやましい目でしか見れんのか! 芸術家の恥さらしめ!」

「だいたいお前の人物画も、裸婦ばかりでは無いか!」

「ちゃんと布を掛けてるだろ! この皺と女体の柔らかさの比率が!」

「ええい! 私は大自然の中にたたずむ彼女を……!」


 これは……。

 リンファさんは口も挟めずに、おろおろと狼狽するばかりね。


「あなたたち、気持ちはわかりますが、場所を考えてくださいな」

「なんだと! 部外者は引っ込んで……え? ミレーヌ様!?」

「女王陛下!?」

「女神ミレーヌ様!?」


 騒いでいた芸術家の皆さんは、慌てて頭を下げたわ。


「あなたたち、ほどほどにね」

「た! たしゅかりましたミレーヌ女王陛下!」

「良いのよ。良ければ彼らを許して上げてね。貴女の美しさゆえですから」

「そ、それはもう」

「ありがとう。ところでリンファさん」

「なんでしょう?」

「モデルに興味無いかしら?」


 私だって彼女の絵画や彫刻が見たいわ!


「ふむ。……リンファ。協力してあげなさい」

「ふへっ!? スタイン殿!?」

「これも王国騎士の勤めですよ」

「いや……それは……!」

「命令です」

「はぐっ……わ……わかりゅました……」


 がっくりと肩を落とすリンファさんと対照的に、スタインさんはどや顔でメンヒェルさんに視線を送っていたわ。

 メンヒェルさんは冷静なまま……でもないわね。わずかに眉が寄ってるわ。

 スタインさん最後に大逆転ね。


 その後、リンファさんがモデルの人物画や彫刻が大量に出回ることになったわ。

 特に評価が高かったのは、石材の彫刻よ。

 ……葉っぱビキニだったわ。

 なにか妙に縁があるわよね……。


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