第六十二話【私、大役です】


 大使館が急ピッチで建築され、ベルガンガ帝国とガルドラゴン王国の両国が、本国との連絡を密に取れる体制も整ったわ。


「ミレーヌ女王陛下。改めてこの度は、大変貴重な魔導具をお貸しいただきありがたく思います」

「我が国も同じく、心より謝辞を述べさせていただきます」

「良いのよ。ただし貸出しと言うのを忘れないでね」

「もちろんです」

「承知しております」


 メンヒェルさんとスタインさんが同時に頭を下げたわ。

 今回、両国に貸出した魔導具は、ようやく試作品の完成した、双子の鏡よ。


 双子の鏡は、手鏡ほどの鏡が二つセットで一つの魔導具になっているの。

 これは魔石を消費して使う、通信具になっているわ。

 かならず二枚ペアで、他の鏡と通信は出来ないわよ。


 映像と声を同時に送る優れものよ。

 ただ今の時代だと、魔石の製造方法は失われているらしく、定期的に販売することにしたわ。

 待機魔力はそんなに減らないんだけれど、通信中は魔石を馬鹿食いするのが欠点なのよ。


 私としては、原価で良いと思ってたんですけど、ティグレさんが恐ろしく高額を吹っかけたわ。

 ある程度の価格交渉はしたけれど、帝国も王国も、ほぼティグレさんの言い値を認めたの。

 ちょっと驚いちゃったわ……。


 ティグレさん曰く、魔石が大量に出回るのに反対という事と、もともと一部の遺跡やダンジョンでしか手に入らないものだから、適正価格だという話よ。


 大量に売ったら、国庫が潤っちゃうわね……。

 経済が破綻しちゃうからやりませんけどね。

 そんなわけで、魔石は必要数だけ売ることになったのよ。


 現在ミレーヌ神聖王国内でも、配備を進めているわ。

 今は名も無き村(これ、正式名称なのよね……)と宿場町ベルに設置してあるわ。


「それで、帝国と王国の外交官が揃ってお話とは何かしら?」


 そう。不思議な事に、今回両国の連名で面接申請が来たのよ。


「はい。実は双子の鏡のおかげで、本国との連絡がスムーズに取れるようになった結果。帝国と王国の停戦協定がほぼ確定しました」

「え! それ本当!?」


 正直かなり難しいと思ってたのですけれど。


「そこで、ミレーヌ女王陛下にお願いがございます」

「なにかしら?」

「ミレーヌ神聖王国に停戦協定の見届けをお願いしたいと思っております」

「それって……」

「はい。我がルードウィヒ皇帝と……」

「我がレオパルド・ガルドラゴン・ウォルポール第五代国王の来訪を許可していただきたいと思っております」

「皇帝陛下と国王陛下の両名が!?」

「はい。どちらかの国で調印を行えば、必ず遺恨が残ります故」


 それは、確かにそうよね。

 帝国で行えば、帝国市民からしたら、王国が頭を下げに来ているように感じてしまうでしょうし。


「それは、大変光栄な事ですが、よろしいのですか?」

「すでに閣僚級の調整はすすんでおります」

「あとは日付の擦り合わせがあれば、話は進められます」


 これ、もしかして凄い事なんじゃ無い?


「ミレーヌ女王陛下は平和を愛するお方。この調停の立役者となれば、国の格も上がると存じます」


 なるほどね。私はティグレさんに耳打ちしたわ。


「私としては受けて良いのだけれど、何か問題とかあるかしら?」

「無い事は無いが、メリットの方が圧倒的にでかい。ミレーヌが受けたくないと言ったら説得するレベルだ」

「じゃあ受けるわね」


 私は咳払いしつつ、二人に向き直ったわ。


「わかりました。このお話、喜んで承らせていただきますわ」

「おお! これはありがたい!」

「感謝いたします」

「いえ。平和は私の求めることですから、協力出来て大変嬉しいですわ」

「ありがとうございます。それではさっそく本国に連絡をしてきます」

「こちらもすぐに」


 こうして、大陸をひっくり返すような停戦協定に向けて、事態は一気に動き出したわ!

 魔導具を貸出した甲斐があったわね。


 何日か経った頃、城下町の様子を見ようと城門を出たところで、美少女エルフのリンファさんを見つけたわ。

 なんだか酷くげっそりしているような?


「こんにちはリンファさん」

「これは女王陛下!」

「ああ良いわよ、頭を上げて。忙しそうね?」

「はい……ここ数日忙しくいたしておりましゅ」


 また噛んだわね。

 そろそろ緊張しないでもいいと思うのだけれど。

 彼女の横には二足トカゲ騎が三名いたわ。今はトカゲから降りて頭を下げているけれど。

 恐らくこの国で購入した良トカゲね。


「伝令かしら?」

「いえ……」


 リンファさんはわずかに口ごもった後、お話してくれたわ。


「実は彼らには、魔石を本国まで運ばせます。ここ数日通信量が増大しておりまして、本国から毎日のように追加を求められていまして……こちらも人員に限りがあるので、その割り当てに苦労しておりましゅ」

「それは大変ね」


 王国は帝国よりさらに遠くですものね。


「ただ、こちらのご厚意で、優先的に良トカゲを売っていただきましたので、本国までの旅程は大幅に縮んでおります。改めてお礼申し上げます」

「良いのよ。大使を優遇して怒る市民はいませんわ」

「本当にこの国は素晴らしいです」

「あなたたちの国も、戦争が終われば、きっと良い国になるわ」

「そう、願いたいものです。それでは失礼しゅて仕事に戻らせていただきます!」


 ビシリと敬礼するリンファさん。

 すると彼女に走り寄ってくる伝令がいたわ。


「リンファ隊長!」

「馬鹿者! 女王陛下の御前だぞ!?」

「はっ……? ああ! こっこれは失礼いたしました!!」


 伝令の男性は、慌てて床に頭を擦りつけて謝罪したわ。


「良いのよ、お仕事をしてちょうだい」

「申し訳ございません! あとできつく罰しておきますゆえ!」

「気にしてないわ」

「お気遣い痛み入ります! それで伝令は?」

「はっ……その……」

「かまわん! ミレーヌ女王陛下の前で隠し事などない!」


 それはそれでどうなのかしら?


「はっ! それでは! 実は……」

「実は?」

「またモデル依頼が大量に……今夜にでも協力するようにと、スタイン様よりの伝令です」

「……おう」


 リンファさんは頭を抱えてしゃがみ込んだわ。


「なお、服はいらないそうです」

「いるわっ!!!」


 これは……大変そうね。

 私はそっとその場を離れたわ。


 ……その彫刻か絵画、予約しておきましょう。

 私はブルーにそっと耳打ちしておいたわ。


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