第五十六話【私、遭遇します】


「大使館というのは、のちほど詳細は説明させていただきますが、大使を常駐させて、外交活動の拠点となる場所ですね」

「ほう」

「基本的には王城のある都市に、特別な特権を持った外交官を、お互いの都市に住まわせる事になります。それによって、スムーズに外交を進めるのですよ」

「それはつまり、我がガルドラゴン王国と密な国交を開いていただけると?」

「現時点では、まずお互いを正しく知るために機能することでしょう」


 私の言葉を聞いた使節代表のスタインが考え込む。

 何を考えているのかしらね?


「……お互いの国の中に、他国の情報に詳しいものを招き入れると……」

「そうです。ある程度ぶっちゃけて言うと、お互いの腹を見せ合いましょうという感じでしょうか」

「それは、なるほど、新しい考え方です」


 スタインさんは長考したあとに、ゆっくりと回答した。


「謹んでお受けします」

「あら、この場で決めてしまって良いの?」

「私にはそれだけの権限が与えられております」


 これはあれね、スタインさん、若手のホープって奴ね。

 独断専行でなければ、相当信頼されてる人物よ、これ。


「わかりました。詳細は専門家からお聞きください。ただ……」

「なんでしょう?」

「国交を開くのは歓迎なのですが、我が国の方針として、戦争状態の国とは、最低限の付き合いしかしないことを明言しておきます」

「……それは?」


 スタインさんが困惑気味で聞き返してきたわ。


「そうですね……例えば物流。技術交換。人材交換などは、厳しく規制させていただきます」

「それでは大使館の意味とは」

「だからこそ、正確にこちらの意図を伝える機関が必要だと思っております。逆に、お互いに貿易可能な状況になったとき、大使館を通じて、迅速に交流を開始できるでは無いですか」

「ああ……理解しました。つまり大使館とは、国家の意思を正しく素早く伝えるための機関であり、その設置自体が、必ずしも友好関係から成り立つわけではないのですね」

「私としましては、友好が前提であると思いたいのですけれどね」

「それに関してはお約束します」


 理解が早くて助かるわ。


「では、一つこちらから提案なのですが」

「なんでしょう?」

「私たち一団を、仮の大使として、こちらに大使館を置かせていただければと思います」

「それは構わないけれど、大丈夫なの?」

「もともとしばらく、可能で有ればこちらの国に滞在させていただこうと思っていたのですよ」

「なるほど。わかりました。それでは本国の許可が出るまで、仮の住まいを用意させていただきますわ」

「ご配慮ありがたくお受け取りします」


 やったわ!

 これでエルフさんもしばらく滞在するのね!

 ちょっとブルー! そんな目で見ないで!

 けしてそれだけの為に提案したんじゃないからね!?


 その後、色々話合いをして、ミレーヌ神聖王国としては、国交は結ぶけど、戦争している間は深入りしないことを確認しておいたわ。

 使節団は、仮住まいが見つかるまでは、城に滞在することになったわ。

 私は早速、使節団の部屋に行ってみたの。


「ミレーヌ様? なにかありましたか?」


 ちょうどスタインさんが、個室の前を歩いていて、私に気がついたわ。


「いえ。ご不便などがないか、様子を見にまいりました」

「女王陛下みずから……、いえ。とても快適に過ごしております」

「なら良かったわ。それで……」

「はい?」

「その他の人たちはどちらにいらっしゃるのかなぁと」

「文官は私と同じく、個室をいただきましたので、両隣におります。護衛は向かいの二部屋に分けておりますが、何か問題でも?」

「大した話では無いんですが、その、たしか一人だけ女性がいたようなきがしましたので」

「ああ……。彼女ですか。なるほど目だちますからね」

「ふ、深い意味はないんですよ?」

「わかっております。エルフ・・・はこちらの地方にはほとんどおられないと聞いております。それが使節団でかつ女性ともなれば、気にならない方がおかしいでしょう。もし良ければ、声などかけてやってください」

「いいの!?」


 あ、思わず地が出ちゃったわ。


「はい。彼女も喜ぶでしょう」


 やったわ!

 お墨付きが出たわ!

 だからブルー! そんな目で見ないで!

 好奇心を抑えられなかったのよ!


「おっと、話をすればというやつですな」


 通路の奥から、なんと、エルフさんが歩いてきたの!

 笹穂耳にアーモンド型の強い意志を感じさせる瞳、金糸のような美しい髪を後ろで束ね、胸を張って歩く姿は、生きる芸術と言っても過言では無いわ!

 グリーブとガントレットが白銀に輝く金属製で、全体的に動きやすい装束ね。


「ちょうど良いですね。リンファ! リンファ・エルール! こちらに!」


 スタインさんが呼ぶと、颯爽とリンファさんが現れて、片膝を付いたわ。


「彼女が今回の使節護衛責任者で、リンファ・エルールと申します。以後お見知りおきを」

「よろしくお願いしますね。リンファさん」


 ああ!

 目の前で本物のエルフが頭を下げているのよ!

 声がうわずらないようにするのが精一杯!

 それにしても、伝承通り凜々しく美しいわ!


 リンファさんがゆっくりと顔を上げたわ。


「私はリンファ・エルールと申しましゅ。以後おみしりおきゅを……はうっ!」


 ……噛んだわね。

 二回も。


 顔を真っ赤にして慌てるリンファさん。うん。これはこれで可愛いわね。


 こうして私はエルフとの初遭遇を果たしたわ!


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