第五十五話【私、使節を迎えます】


「ミレーヌ様、大変でござる」

「どうしたの? シノブ?」


 もうすぐガルドラゴン王国の使節団が到着すると言う事で、待機している時だったわ。シノブがスッと現れたのは。


「使節団でござるが」

「ええ」

「エルフがいるでござるよ」

「なんですって!?」


 驚天動地とはこのことかも知れないわね!

 見たい見たいと思っていたエルフさんが、向こうからやって来るなんて!


「どどどどどうしましょう!? そうだ! 歓迎の準備を……!」

「ミレーヌ様、落ち着いてください。相手は使節団ですよ?」


 ブルーが苦言を呈してきたわ。


「あ、そ、そうね? あ、食べ物とか好き嫌い無いかしら? 動物はダメとか……」

「そうだとしても、私たちメイド隊がどうとでも出来ますからご安心ください」

「あ、ああそうよね」

「少し落ち着いてください」


 だってエルフよ!

 伝説通りだったら、耳が長くて、全員美男美女のチート生物よ!?

 すっごく……すっごく気になるじゃ無い!


「そ、そうね。もしかして代表なのかしら?」

「それは無いとおもうでござる。装備からおそらく護衛でござるな」

「そうなんだ」

「使節団自体が、10人でござるので、腕は立つと予想するでござる」

「やっぱり精霊魔法とか使うのかしら?」

「そこは……わからないでござる」

「そうよね」


 本当に精霊魔法とかがあるのなら、ぜひお話を聞いてみたいわ!


「ミレーヌ様、今はとにかく落ち着いてください」

「わかってるわよ」

「長老会からはプルーム様、それとプラッツ様。教会からレイム様を参加させて欲しいとの要請です」

「了解よ」

「それと、ティグレ様もいらっしゃるようです」

「むしろ来てもらわないと困るわ」


 今や、政治にしても警備にしても、ティグレさんがいないと回らないんですもの。


「……承知しました」

「ああそうだ、の件は大丈夫?」

「問題ありません」

「そう。じゃあ丁重にお出迎えしてね」

「はい」


 それからしばらくして、到着したガルドラゴン王国の使節団が謁見室にやってきたわ。

 この謁見室は、最初に神殿様式の自宅が完成したときに出来た、偉そうな椅子が上座に鎮座している部屋よ。

 私は対等にお話したかったのだけれど、ティグレさんが、女王としての貫禄を最初に見せろとしつこくて、こんな形になっちゃったわ。

 迎賓室で十分だと思うんだけどね。


 ブルーに言われて謁見室に行くと、すでに使者団は床に顔を伏した状態で待っていたわ。

 まって、これ、私凄い偉そうじゃ無い?


(ミレーヌ様は女王なのです。当然のことですよ)

(慣れないわぁ)


 私はゆっくりと着席して、改めて使節団を見下ろしたわ。

 先頭にいるのは、まだ40前くらいの人間ね。使節を任されるにしては若いのではないかしら?

 その後ろに文官らしき50代の男性が二人。

 さらに後ろには護衛らしき人たちが恭しく膝を突いていたわ。


 男性に混じって、明らかに美しい女性がいたの。

 耳が長くて笹穂型!

 間違い無いわ! エルフよ!


「この度は急な謁見にも関わらず、ご許可いただき大変嬉しく思います。私はガルドラゴン王国よりの使節団代表、スタイン・スタイナーと申します。以後お見知りおきを」

「ああ、失礼しました。皆様顔をお上げ下さい」


 全員が顔を上げたところで、こちらも自己紹介しておきましょう。


「遠路はるばるご苦労様でした。私はミレーヌ神聖王国の、ミレーヌ・ソルシエと申します」

「ミレーヌ女王陛下のご高名はかねがね」

「あら、まだ建国して間はないと思うのですが」

「はい。建国前から、その政治手腕は遠くガルドラゴン王国まで響いておりました。この度は建国おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「此度は些末なものですが、建国祝いをお持ちしました。献上させていただけたら光栄に存じます」

「あら、お心配りありがとうございます」


 スタインさんは部下に指示をすると、恭しく、紫の布に包まれた、短剣を頭上に持ち上げたわ。


「こちらの品、ガルドラゴン王国の国宝の一つ、竜牙突の短剣といわれる一品でございます」

「国宝ですって?」


 なるほどね。使節にしては荷物が少ないと思ったけれど、これなら充分以上の贈り物よ。


「そのような素晴らしいものを受け取ってもよろしいのでしょうか?」

「はい。国王はミレーヌ王国との国交を強く望んでおります。これはそのご意志の強さだと認識していただければと思います」

「なるほど。謹んでお受けします」

「ありがとうございます」


 使節団から短剣を受け取ったブルーが、私に運んでくれたわ。

 凝った装飾の鞘を抜いてみると、鮮やかなマーブル模様が波紋に浮かび上がっていたわ。


「これ、もしかしてミスリルかしら?」

「お目が高い。それは確かにミスリル製です」

「素晴らしいものね。国王陛下には厚くお礼お伝えください」

「は。確かに承りました」


 ミスリルの加工技術があるのであれば、かなりの技術力ね。


「それでは本題に入りましょうか。この度の訪問の目的をお伺いしても?」

「はい。先ほども触れましたが、この度、正式にガルドラゴン王国との国交を結んでいただければと存じます」

「なるほど」


 ガルドラゴン王国は東の大国。仲良くしておいて悪い事は無いわね。


「それではお互いに大使館の開設を検討してみてはいかがでしょう?」

「……大使館、ですか?」


 あれ?

 大使館を知らないの?

 政治に関しては、どうも歪な発展をしているようねぇ。


 私はこっそりと、ため息を吐いてしまったわ。


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