第六章
第五十三話【私、聞きます】
それは、ベルーア王国と戦争が終わって、数ヶ月が過ぎてからの事だったわ。
ベルーア領の一部地域が、ミレーヌ神聖王国への帰属を求めていて、その為の調整に追われる日々の事よ。
「ミレーヌ様。シノブが帝国より戻りました」
「あら、ようやく?」
「ええ。呼び出してもよろしいですか?」
「もちろんよ」
許可を出すと、すぐにニンジャメイド服のシノブが現れたわ。
「お疲れ様、シノブ」
「遅くなって申し分けないでござる。にんにん」
「良いのよ。それでは報告をお願いね」
「了解でござる。まず帝国に関してでござるが、今までの情報は全て忘れて欲しいでござる」
「え? どういう事?」
「冒険者ギルドなどの情報を取り纏めたものでござったが、誤情報が多かったのでござる」
「それは……シノブにしては珍しいわね」
「申し分けないでござる」
聞きかじりの情報からでも、かなり精度の高い情報を分析出来るシノブにしては、珍しいミスね。
もっとも生み出されてからまだ経験も浅いわけで、元になったベース情報だけだと、こんなものかもしれないわね。
「構わないわ。時代も大きく変わってるしね。それで、実際はどうだったの?」
「まず、帝国の名はベルガンガ帝国。ルードウィヒ皇帝が収めているでござるが……」
「が?」
「おそらく魔術士か魔導士でござる」
「え? それ確か?」
「まず間違いないでござる。どちらかといえば、魔術騎士に近いようでござるが」
「それは……凄いわね」
この世界で魔導騎士や魔術騎士は、いまだに見たことがないわ。
魔導騎士は論外としても、魔術騎士も充分脅威よ。
昔であれば、レッドでも、魔石が無ければ押される可能性すらあるわ。
「ミレーヌ様基準で、魔術騎士レベルだと推測するでござるよ」
「なるほどね」
「続けるでござる。こちらでは帝国は新興国と認識されているでござるが、すでに100年以上の歴史を持つでござるよ」
「それは……随分と情報が交錯してるわね」
「それなのでござるが、ベルーア王国の東を流れる、大陸を分断するように流れる大河のせいでござる。橋もないでござるから、情報がまともに入らず、一部の冒険者の噂などが広まった結果でござる」
「なるほどね」
「特に、河向こうに乱立していた、小国家群の平定時期と重なるでござる。おそらくその時期に帝国が出来たという誤解が広まったのでござろう」
「つまり、その前から帝国は存在していたのね」
「そうでござる。そして、帝国と、その東の大国、ガルドラゴン王国と100年に及ぶ戦争を続けているでござるよ」
「まったく……懲りもせずというかなんというかね……」
私は、いまだ戦争という呪縛から抜け出せない人類に、心底落胆してしまう。
「戦争で疲弊しきっている帝国が、こちらの肥沃な大地を欲しがったのは当然でござるな」
「なるほどねぇ」
今まで帝国に対して、なんとなく感じていた違和感の正体がわかったわね。
どうして新興の国がわざわざ統治しにくい大河を渡ってきたのか、ずっと疑問だったのよね。
「ガルドラゴン王国の詳しい情報は、あまり手に入らなかったでござる」
「帝国よりさらに東じゃねぇ」
「大国であることは間違いないでござる」
「距離はかなりあるのよね?」
「あるでござる」
間に帝国もあることですし、基本的に関わり合いにはならなそうね。
「一つ、凄い情報があるでござった」
「え? 何かしら?」
「ガルドラゴン王国にはエルフがいるでござる」
「え! あの幻の!?」
「そうでござる。帝国にもわずかであるがいたでござった。この目で確認したでござる」
「それは凄いわね! 私も見たいわ!」
「どうやら、ガルドラゴン王国の東で、わずかに生き残っていたエルフが、少しずつ増えてきたようでござるな。詳細はわからないでござるが」
「エルフ……いいわねぇ……やっぱり美しいのかしら?」
「少なくとも、確認したエルフは美形でござる」
「はぁ……エルフさん、移住してくれないかしら」
住む場所ならすぐに用意するわよ!
「続けるでござる。現在、帝国は約束通り、大河向こうの町には、大規模な常備軍は置いてないでござる。治安維持に必要な兵力のみでござるな」
「それは良かったわ」
「東の大国、ガルドラゴン王国との睨み合いと小競り合いに注力しているようでござる」
「どうして戦争なんてやってるのかしらね……」
「帝国の国土の問題でござろう。まともな食料が育たない荒れ地ばかりでござる」
「それは辛いわねぇ」
もし、帝国さんが戦争をやめるのであれば、多少の援助は考えるのに。
でも、戦争してる国と仲良くする気は無いわ。
「シノブ。しばらくはゆっくり休んで。そうそう、ここが国になった話は知ってる?」
「もちろんでござる。帝国と王国でも話題になっていたでござるよ」
「大河向こうなのに?」
「注目度が高かったのでござろう」
「そんなものなのかしら?」
「ミレーヌ様はもっと、ご自身の事を知るべきかもしれないでござるな」
「うーん。ただの魔導士なんですけれどね」
「……女王でござるよ」
「……実感がないのよ」
実務のほとんどは、ブルーや長老会。それにティグレさんたちに任せっぱなしだしねぇ。
「とにかく、随分発展したから、しばらくは遊んでいいですからね」
「休養させてもらうでござる」
そういってシノブは部屋を出て行ったわ。
今まで黙っていたブルーが、お茶をお持ちしますと、一緒に部屋を出て行ったわ。
「帝国に王国ねぇ……ま。私には関係無い話よね」
もちろん。
そんな訳がなかったわ。
「ミレーヌ様、大変です」
出て行ったばかりのブルーが、血相を変えて戻って来たの。
「どうしたの?」
「ガルドラゴン王国から、使節団がやってまいりました」
「……え?」
どういう事?
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