第五章

第四十二話【私、出迎えます】


 — 第五章 —


 それはうららかな日差しの事だったわ。


「え? 領主様が?」

「はい。この地域を治めると自称するガラディーン辺境伯の使いがまいっております」

「あら大変。今は名も無き町のあたり?」

「いえそれが……すでに跳ね橋まで来ております」

「大変じゃ無いの! すぐにこちらからも使いを出して! あちらでは十分なもてなしが出来ないわね。申し訳ないのだけれど、こちらの迎賓室に招きましょう」

「それなのですが……」

「何か問題でもあるの?」

「それが、彼らは100人ほどの兵士を連れておりまして……それで現在は跳ね橋の向こうでお待ちしてもらっている状況なのです」

「……情報が遅いわよブルー」

「申し訳ありません!」


 頭を下げるブルー。

 名も無き町にも、簡単な検問はあるのだけれど、あちらは現地の人を雇用しているので、当然領主が通ると言えば、軍勢であっても通すしか無かったのでしょう。


「仕方ないわね、今シノブは帝国へ情報収集に出してしまっているものね」

「本当に申し訳ございません!」

「良いわ。とにかく全員をこちらに。時間的にこちらに宿泊する事になりそうね」

「城内に部屋は沢山ありますから、お泊めすること自体には問題は無いのですが……」


 ブルーの言いたいことは明白よ。武装した一団を我が家・・・に招き入れて良いものかという事ね。


「悩むわね」

「宿の確保も100人規模となると……」

「そうよね……」


 今、ミレーヌ町は好景気なの。

 目一杯の速度で宿も増えているけれど、それを上回る勢いで宿泊客が増えているわ。

 この世界ではあまり根付いていない観光客も押し寄せている。

 主にベル町からだけれどね。


 分散すれば100人も何とかなるとは思うけれど……。


「仕方ないわ。城の中に部屋を用意して」

「……かしこまりました」

「どこかで飲んでるレッドも呼んでおいて」

「提案がございます」

「なに?」

「シノブ以外の全てのメイドを集めましょう」

「わかったわ。でもダークには連絡がつくの?」

「幸い今日は町におります」

「それは良かったわ。任せるわね」

「承知いたしました」


 ブルーが音頭を取ってメイドたちに指示を飛ばすわ。

 あ、今この城にはかなりの数のメイドがいるの。

 量産型のメイド人形ではなくて、人間や獣人のメイドよ。なぜか猫獣人の人気が高くて、人間と半々くらいよ。ブルーが厳しく躾けているから、全員めきめきメイドとしてのレベルを上げているわ。

 一部のメイドであれば、それこそどこかの城に使えても問題無いレベルね。


 彼女たちは急いで客間の用意と、人数分の料理の確保に奔走してくれた。

 もちろん私は。

 ……待機よ!


「ミレーヌ! なんか大変な事がおきたって! じいちゃんたちも連れてきたぞ!」

「早かったわねプラッツ君。……あら? レイム神官も」

「や、やめてください! 今まで通り呼んでください!」

「そう? じゃあレイムさんで」

「はい!」

「悪い。ミレーヌ様が大変みたいだって話したら、着いてきちゃって」

「構わないわよ。長老会の皆様もありがとうございます」

「ちょっとまて! 俺を無視するなよミレーヌ!」

「ああ、ティグレさんもいたんですね」

「目立つだろ! 一番目立つだろ!?」

「冗談ですよ。ティグレさんも呼ぶつもりでしたので丁度良かったです」

「おう! 何でも言ってくれ!」

「とりあえず、黙っててください」

「相変わらずつれねぇな……」


 ティグレさんは虎種族の猛者ですから、いてもらえるだけで威嚇になるでしょう。


 てんやわんやでなんとか準備を終わらせた頃に領主様であるガラディーン辺境伯の使者一行が現れたわ。

 するとティグレさんがぼそりと呟いたの。


「ありゃかなりの精鋭だぞ」


 先頭に10名ほど使節らしき服装の方がいて、それに混じってかなりの偉丈夫も見えたわ。立派な武具からして相当の地位があるように見受けられるわ。

 さらに続く100名ほどの兵士も、揃いの装備で隙が無い感じだわ。


「ねぇティグレさん、確かに強そうですけれど、精鋭と断言する理由ってありますか?」

「隊列だな。見ろ、広い直線だけでなく、噴水を迂回するときも、歩調が完全に一致してる。行軍の優秀な軍隊は皆優秀だ。それに……」

「それに?」

「俺の感がそう言ってる」


 ティグレさんがニヤリと笑ったわ。

 ……怖いわ、その笑顔。


 こちらが送った案内役が、使者一行を案内してくる。

 私たちは城のまえで出迎えたわ。

 こっそり唱えた風魔法で、彼らの声を拾ってみる。


「——信じられませんな。本当に城があるとは……」

「ここは本当に未開の土地だったのですか?」

「わからんが、重要なのはそこではない。ここにこれだけの勢力があるという事だろう」

「確かに」

「ベルーア国王の意に沿うよう最新の優位を払わなければな」

「そこは私にお任せください。ただ、いざという時は……」

「わかったいる」


 私に聞こえないと思って好き勝手言ってるわねー。

 変な事にならなければ良いんですけれどね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る