第四十三話【私、驚愕です】


「お初にお目にかかります。私はベルーア王国ガラディーン・ベステラティン辺境伯の元で宰相を務めさせていただいております、ペストン・ラーゼオン宰相と申します」

「初めましてラーゼオン宰相。私はこの町の代表を務めさせていただいているミレーヌ・ソルシエと申します」

「代表が女性とは驚きました。ああ、私の事はペストンとお呼び下さい。突然の訪問にも関わらず、手厚いお出迎え感謝いたします」

「とんでもありません。当然のことですわ」


 ペストン宰相率いるガラディーン辺境伯の使節一行様が突然訪れたのはまだ良いのですが、一行を城に招き入れ、迎賓室に案内したときに、最初のトラブルは起こったわ。

 ハウスメイド型メイド人形のサファイアに対して、なんと使節団は連れの兵士全てを入れたいと申し入れてきたの。

 確かに迎賓室は100人入っても大丈夫なくらいの広さを持っているけれど、そんなことしたら、ぎゅうぎゅう詰めよ。やんわりお断りするも、しばらくは強行にそれを主張してきたわ。

 そのやり取りをきいていたティグレさんが、口添えをしてくれなかったらどうなってたか。


「ベルーア王国側の主張は了解した。だが、こちらもある程度の人数を入れなきゃならんし、どうだろ、そちらも数を減らしてみては?」

「なるほど、それでは護衛は二十名に減らしましょう」

「ご理解いただき、ありがてぇぜ」


 それでもかなりの人数で、現在は、迎賓室らしい、縦長のテーブルの両端に、私とペストン宰相が座り、そのサイドに各々代表者が座っているわ。

 こちらは私、プルームさんを初めとした長老会の面々。プラッツ君。レイムさん。ティグレさん。

 私の背後にブルーとレッド。ベルーア使節側にサファイアとアイオライトがメイドとしてお茶などを運んでいるわ。

 私の側は、城勤めのメイドさんで一番優秀な二人をつけたわ。


 痩せた白髪交じりのペストン宰相のサイドに座るのは、見るからに偉丈夫の壮年男性。宰相に促されて自己紹介を始めたわ。


「我はベルーア王国で将軍職を務めさせていただいているオーコーゼ・ガンダイルと申す。序列で言えばペストン宰相より上に当たるが、政治的交渉ゆえ、今回の責任者はペストン宰相に全てを一任している。私はただの護衛隊長だと認識してもらって結構」


 歴戦の勇士を思わせる風貌だとは思っていたけれど、まさか辺境伯の部下では無く、王国の将軍とはね。


「マジかよ……なんでみやこの将軍が……」


 あまりの驚きにプラッツ君がつい零したけれど、すぐに自分の口を両手で塞いだわ。

 彼らの要望はある程度想像がつくけれど、まずは話を聞いてみないとね。


「それでは本日起こしになられたご用を聞いてもよろしいでしょうか?」

「ええ。要件は単純で、徴税に来ただけですよ」

「徴税」


 私はその単語を繰り返した。来る物が来たって感じね。


「ええ。王国の庇護下にある全ての町に課せられた義務ですから」

「なるほど」


 まぁしょうがないわね。

 今日までは税金らしい税金が無かったから、好き放題開発出来たんですけれど、これからは停滞しちゃうかしら?


「まず、基礎となる税金が70%と……」

「え!?」


 しまったわ。まだ話の途中なのに思わず叫んじゃったわ。

 だって70%っていくらなんでも暴利じゃないの!?


「……続けても?」

「はい……失礼しました」

「基礎税金が70%に加えて、滞納金が70%に対して150%掛かります」


 は!?

 どういうこと!?


「さらに、王国法違反。通貨の偽造・・に関しての罰金が発生します」

「……」


 もはや言葉も出ないわ。


「……と言いたいところですが、こちらの町が発達したのはここ1年前後だと聞いております。滞納金に関しては免除しても良いとベルーア国王陛下よりありがたい言葉をいただいております」

「それは……ありがとうございます」

「その条件としまして」


 来たわね。


「こちらの通貨をベルーア王国の準通貨として認め、その全てをベルーア王国の管理下とし——」

「ちょいと待ちな」


 無表情で条件を並べ立てていたペストン宰相の言葉を遮ったのはティグレさんだったわ。

 まさかと思うけれど、殴りかかったりしないわよね?

 ティグレさんが視線で私に言葉を続ける許可を求めてきたので、私は小さく頷いたわ。


「その前に一つ聞きてぇんだが、いつこの町がベルーア王国の支配下になったんだ?」

「……なんですと?」

「この辺りは知っての通り、元々は僻地。俺等みたいな蛮族・・が住んでいた地域だぜ?」

「それに関しては元々この地域はベルーア王国の土地と定められていますゆえ」

「それじゃあ理屈が通じねぇな。ここ10年……いや、タイグー村に徴税官がやって来た事なんて1度もねぇよ」

「それは国税が発生するほどの収入が無いので、慈悲により免除されていただけで……」

「そもそも王国はこの地域に管理官の一人でも派遣したことがあるのか?」

「そ! そうだ! 俺が生まれてから一度だって都から使者が来た事なんて無いぞ!」

「うむ。私が村長をやっていた時期に関しても、そういった者が訪れたことはなかったのじゃ」


 ティグレさんに乗っかって、プラッツ君やプルームさんも自己主張し始めたわ。

 あんまり良い流れじゃ無いわね。

 私が口を挟もうとしたのだけれど、ティグレさんがその大きい手で私の言葉を遮ってきたの。


「いいか宰相? 地図で勝手に主張しただけじゃ、自分の領土なんて言えねぇんだぜ?」


 ギラリと虎種族特有の鋭い視線を宰相に飛ばすと、わずかにペストン宰相が身を引いたわ。


「ほう? ならばこの町はなんだというのだ? 誰の収める土地だというのだ?」


 ティグレさんの眼力をまるでものともせずに問い返してきたのはオーコーゼ将軍だったわ。


「くくく……この土地のほとんどの村はミレーヌ町に統合されたんだ。だったら決まってるだろ。ミレーヌが領主だ」

「ほう」


 待って。私そんな主張したことないわ!

 長老会のみんなも頷かないで!

 ブルーも!


「ならば!」


 びくぅ!

 突然オーコーゼ将軍が大声を上げて立ち上がったわ!

 怖い!


「お前たちは王国にあだなす謀反人というわけだな! その首魁であるミレーヌを捕らえろ!」


 部屋にいた20人の兵隊さんが私に襲いかかろうとしてきたの!

 ブルーとレッドが咄嗟に私の椅子を引き、目の前に立ち塞がったわ。これは争いになる! と思ったのだけれど。


「静まれぃ!」


 オーコーゼ将軍を上回る咆哮のような怒声が部屋中に響いて、動き出していた兵隊さんたちが思わず立ち止まったほどよ。

 声の主はもちろんティグレさんよ。


「聞けぇ! いまここにこの地にて! ミレーヌ神聖王国の樹立を宣言する! 女王の前ぞ! 控えんかあぁ!!」


 え!?

 何言ってるの!?


「ミレーヌ……神聖王国だと?」

「そうだ! レイム神官! 説明を!」

「は、はい!」


 ティグレさんに促されて立ち上がったのは、なんとレイムさん!?

 え? え? 何がおきてるの!?


「わ、私レイムはルーシェ教神官長ロドリゲス・エボナより言付けをたまわっております!」

「ルーシェ教だと?」

「はい! ルーシェ教は教皇ポープ枢機卿カーディナル総大司教パトリアーク首都大司教メトロポリタンの全員一致にて! ミレーヌ・ソルシエ様を聖女と認定いたしました!」

「なんだと!?」


 聞いてないわよ!!!!!!


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