幕間
幕間【俺、行きました】
長いこと冒険者をやって来て、その果てに行き着いたのが宿場町ベルという町だった。
そこは
ある日、仕事が終わった後の酒場での事だった。
この町に来たとき、パーティーに誘ってくれた仲間たちと半ば固定パーティーになっていた。その仲間たちと飲んでいるとき、リーダーがこう切り出した。
「なあ、みんなはもうミレーヌ町の噂は聞いているよな?」
「ああ。なんか凄い町らしいな」
「ここより凄い町ってのも想像つかないんだけどな」
「ほら、こないだ行ったレストランあるだろ?」
「出来たばっかりのデカいレストランな。あそこ滅茶苦茶美味かったよな」
「その割に結構リーズナブルだった」
「この町にいる人間の稼ぎなら、毎日行けるくらいだもんな」
「噂が広がって、行列がすげぇけどな」
「まぁ、味の話は置いておいて、あそこのコックな、ミレーヌ町から来たらしいんだ」
「へえ……」
「それとあそこの食材の大半がミレーヌ町から仕入れてるらしい」
「マジかよ」
「肉も野菜も安くて美味かったな」
「まぁとにかく、それだけ安く輸出出来るだけの町って事だ」
「それは良いんだが……何が言いたいんだ?」
俺は遠回しにしゃべるリーダーに先を促した。
「つまり……、行ってみないか? そのミレーヌ町に」
「「「……」」」
仲間たちが黙り込む。
それはそうだ。現状不満があるわけじゃない。だが俺はキッパリと言った。
「良いぜ」
リーダー以外の仲間たちが俺へ一斉に振り向いた。
「……そうだな。別に稼げなかったら戻ってくりゃ良いだけだし」
「昔と違って貯金もありますしね」
「冒険者で貯金とか、今までなら信じられんよな」
「良いんじゃ無いか? ほら、観光だと思って行ってみりゃ」
「よし。決まりだな。明日にでも向かおう」
「「「おう」」」
こうして俺たちは噂のミレーヌ町に向かうことにした。
◆
まず向かうのは、険しい山脈沿いに、新たに出来たという名も無い町だ。
どうもミレーヌ町に向かうには、山脈を縫う一本道を行くしかないという。その入り口に旅人目当ての宿などが乱立して町になっているらしい。
その名も無き町までは、広大な森を抜ける必要がある。
だが……。
「マジかよ……」
「すげぇな。なんだこれ、滅茶苦茶だぞ」
「一体いつの間にこんな道が出来てたんだ?」
ちょうどミレーヌ町まで向かうという
隙間無く敷き詰められた石の街道も凄いが、その幅も凄い。大型の馬車が四台はすれ違えるような道なのだ。
しかも引っ切りなしに馬車や商人とすれ違う。ミレーヌ町方面からやってくる馬車はどれも荷物が山積みだった。
それだけでは無く、定期的に冒険者の一団とすれ違うのだ。
「ありゃなにしてるんだ?」
「ああ、あれはこの街道の警備をしているんですよ。冒険者ギルドの仕事にありませんでしたか?」
「そういやあったな。魔核狩りに比べると安いんで受けたことは無かったが……」
うちのパーティーは、かなり戦闘力の高い構成だったので、危険なダンジョン探索がメインだった。
何より最奥にあるであろう魔核だまりは冒険者の夢でもある。
「おかげでこの街道はかなり安全なんですよ。あなたたちも馬車に便乗するかわりに無料で護衛してくれるという条件だったからお願いしたんです」
「ああ、だからか。商隊は多いのに護衛の仕事がほとんど無かったのは」
「ええ。この街道の安全性を知らない新参が依頼する程度ですね。まぁ高価な品を扱う商人は依頼するでしょうが、普通信頼しているパーティーを名指しでしょうし」
「なるほどな」
それにしてもだ。
たしかに魔核狩りに比べれば安いといっても、すれ違う冒険者の人数から、相当な金が掛かっているはずだ。一体誰がそれを出しているのか。
「ああ、全てミレーヌ町ですよ」
「マジか……」
どうやらその町、噂以上の経済力を誇っているらしい。
「ああ、あれが入り口の町ですよ」
「入り口の町?」
「ええ。名前が無いので商人連中でそう呼んでるだけです。今日はここで一泊します」
「了解だ」
仮設の掘っ建て小屋みたいな宿屋が数多く並び、それに合わせて大量の馬車や、トカゲ車が並んでいた。
その中で一つだけ巨大な建築物があった。
「なんだありゃ?」
「ああ、あれは移民局ですよ。ミレーヌ町への移民希望者は、あそこで登録します」
「へえ……俺たちは町に入れるのか?」
「私が護衛随伴の許可がありますし、ベルの町の冒険者なら、普通に行っても簡単な審査で入れるはずですよ」
「そうなのか」
「ただ、町の中でトラブルを起こすとすぐに追い出されるらしいですよ」
「そりゃ気をつけないとな」
冒険者なんてトラブルの塊だ。
観光にしても仕事にしても、追い出されたらたまらない。
俺たちは宿では無く、馬車で荷物番である。
仲間に悪さをする奴はいない。もしそれが発覚したら二度とベルの町で仕事が出来なくなるからだ。
もっとも馬車の大半は空っぽだったのだが。
普通キャラバンと言えば、行きも帰りも荷物で埋めたがるのだが、どうやら向こうから荷物を運び出すだけで結構な金になるようだ。
ますますどんな町が気になってしまう。
次の日、まるで垂直に伸びるような岩山を切り出したような一本道に出たのだが……。
「ここもすげぇな」
「ああ。これって人力で切り拓いたのか?」
「いえ、噂ですが、元々細い道はあったそうです。ですが急遽拡張されたそうですよ」
なんと硬い岩盤が盛り上がったような岩山を、馬車四台がすれ違えるほどの幅に広げてあるのだ。
国の工事でもなければ、普通こんな大規模な工事は出来ないだろう。
「なんでも1万人規模の大工事だったらしいですよ」
「そりゃ凄いな」
「しかも工事が終わった後は、なんでもミレーヌ町にほとんどの人間が移住したとか」
「マジかよ」
「ええ。働いていた人には優先の移住許可が出たらしいですからね」
「それにしたって1万人も受け入れられるのか? この奥って秘境だって聞いてたが……」
「それは……見た方が早いかもしれませんね」
商人は面白がってか、細かいことは教えてくれなかった。
想像ばかりが広がってしまう。
ベルの町を上回る活気と、無秩序に拡張されていく町。
そんな新天地を思い描いていた。
現実は予想を裏切った。
「なんだこりゃ……」
「こんなの見たこともねぇよ……」
まず驚かされたのが、大地を切り裂くような深い渓谷に渡された、巨大な橋だった。
大型馬車が二台はすれ違える巨大で長い橋というだけでも驚愕だというのに、どうやらこれが跳ね橋らしいという事だ。絶句してしまう。まさに言葉が出ない。
橋の手前で、手続きを終えると、ようやく町の中に入ったのだが、ここも全く予想と違う空間だった。
整えられた道。建物。それどころか景観を考慮してなのか、所々に緑が生い茂り、都にでも行かなきゃ目に出来ない立派な噴水まであった。
噴水広場の回りでは大道芸人が踊り、そこかしこで音楽が流れ、そこはまさに、そう。理想都市だった。
「俺ここに住むわ」
リーダーがぼそりと言った。
まだどういう町かわからないのにだ。だが気持ちはわかる。
その後、キャラバンが宿に入り、護衛の仕事を終える。
ゴブリン1匹出てこない楽な仕事だった。もっとも金にはなっていないが。
こうして俺たちはミレーヌ町へとやってきたのだった。
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