第四十話【私、息抜き大好きです】
「だいぶ馬も二足トカゲも増えたわね」
「はい。外から購入している数も多いですが、現在順調に繁殖、育成しております」
「それは良かったわ」
「ミレーヌ町で生まれ育った馬や二足トカゲは、外のものより大分屈強だという事で、商人たちが購入の順番待ち状態です」
「あら、それは良かったわ。最初の計画通り、半分は町で使って、半分を販売に回してね」
「心得ております」
この辺は、ミレーヌ町に定住したアキンドーさんに任せておけば良いわね。
彼が移住してくれて本当に助かっているわ。
今では各ギルドの相談役としても忙しいようよ。
「ミレーヌ様ー! ちょっといいか?」
「あらオレンジ、どうしました?」
「ちょっと手が空いたんで、ミレーヌ様専用の馬車を作ったんだ! 時間があったら試乗してくれよ!」
「良いわね。見せてもらえるかしら」
「おう! こっちだよ!」
オレンジに案内されて巨大な工房へ行くと、そこには白塗りの立派な箱形馬車が鎮座していたわ。
うん。装飾も派手すぎず、寂しすぎず。さすがね。
様々な樹液などを配合したコーティングをしているので、汚れ対策もばっちりよ。
「素晴らしい出来ね。そうだ。せっかくですから、橋の建築現場に行ってみましょうか」
「橋にはラナンキュラスがいるから、向こうで馬車の点検をしてもらってくれよ! 手抜きはしてないけど走らせてみないとわからないこともあるからな」
「わかったわ。それじゃあブルー行きましょうか」
「承知しました。アイオライト。あなたが御者をしなさい」
「わかりました」
ハウスメイドの量産型であるアイオライトが巨大馬車に四頭の二足トカゲをセッティングして、街道を走らせたわ。
今は四人乗りにセッティングしてあるけれど、椅子を組み替えたら最大八人まで乗れるらしいわ。
今は居住性重視よ。
ミレーヌ町の中心地と外界を隔てる入り口、深い渓谷を渡す橋のある地域まで、たったの一時間で到着したわ。
「早かったわねー」
「街道が真っ直ぐに、かつ隙間の無い石畳になっていることと、耐久力のある二足トカゲの四頭立て馬車の組み合わせですからね。相当速いと思います」
「道幅も将来を見越してかなり広く作って置いて正解だったわね」
街道はそれでも賑わっていたが、私の所在を示す旗を見た街道の人たちは、喜んで道を空けてくれたわ。
本当にありがたい事ね。
到着したミレーヌ町の入り口は、その様相を一変させていたわ。
ジャングルの深い木々で埋め尽くされてた大地は、大きく切り拓かれ、もはや原形を留めていなかったわ。
もちろん、地盤の保持などを考えた計画的自然保持は万全よ!
オレンジが設計したからね!
自然公園と文明の美しい調和がそこにあったわ。
まさにミレーヌ町の入り口として相応しい作りになったわね。
もっともこの空間で最も存在感をしてしているのは、その巨大な
天に向かって屹立する白亜の巨柱。
それが二本。
飾り付けが施された橋の鎖を巻き上げるための巨大な歯車。
それはまるで月夜の海原のごとく、心に突き刺さる存在感があるわ。
「あっ! ミレーヌ様! お久しぶりです!」
丁度その歯車の調整をしていたオレンジ色の製造メイド人形、ラナンキュラスが私に気付いてこちらにやって来たわ。
「お疲れ様、もう完成間近ね」
「ああ! 見ての通り、橋の往来は始まってるぜ!」
「跳ね上げ機構はあとどのくらいで完成するの?」
「うーん。遅くても一週間かな」
「流石ね。ラナンキュラス」
「へへへ」
この町には、沢山の音楽が流れているわ。
ギターさんの音楽が受け入れられたのをきっかけに、各地から、音楽家が集まるようになったの!
今までは耳すら貸さなかった彼らの音楽に耳を傾け、それが本当に良いメロディーかどうか、耳の肥えた住民たちが銀貨という形で判断していく。
そういう流れが出来ているの。
この区画で認められると、自動的に私の所へ情報が流れるようになっているわ。
今ではギターさんは一種のカリスマとして、ロックという新しいミュージックの先駆者となっているの。
何度かコンサートを開いてもらったのだけれど、どれもが盛況だったわ。
苦労して巨大演劇場をを作ったかいがあったわね。
もちろん、こうやって定期的に訪れて、自らの耳で新しい音楽を探す事も欠かしていないわよ!
むしろそれだけやって暮らしたいわ!
ありふれた歌から、斬新な曲、流石に雑音でしかない声と、色々聴いて回ったわ!
「ミレーヌ様。帰ったら行政の書類が待っていますからね?」
「わ、わかってるわよブルー」
台無しよ!
そんな私の息抜きの途中、変わった物を見かけたの。
それは絵画?
と言うには余りにも不思議な物だったわ。
一見すると落書きに見える
広げたゴザの上に並ぶ数々のキャンバス。
そこに描かれていたのはあまりにも原色で書き殴ったような、不思議な絵だったわ。
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