第三十七話【私、大興奮します】
その冒険者は改造リュートを激しくかき鳴らしていた。
余りにも早い指さばきを実現させるためか、指で直接弾くのでは無く、三角に削り取った銀貨で弦を弾いていたわ。
吟遊詩人の語りを邪魔しないように流れる、ゆっくりとしたメロディーとは真逆に激しく胸を打つメロディーだった。
一聴すると、ただの乱雑なノイズに聞こえるけれど、私には聞こえるわ! 彼の魂のメロディーが!
「俺の声を聴けええええぇぇぇぇぇえええええ!!!!」
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やってらんねぇ! 冒険者なんて!
だがな! 俺にゃこれしかねぇんだよ!
雑魚で悪いか! ゴミで悪いか!
俺だって懸命に生きてんだ!
シャーラップ! 口を塞ぎやがれこんちくしょう!
俺は生きてる! 生抜いてやる!
燃えろ心臓! 天を焦がせ!
Burning! Burning!
轟け星まで! 魂よ!
シャーラップ! 口を開くんじゃねぇこんちくしょう!
俺はやってやる! やりきってやる!
燃えろ心臓! 天を焦がせ!
Burning! Burning!
轟け星まで! 魂よ!
Burning! soul!!!!!(※シャウト)
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私はその力強い歌声に、手が痛くなるほど拍手したわ!!
素晴らしい歌声よ!
確かに技巧としては稚拙な部分もあるけど、そんな物を吹き飛ばす、まさに燃える魂のメロディーだったわ!
「凄い! 凄いわ! 最高だったわよ!」
私が興奮気味にその冒険者に近づくと、彼は目を丸くしながら、握手に応じてくれたわ。
「お、おう……」
「今まで聞いたことの無い、心を打ち抜く様な歌詞とメロディー! 私はとても感動しました!」
「そ、そうか? 今までそんな風に言われた事なんてなくてよ……」
「まったく新しい音楽だからみんな戸惑ってるだけよ! 最高だったわ! ……ただ一つを除いてね」
「な、なんだ? やっぱりミレーヌさんにはこの楽器はうるさかったか?」
「違うわ。あなた少し酔ってるわよね?」
「あ? ああ、まぁな。酔った勢いでやっちまった」
「それよ! それがもったい無いわ! あなたはこの音楽と真剣に向き合うべきよ!」
「向き合うべきって言われてもよ……俺はしがない冒険者で……」
「うんうん。わかるわ! 大丈夫! 今日から冒険者をやめて大丈夫よ!」
「は??」
「この音楽はハングリー精神から生まれた物と思うけど、冒険者と兼業じゃあ、曲を練る暇もないわよね!」
「あ、ああ……まぁな……」
「あなた! お名前は!?」
「ふへ!? お、俺の名はギター・ロックだ」
「いいわね! この楽器! ギターという名称にして売り出しましょう!」
「なんだって?」
「安心して! うちのメイドに任せておけば最高の楽器として完成してくれるわ!」
「そ、そりゃいいんだが……」
「その製作と販売権利を私が買いましょう! それで当分冒険者として仕事をしなくても大丈夫よね?」
「け、権利!?」
「金額はあとで相談しましょう。大丈夫よ。納得する金額にするから!」
「そ……そりゃありがたいが……」
「それであなたはこの音楽をもっともっと高めるの!」
「え……?」
「この曲が高まったら私の所に来て! 出来が良ければ演奏会を開きましょう! もちろん出演料は出すわ!」
「え……え??」
「さらに曲が出来る度に必ず来るのよ!? ただしちゃんと魂のこもった曲を作るのよ?」
「そ、そりゃ……作曲する以上は……」
「決まりね! とりあえず今日はこれだけ渡しておくから、もっと聞かせて! もし別の曲があるなら全部お願いね!!」
「あ……ああ……ってこんなに!?」
「あなたの歌にはそれだけの価値があるわ! 遠慮しないで受け取って!」
「あ、ああ! よしっ! んじゃまぁ気合い入れて歌わせてもらうか!」
「そうよ! その調子よ! あなたの魂を私に聞かせて!!」
私は周りの様子が全然見えてなかったけれど、私のはしゃぎっぷりをみて、それまで貶していた住民たちも、一緒にリズムを楽しむようになっていたそうよ。
そして音に慣れてくると、不思議とみんな足踏みをしたり、指を鳴らしたり、歌を覚えてくると一緒にシャウトしたり、町は一気に新しいリズムに溢れたわ!
もちろんその夜中まで続いた演奏会を楽しんだことは言うまでも無いわね!
そしてこれがきっかけで、今まで世間で受け入れられなかった様々な歌や音楽がこの後、ミレーヌ町に持ち込まれるようになったの。
素晴らしいわ!
こうしてミレーヌ町は音楽に包まれる町と進化していったのよ!
さいこー!
私の歌も聴いてー!
「……ミレーヌ様は聴くだけがよろしいかと存じます」
……泣くわよ? ブルー。
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