第三十一話【私、広げます】


「初めまして、私は宿場町ベルの冒険者ギルド長、ベドウィン・ガーランドと申します」


 冒険者のレドーンさんとジャッカルさんを町に帰してからしばらくしてからの事だったわ。

 十人の団体さんが私の町に訪れたのは。


「こんにちは。私はミレーヌ・ソルシエと申します。こちらが長老会のプルームさん。そしてそのお孫さんのプラッツさんです」

「これはご丁寧な挨拶痛み入ります」


 やってきたのはレドーンさんとジャッカルさんが拠点にしている宿場町ベルの冒険者ギルドの一団よ。

 今自己紹介してくれた冒険者ギルド長のガーランドさんの他にレドーンさんとジャッカルさんの二人。

 さらに護衛でしょう、五人の武装した男女。恐らく冒険者と言われている職業の方。

 残りの二人は恐らく身の回りのお世話をする使役人か何かでしょう。明らかに服のグレードが落ちるわ。


「しかし驚きましたな。この陸の孤島はジャングルしかない場所だと思っていたんですが、まさかベルの町を上回る町が完成していたとは」

「これでもまだまだ建設途中なんですけれどね」


 今私たちがいるのは公民館よ。

 ガーランドさんと二人の護衛が一緒にいるわ。もちろん武器は入り口に置いてもらっているわよ。

 こちらはいつものメンツ。私、ブルー、プルームさんにプラッツ君よ。


「町の中心にあるのは噴水ですな。彫刻も凝っていて、目を疑いましたよ」

「あら、あの良さがおわかりに?」

「私が得意なのは荒事なので、詳しくはわかりませんが、癒やされる造りですなあ」

「それは嬉ですね。造った者に伝えておきましょう」

「あれは購入したものでは?」

「いえ、この町で作製したものですよ」

「それは凄い! ……さて、そろそろ本題に入りましょうか。ある人物からこの様な物をいただいたのですが」


 そう言ってガーランドさんが懐から取り出したのは、ダークに持たせたお手紙だったわ。

 別に外の二人が逃げ出そうとしたからというわけではなく、最初から責任者に渡すようの手紙を用意しておいたの。ハッキリ言ってお二人に任せておくのは不安だったしね。


「中身は多岐にわたっていましたが、ようは冒険者ギルドと繋ぎをつけたいということでよろしいか?」

「はい。少々事情がありまして、この地域より外のことに疎いものでして。協力者がいると心強いでしょう?」

「そのご事情というのはお聞きしても?」

「そこは聞かないでいただければ」

「わかりました。とりあえず、私たちに何をお求めか? 対価は……この”紙”だそうですね」

「はい。製法はお教え出来ませんが、役に立つかと」

「立ちますね。”紙”自体は都に流通しておりますし、ギルドでも少量ですが使用しています。これを大量に?」

「大量というのがどの程度をさすか次第ですが、必要であれば生産数を増やしますよ」

「なるほど」

「私どもが求めるのは、魔核と情報、それと外との安全な交流ですわ」

「……なるほど。ギルドにその仲介役になれと」

「お話が早くて助かります。冒険者ギルドというのはやはりかなり大きな組織のようですね」

「それなりに影響力はあると自負しておりますな」

「それは頼もしいことです。初めはあまり硬くならず、お互い交流を始められればと思っていますわ」

「なるほど。たしかにお互いを知るのは大事ですな」

「そこで提案なのですが……」


 私が出した提案。

 それは宿場町ベルとミレーヌ町の街道の整備よ。

 冒険者ギルドにその権限があるかはわからないけど、きっと繋ぎを取ってくれるでしょう。


 それと通貨取引。

 外と違う通貨が流通してしまったいま、両替は必須ですからね。

 見本の通貨を見せると、ガーランドさんはその品質に驚いていたわ。これなら問題無く話は進むでしょう。


 もう一つ魔核が欲しいことを伝えたわ。

 お互い通貨が流通しあうのには時間が掛かるので、相場よりも高い紙での取引を提案したわ。

 こちらも快く了承してくれたわ。


 こうして……ミレーヌ町は外との繋がりを得て、一気に発展していくことになるの。

 それはもう、急激に。


 ◆


 ——。

 ————。


 都から離れた宿場町ベル。

 噂を聞いた冒険者たちがそこに訪れると、そこは信じられないほどの好景気だった。

 とにかく魔核が足りない!

 冒険者ギルドの掲示板には魔核を求める依頼が山のように張り出され、周辺のゴブリンやオークといった魔物が駆逐される勢いだという。


 仕事を求めてベルに来た冒険者たちはそこで不思議な噂を耳にする事になる。

 それは『山脈を抜けた陸の孤島に楽園がある』と……。


 その町の名はミレーヌ。

 奇蹟の町ミレーヌの噂だった。


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