第三十話【私、冒険しません】


「ミレーヌ、どうするんだ?」


 二人の賊を前にめきめきと筋肉を膨張させる虎獣人のティグレさん。


「ねぇプラッツ君。こういう時って村ではどうしてたの?」

「八つ裂きだな!」

「ティグレさんには聞いてません」


 タイグー村では犯罪が無かったのかも知れません。


「うーん。大体はじいちゃん……プルームじいちゃんが処罰を決めていたぜ」

「なるほどね」


 さすがに法整備までは手が回ってないのよね—。

 基本ルール作りはしてあるけど、一般常識の範囲を教えているだけで、罰則を決めているわけじゃ無いのよね。


「ではプルームさん。どうしたら良いと思います?」

「それは女神様が決めてくださって良いですじゃ」

「そうねぇ……」


 私の町という自負も少しはあるし、頑張って決めましょうか。

 ……そうだ。


「ねぇあなた、レドーンさんよね?」

「なっ!? なんで名前を!?」

「さあなぜでしょう? そちらはジャッカルさん」

「!?」

「お二人は、冒険者という傭兵なのよね」

「……傭兵とは違う。魔物退治や、腕っ節系の何でも屋みたいなもんだって説明したろ?」


 誘導尋問には引っかからなかったわね。では彼の言うとおりの職業の可能性が高いわね。


「冒険者というのはそれぞれが勝手に名乗るものなのですか?」

「いや、冒険者ギルドに所属する……」


 レドーンさんは一瞬言い淀んだが、それに気付いたティグレさんが牙を剥いたのに気付いて、ぼそぼそとしゃべり出した。


「冒険者ギルドは、都が始めた組織で、今ではちょっとデカい町なら大抵その支部があって、色々援助を受けられる」

「ならず者の集まりなの?」

「半分はイエスで半分はノーだ。今まで犯罪をするしか無かった連中が、冒険者ギルドで仕事をもらえるようになった。仕事料は安いが、鉄武器を購入出来たりの特典もあって、冒険者になるやつは多い。だから荒っぽいのが多いのは事実だが、立派な職業だ」

「その一員が完全な犯罪をしちゃったら何かしらの罰則があるのではない?」

「ぐっ……」


 やっぱりね。

 どうもその冒険者ギルド、犯罪者の受け口と、管理機関として機能している気がするわね。


「そうね……ではこの犯罪行為を見逃す代わりに、その冒険者ギルドの責任者をここまで連れてきてくれるかしら?」

「なんだって?」

「あなたは都の冒険者ギルドで一番偉い人と会ったことは?」

「あるわけねぇだろ! そもそも都には護衛の仕事でたまに行く程度だ!」

「あなたが普段いる所ってどんなところ?」

「このジャングルに繋がる山道があるだろう? こっちのジャングル側から山道を抜けると深い森があるんだが、それを抜けた先に、そこそこでかい町があるんだよ。森とダンジョン・・・・・には魔物が多い事と、街道町だから、人や冒険者が集まるんだよ……」


 また新しい単語が出てきたわね。


「ダンジョンってなにかしら?」

「見た目がアリの魔物を知ってるか? ジャイアントアントって言うんだが」

「いえ。初耳よ」

「地下の魔核溜りで大量発生するらしんだが、そいつらが地下に作った網の目のような地下溝の事をダンジョンっていうんだよ。なぜか他の魔物も住み着くんだ。ほっとくとどんどん拡張しちまう」


 新種の魔物かしら?

 地下の魔核溜りというのは、魔核鉱山に似たものかも知れないわね。


「それって放っておくと大変じゃ無い?」

「ああ、だから冒険者が間引きの意味も含めて中に潜って、魔物退治をするんだよ。運良く一番奥の魔核溜りまでたどり着ければ一財産だからな。一攫千金を狙うヤツも多い」

「なるほどね」


 魔核の塊は少し興味があるわね。


「じゃああなたはその街道町の冒険者ギルドには顔が利きます?」

「……まぁそれなりには」

「ではそこの責任者を連れてきてくれれば、今回の件は不問にします」

「それは……!」

「がんばってくださいね?」

「ぐっ……」

「ダーク……あの黒っぽいメイド服の子を一緒に行かせます。交渉の時間もあるでしょうし、そうですね、その町に入って六日以内に、責任者を連れてこちらの町に向かわなければミッション失敗と言う事で、今回のことを記した手紙をダークに冒険者ギルドへ届けさせます」

「み……未遂じゃねーかよ!」

「その辺を判断するのは向こうねぇ」

「ぐぬぬ!」

「あ、そうそう。もしあなたたちのどちらかでも、向こうの町を出てしまったら、逃亡したとしてすぐに手紙を届けさせますからね」


 二人の冒険者がうな垂れているのを見ながら、プラッツ君が呆れた顔をこちらを向いた。


「ミレーヌはよくこんな短い時間でそんな戦法考えつくなぁ」

「あら、プラッツ君もこのくらい考えられるようにならなきゃだめよ? 私の一番弟子なんですから」

「一番弟子!」

「そうよ? 私、人にものを教えるの初めてなんですから、師匠の名前を貶めないでね?」

「おっ! おう! 任せとけ! 俺は天才だからな!」


 うんうん。調子に乗らずに頑張ってね。


 次の日、手紙を持ったダークと一緒に二人の冒険者は街道の町へと戻っていった。

 そうそう、念の為言っておくと、彼らが不穏な動きをしていると教えてくれたのは、アキンドーさんの後をつけさせておいたダークが知らせてくれたからよ?


 本当に私のメイドは優秀ね!

 ……私いらない子かしら?



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