第二十一話【私、視察します】


「凄いわ! とうとう完成したのね!」


 目の前に並ぶのは、シノブ以外のメイド人形全員だ。

 そして、揃いのメイド服を身に纏っていた。


「素晴らしいわ! やっぱりメイドはこうでないと!」

「ありがとうございます」

「……でも、一つだけ気になるわ」

「なんでしょう?」

「どうしてグリーンだけ今まで通りなのかしら?」

「いえ、グリーンはそれが良いと……」

「……本人がそれでいいなら、まぁいいわ」


 グリーンはそこまで人前に出るわけじゃ無いし、あのニコニコとした満面の笑みを見たら、ね?


「グリーン。普段はそれで良いけど、私が命じたときはメイド服を着るのよ?」

「はーい」


 のんびりとした返事をもらったので、絶対着てくれないというわけではなさそうだ。


「じゃあ服の管理はブルーに任せるわ」

「はい。それではミレーヌ様の新しいお召し物をお着せしますね」

「頼むわね」


 完成したのは麻から作り出した最高のリネンのドレス。

 町に流通しているリネン生地と違い、徹底的にオレンジが手を入れた、最高の中の最高だ。

 リネンとは思えない滑らかな肌触りが気持ちいい。

 また特別な織り方で通気性も抜群だ。


 欠点としては洗濯や管理が難しいのだが、そこはブルーがいるので心配していない。


「どうかしら?」

「お似合いです! ミレーヌ様! とてもお美しいです!」

「ミレーヌ様ーきれー」

「おう! 気合い入れて作ったかいがあったぜ!」

「ありがとうね」


 気分良く、神殿のホールで朝の挨拶をすると、これから仕事の住人たちが各々仕事に散っていった。

 さすがに今は全員がいっぺんにくるという事は無くなって、手すきの住人が来るようになっているわ。

 だが週に1度は必ず来るというのだから、慕われているわね。


「ブルー、今日の予定は?」

「お忘れですか? ミレーヌ様がジャングル地方の唯一の出入り口である、橋周辺を視察したいとおっしゃったのでその為の準備を揃えておりますが?」

「ああ、そうだったわね。最近忙しくてつい忘れていたわ」

「移動用の輿を用意しましたので、そちらにお乗り下さい。橋までは切り開いただけですがすでに道は完成しております」

「流石ね。それでは出立しましょうか」

「わかりました」


 外に出ると、力自慢の住民8人が腕まくりして待っていたわ。

 人間6人、犬獣人2人の構成のようだ。


「ミレーヌ女神様、どんな荒れ地でも安全に運んであげますぜ!」

「ありがとう。頼りにしているわ」

「「「おう!」」」


 ◆


 私が普通に歩いたら数日は掛かりそうな距離を、夕方までに輿は到着した。


「みんなありがとう、流石ね」

「任せてくだせぇ!」

「まだまだいけるワン!」


 頼もしいわね。

 到着すると、すぐにダークが野営の準備を開始する。

 オレンジ特製のコテージだ。うんうん。普通の野宿なんて私には無理だものね。

 設営は任せて私はブルーと一緒に橋に行く。


 大地を深く切り裂いたような深い渓谷に掛かる一本の橋は、蔦で何度も補修しつつ使い続けているのだろう、危なっかしい吊り橋だった。

 渓谷の向こうは、岩山で、切り立った山脈を削り取ったような山道が奥へと延びていた。向う側は土がまともにないのか植物はほとんど見受けられなかった。


「なるほどね。あの山道を抜けると都に出るのね」

「距離はかなり離れているようです。長い山道を抜けると森になっていて、それをさらに抜けると大きな町があるそうです」

「そうなのね」


 なるほど、地形としては昔とさして変わっていないようだ。

 そもそもこの山道自体、私の時代に切り開いた道だったりする。つまり懐かしい光景とも言える。

 大陸でも辺境に位置するこの地域は、引き籠もるのに最適だったのよ。


 だれ!? 今ヒキニートって言ったの!?

 ……気のせいよね。


「この先、外界と交流を持つことはもう避けられないと思うの」

「はい。この先人口が増えるのは確実でしょう」

「行商人が出入りしていると言っていたから、ここの事が外に漏れるのはそんなに先のことじゃないと思うわ」

「はい」

「もちろん私としては友好的な交流を望んでいるのだけれど……」


 まだ偵察密偵型メイド人形のシノブも戻ってこないし、外の様子はわからない。

 最低限の備えだけは必要だろう。


「ここに町を築きましょう。交易が目的だけれど……」

「はい。防衛も充実させます」

「幸い地形は守りに適しているわ。まずは希望者を集めて、ここに小さな集落を築きつつ、橋の補修が必要かしら?」

「補修だけならオレンジにまかせれば、1日もあれば十分かと」

「そうね。その辺の手配は任せるわ」


 最悪の場合は橋を落としちゃえばいいしね。

 それじゃあ今夜はゆっくり休みましょう……と思ったところで、周囲を警戒していた戦士の人が駆け寄ってきた。

 たしか橋の向こうを見張っていた人ね。


「女神様! 山道から誰か来ますぜ!」

「え? こんなところへ?」

「はい。二頭のロバをつれた3人の人間です」

「ロバ……あ。もしかして、行商人じゃないかしら?」

「どうしますか? 消しますか?」

「怖いわよ!」


 ブルーがおっかないことを提言してきた。

 もう戦争時代じゃないんだからね!


「とりあえずこちらに呼んで頂戴」

「わかりやした!」


 不安定な吊り橋を渡ってきたのは……。

 一人の商人風の男性と、武装した男女だった。


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