第三章

第二十話【私、集めません】


 — 第三章 —


 とんてんかんとリズミカルな音が響き渡る。

 切り出して乾かした材木を、綺麗に四角く切り出す音、カンナの滑る心地よいリズム。金づちが鉄釘を打ち、形を整え揃えた石を積み上げていく。

 新しい建物が日に日に増えていく光景は、やっぱり楽しい。


 珍しく私が仕事をして、の拡張計画の図面を引いたのだ。中央広場から扇状に広がる町並みは、かなり壮観だわ

 最初に私が住み着いた洞穴は、すでに石材として切り取られ、岩山ごと姿を消し、現在は各々床材や壁材へと変貌した。


 そう、それは町だった。


 このジャングル地域に散らばるそれぞれの村に特使をやり、また向こうの代表を迎え入れると、どの村の代表も驚愕した。

 さらに猫獣人たちが村を捨てこちらへ移住したのをきいた代表は、その情報を村に持ち帰る。

 しばらく後、犬獣人の村が。それを受け入れると、さらにそれを聞いた人間の村が……。それを聞いた猫獣人の村が……。

 といった具合で、現在コンタクトの取れた村のほぼ全てが吸収されてしまったような状態だった。

 いくつか残っている村も時間の問題だと思われる。


「それにしても、広くなったわねぇ」

「はい。ですが少々問題も」

「なにかしら?」


 やっぱり獣人と人間が上手く行っていないとか?


「いえ、町の拡張がどこまで続くのかわからない状況ですので、防御壁を作るに至っていないのです。このままでは外敵から身を守るのに不安があり……」

「はいはい。それこそ考えすぎよ。今どれだけの数の猟師が合流したと思ってるの? 多すぎてその大半を防衛隊として組織してるじゃ無いの」

「ですが……」

「そもそも敵となる可能性を考えていた、他の部族がこの町にいるんだから全く問題無いわよ」

「しかしまだコンタクトの取れてない噂だけの種族もおります」

「今のところその全てが、向こうからコンタクトを取ってきてくれたじゃ無い」


 そう。こちらで把握出来ないいくつかの部族は、向こうからこちらにコンタクトを取ってきたの。

 こちらの圧倒的な兵力と文化レベルに衝撃を受けて戻っていくと、そのうちのいくつかはこちらに合併されることを望んだわ。

 逆にいくつかの村は貢ぎ物を持参してきたの。


 ……そんなことしなくても攻め滅ぼしたりする気はないんだけどね。

 お礼に役に立ちそうな農具と、農法を教えると喜んで帰って行った。

 私の希望としては現地の村が発達して交易が始まれば良いと思っている。このジャングルはそのくらい広い場所なの。


「ミレーヌ様ー!」

「女神様ー!」


 私が見回っていると、そこら中から私に声を掛けてくれる。

 そうそう。規模が大きくなったことも有り、現在は町を名乗らせている。町の名前をみんなに決めさせたら、満場一致でミレーヌ町になってしまったわ。

 嬉しいような恥ずかしいような。

 みんなの呼びかけに手を振るとみんな笑顔で手を振り返してくれた。


「ミレーヌ女神様! 魔法教えて! 魔法!」

「良いわよ? でも文字は読めるようになったかのかな?」

「文字なんて知らないよ! 俺は魔法が使いたいんだい!」


 少年が私の足下でダダをこね始めた。そこにプラッツ君がすっ飛んできた。


「そこにいたか! お前は何度授業を抜け出せば気が済むんだぁ!」


 プラッツ君が少年の耳を摘まんで引っ張り立たせる。


「いたたたたた! プラッツ兄ちゃん厳しいんだもん!」

「先生と呼べ! 先生と!」


 プラッツ君は叫びながら少年を引っ張ると、そのまま公民館・・・へと連行していった。

 見ての通り現在プラッツ君はこの町の学校を任せてある。

 教師としての度量は微妙な所だが、現状で任せられるのは彼しかいない。


 公民館は町人全員の為の施設だ。

 現在は午前中のプラッツ小学校と、午後のミレーヌ学校として使っている。


「頑張ってねー」


 こんな感じでここ一ヶ月で村は町となり、人口は300人を越え、町の規模は増大した。

 現在一番力を入れているのはこれだ。


 村の中央に作られた商店。

 品揃えはそれほど大した物では無いが、弓、矢、乾し肉、畑の収穫物などが並ぶ。

 これまでは村の物は全員の物という考え方から、仕事に応じた報酬を払い、その中から自分の必要な品物を経費として購入し、それを使って報酬をもらえる仕事をこなす。

 そういう循環を作っている最中だ。


 ただ、計算できない人間の方が多いので、現在は私がそれぞれに仕事量などを振り分けている状態だ。

 これだけはなかなか根付かず、いまだに物々交換やなあなあの取引が横行している。


 これに対して怒る気持ちは無い。お願いという形でみんなに言い聞かせている段階だ。

 ただこれは、今小学校に通っている子供たちが卒業すれば、それぞれを手伝い、円滑に進むだろうと思っている。


 商店を経営しているのは……。


「おお、女神様、おはようございますですじゃ」

「何か買っていきますじゃにゃ?」

「今日は最高に熟成されたイノシシ肉がお勧めじゃワン」


 村長、長老、おさなど、それぞれで代表をやっていた老人たちだ。

 現在は長老会という物を作って、この村のまとめ役をやってもらっている。

 幸い彼らは計算や読み書きできるようだ。


「それじゃああとでブルーに買いにこさせるわね」

「楽しみに待ってるじゃワン」


 もちろん私も率先して貨幣経済に参入しているわ。

 もっともメイド人形が全部管理してくれているんだけどね。


 もちろん私もちゃんとお給金をもらっているわよ?

 教師や町の町長としてね。


 私の横顔の入った金貨……は、まだ出番が無い。

 なにせまだ金鉱脈が見つかっていないので、デザインだけだ。

 今普及しているのは、長老たちの顔がデザインされた銀貨と銅貨だ。


 犬獣人さんたちは、鉱山で働くのを喜んでいる。

 単純労働が好きらしい。

 戦士や猟師より性があっているらしく、ほとんどが抗夫として働いている。

 今は鉱山の近くに別の町を建設中だ。


 平和な日々が続いているが、この期、大きな出来事が立て続けに起こるとは誰も思っていなかった。


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