幕間
幕間【私、できるもん】
「うあー」
目が覚めるて、布団から身体を起こすと、いつもの日の位置とは随分とずれていた。
とりあずスリッパでぺったらぺったら歩き出すが、何か調子が出ない。
「ああそうか、ブルーがいないんだったわ」
ぼけらーっと神殿のホールに向かうが村人は誰もいなかった。
外に行くと太陽は真上だ。
日の出と共に動き出すのだから誰もいないのは当たり前だろう。
「ゆっくり寝たわー。ふあー」
噴水で顔を洗って、そのまま石畳の道を歩き出す。
「おや、女神様。おはようだにゃ」
「あらミケさん。おはよう」
村人が交代で神殿の護衛をしてくれているのだが、今日はミケさんも参加していたのだろう。さっそく村に溶け込んだようで何よりだ。
「そんな格好でどこ行くにゃ?」
「そんな格好??」
自分を見下ろすと寝間着だった。
私はそのまま自室に回れ右した。
◆
「おはようございますですじゃ女神様」
「おはようプルーム村長。良い天気ね」
「ええ。まっこと良い天気ですじゃ」
「おはようございますですじゃにゃ女神様」
「ブチ長老もおはようございます」
村の広場でプルーム村長とブチ長老が二人で話し合いをしているようだった。
まだまだ決めることは沢山あるのだ。
「女神様は今日は何をするのですじゃ?」
「そうねぇ。そうだ! 狩りにでも行きましょう!」
「狩りでございますじゃ? もう狩人たちは出掛けてしまいましたですじゃが」
「いえ、たまには一人で」
「一人でですじゃか?」
「ええ。これでも自分の身くらいは守れますから」
「うーん。しかしそれは……誰か村の人間をつけますじゃ」
「大丈夫大丈夫」
私は手をひらひらと振って、ジャングルの中にてくてくと入っていった。
背後で慌てて村長と長老が人を呼びに行ったようだったが、気にしない事にした。
村の周辺は切り開かれ、一部では畑が広がっていた。
今では芋だけでなく、麻やバナナ、にんじんにかぼちゃ。カリフラワーにレタスなんてのもある。
全て原種をグリーンの農業魔法で改良したものだ。全てが害虫に強くこの気候に合わせて育つようになっていた。
幸い水は豊富なので、畑さえしっかり耕せばどれも立派に育ってくれる。
もっとも雑草取りや、時期毎の植え替えなんてのも必要らしく、その辺はグリーンが上手くやってくれている。
もちろん村人の協力あってこそだ。今は猫獣人の農家もいるが数は少ない。やはり彼らは狩猟の方が向いているらしく、そのほとんどは猟師や警備を役割としていた。
特に料理は壊滅的で、料理人に猫獣人は一人もいない。
そんなのどかな風景を横目に、私は森の奥へと足を踏み入れていった。
「良いわねー。自然が沢山あるのは」
昔は自然も随分減っていた。
みんな薪や武器に転用されていたからだ。投石機ひとつ、軍艦一隻作るのにどれだけの森が消えたことか……。
私は護身用のナイフでシダ類を適当に切り裂きながら進んでいく。
10分も進むと腕が疲れたので村に戻る事にした。
◆
「ふえええ~怖かったよ~」
私が
「昼飯にも戻ってこなかったから、探しに出て正解だったぜ!」
「ごめんねープラッツ君ー」
「まぁ無事で良かったよ。おーい! 他のヤツに見つかったって連絡してくれー!」
「「おー!」」
村人総出で私を探してくれていたらしい。
「あんたは村から外出禁止! わかったな!」
「はーい……」
まさかプラッツ君に怒られる日が来るとは思わなかったわ。
私はトボトボとみんなに連れられて村に戻っていった。
お腹減った……。
◆
次の日、朝からミケさんが迎えに来てくれた。
「おはようございますにゃ」
「はい。おはよう。何かあったかしら?」
「みんなに迷わないよう迎えに行くように言われたにゃ!」
「……」
うん。信用されてないわね。
さすがに道のちゃんとある村までは迷ったりしないわ……とは言えなかった。
その日の午前中は、プラッツ君とレイムさん。それと魔法に興味のある数人に授業を行ったわ。
「うん。プラッツ君、
「へへっ。俺は天才だからな!」
「レイムさんも
「はい。でも本当に治癒魔法以外を使えるようになるなんて……やっぱりミレーヌ様は凄いです!」
「あなたが頑張っただけよ。他の人も読み書き頑張ってね」
「「「はい!」」」
試作品の麻を使った紙のノートに練習を繰り返す村人たち。この調子なら数ヶ月で
やはり学習意欲のある人は覚えも早い。
猫獣人さんで魔法を覚えようとした人もいたのだが、読み書きが必須と聞いてみんな逃げちゃったわ。
うーん。この村の人は全員義務化したいんだけど。最初は読みだけにしておきましょう。
お昼ご飯を食べ終わって、暇になる。
いつもなら村を見回ったり、お昼寝したり、くつろいだり、お昼寝したり、魔法の練習をしたり、お昼寝したり、研究をしたり、お昼寝したりするんだけど、その日は夜ご飯の仕度を始めた大男さんが気になってしまった。
「こんにちは。ゴードンさん」
「お、こんちには、女神、様」
「どう? 上手くやれてる?」
「うん、俺、頑張ってる」
「それは良かったわ」
料理は最初ブルーかオレンジが作るか指示していたが、今ではもう料理人だけで作っている。
今では美味しい料理が作れるようになり、レパートリーも豊富だ。
「それは何?」
「新作、試してる」
「あら……面白そうね。私もやろうかしら」
「女神、様が?」
「ええ」
私は近くの包丁とお芋を手に取り、皮を剥いた。
自分の。
「うひゃああ!?」
私の悲鳴を聞きつけて、村にいた住民がすっ飛んできた。
「ああ!? 女神様!」
「血が! 女神様が怪我をされてしまった!」
「神官! 神官を呼べ!」
「待て待て! みんな落ち着け! このくらいなら俺が治せるから! ほら! 見せて見ろ!
すっ飛んできたプラッツ君がすぐに怪我を治してくれた。遅れてやって来たレイムさんもほっと胸をなで下ろしていた。
「ありがとう、プラッツ君」
「いいか! あんたは今日から包丁を触るの禁止だからな!」
「はーい……」
なんか凹むわ……。
◆
それから数日、畑仕事も狩りも料理も土器造りも鍛冶も全て禁止された。
解せないわ……。
早く変えてってきてブルー!
そして後日、帰ってきたブルーに、部屋の惨状を説教されるのでした。まる。
……とほほ。
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