第十九話【私、派遣します】


 森のなかで怪我をしていた猫獣人のミケさんを助けたら、猫獣人の大群を連れて戻って来た。

 何を言っているのかわからないと思うけれど、私も(略


「えーと、これは一体?」

「すまんですじゃにゃ。ワシが長老ですじゃにゃ」


 出てきたのは老猫獣人……キャラ盛りすぎじゃないかしら?


「あ、私はここで……えーと、相談役みたいな事をしているミレーヌです」

「あなたがミレーヌ女神様ですじゃにゃ。ワシはブチ・ニャウ・フーリですじゃにゃ」

「あら、もしかしてミケさんのお爺さま?」

「そうですじゃにゃ」

「えっと、それでこれは一体どういう事でしょう?」

「突然ですまんですじゃにゃ。女神様にお願いですじゃにゃ!  ワシら一族をここに置いてもらえんじゃろうかにゃ!?」

「本当に突然ね。理由を教えてもらえる?」

「実は……最近めっきり獲物が獲れず、森の食料も村の周辺から取り尽くし、途方に暮れておりましたじゃにゃ」


 そこでばっと身を伏せると、猫獣人全員がそろって床に膝をついた。


「お願いですじゃにゃ! 恩は必ず返しますじゃにゃ! 我ら何でもするじゃにゃ! 伏してお願い申し上げるにゃじゃ!」


 ずらりと土下座する獣人たち。


「わわわ! 事情はわかったわ! とりあえず頭を上げて!」

「お願い申し上げるじゃにゃぁ!」


 私は慌てて村長さんに確認する。


「私は構わないんですけど、村としてはどうです?」

「女神様のお気持ちにお任せするじゃ」

「じゃあ、問題無いわね。受け入れるわ」

「おおお! ありがたいですじゃにゃ! まさに女神じゃにゃ!」


 結局10分以上頭を上げてくれなかった獣人たち。

 崇めるのはやめてー!


 ◆


「スゴイにゃ! スゴイにゃ!」

「毛皮が一杯だぞにゃ。凄腕の猟師がいるんだにゃ」

「変わった料理してるにゃ」


 ねこねこ大行進……ならぬ猫獣人大行進が始まったわ。

 まずは村を案内してるんだけど、その度に歓声が上がる。大げさじゃ無いかしら?


 とりあえず住むところが必要なんだけれど、しばらくは村の人たちの住居に一緒に暮らすことになったわ。

 喜んで受け入れている姿を見て、なんだか嬉しかった。


 その日は全員で、猫獣人の村から、荷物や家畜を運ぶのに費やした。

 長老のブチさんにはこちらの村に残ってもらって、色々な事を話合う事にした。今までの生活風習や、猫獣人の得手不得手などだ。

 一つ重要な事が判明した。


 このジャングルはほぼ外界から完全に隔離されているらしいと言う事だ。

 険しい山脈や、深い谷、そいういう通常では人が越えられない地形に囲まれた陸の孤島という事だ。

 これに関しては私がいた時代からそうだったので、裏が取れた感じだ。


 都を含めた外の世界と通じるのは、北東に掛けられた一本の橋だけだという。その橋を越えてもしばらくは細い山道を縫って、ようやく広い別地域に出るのだという。


 簡単に言うと、丸いジャングルがあって、その”右上”にだけ抜け道がある。そんな感じだ。


 メイド人形たちが作っている地図は、ジャングルの二割ほど。この閉鎖地域が相当広いことを意味する。

 ブチ長老からさらに重要な話が聞けた。

 それはジャングルに点在する部族の話だった。


「……つまり、このジャングルにはまだ小さな村が点在すると言う事ですね?」

「そうですじゃにゃ。人間の村が3~4個じゃにゃ、猫獣人の村が2~3個じゃにゃ、犬獣人の村が3~4個じゃにゃ。噂では虎獣人の村もあるらしいじゃな」

「なるほど。それは良い事を聞けました。今後また何か気がつくことがあれば教えてください」

「もちろんですじゃにゃ」


 これは、早々にコンタクトを取っておいた方が良いかもしれないわね。

 ある日突然襲撃された……なんて事になったら目も当てられないわ。


 もちろんこちらが負けるなんて事はないんでしょうが、ノット戦争。ラブアンドピースよ!


 私は他の村の位置を、大体把握しているという猫獣人の狩人さんに同行を頼み、他の村に使者を送ることに決めた。

 代表者はブルー。護衛がダーク。

 それに貢ぎ物を村の人たちで運んでもらうために数人。

 村が落ち着いたら、すぐに派遣しましょう。


 それから数日は猫獣人の新居の建築や、仕事の割り当て、生活習慣のすりあわせなどが続いた。


「それじゃあ行ってくるぞぉ!」


 村の代表3人と、道案内の猫獣人さん1人。

 それにブルーとダークが村の出入り口に立っていた。


「いいですか? ミレーヌ様。私がいない間、この村を出てはなりませんよ? ああ……やはり私は残るべきなのでは……」

「もー。大丈夫だって。村の狩人さんたち、みんな強いし、グリーンもいるし。私だって攻撃魔術も防御魔法も練習してるじゃないのよ」

「それは……はい。疑っているわけではありませんが……ああ! やはり私は残って代表はダークかグリーンにでも!」

「ダークは無口過ぎるし、グリーンもちょっと交渉には向いてないでしょ! 私の代表が務まるのはブルー! あなただけ!」

「は、はい! それは大変に嬉しいです! 嬉しいのですが……!」

「はいはい。じゃあちゃんと他の村と友好関係を結んできてね。絶対に敵対しちゃダメよ? どうしようも無かったら逃げるのよ?」

「わかりました。身命を賭して」

「だから死んじゃダメだって。必ず帰ってきてね」

「わかりました」


 お約束のやり取りを終えてようやくブルー率いる、友好団が出立した。

 ま、ブルーに任せておけば安心ね。


 ……。

 たまにはブルーから開放されたかっただけ。なんて事はないんだからね!?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る