第十一話【私、助けました】


「へへー!!!」


 今、私の前に、ずらりと村人たちが土下座している。

 まさに平伏。


「ありがとうございます! ありがとうございます! あなた様のおかげでこの村は救われました!」


 さっきから何を言ってもこの調子でだったりするわ。

 ゴヴリーンの群れを一掃したら、もの凄い勢いで、高床式倉庫から村人たちが降りてきて、土下座し始めたの。

 今先頭で土下座しているのが村長のプルームさん。


「いえいえ、成り行きですから」

「いやいや! あなたは女神様の使わしてくれた天の使者に違いない!」


 額を地面に擦りつけながら断言するプルームさん。

 絶対そんなんじゃないからね!


「そんな事より1つ気になってることがあるんですけど」

「何でも聞いてくだされ!」

「あそこで一人、治癒魔法を使ってる娘がいるんだけど、どうして他の人は手伝ってあげないの?」


 私の指した先で、一生懸命治癒魔法のヒール……、いやヒールと唱えているが、術式はマイナー・ヒールと言われる、簡易型の回復魔法だろう。

 マイナー・ヒールは魔法を使える人間であれば、ほぼ誰でも使える基本中の基本魔法だ。


「それは、この村で回復魔法を使えるのはあの娘だけじゃからですじゃ」

「え? 一人だけ? こんなにいるのに?」

「何か変な事がありますじゃろうですじゃ?」


 そりゃ変よ。

 ぱっと見で30人ほどの集落のようだけれど、普通は魔法を使えない人間が、30人に一人くらいなのに……。


「積もる話は後にして、怪我人は……あの娘の回りにいる人で全部ですか?」

「そのようですじゃ」

「それじゃあ……エリア・ヒール!」


 私の使える最大の範囲型回復魔法だ。威力は普通のヒールとマイナー・ヒールの間くらいだが、かなり広い範囲の人間を一度に治療出来る。

 便利な魔法だが魔力を馬鹿食いするのが唯一の難点だ。

 幸い全員がまとまってくれていたので、村人全員エリアにいれられた。


 怪我人の一人は骨を折る重傷だったようだが、私のエリア・ヒールで全開したようだ。良かったわ。


「「「うををををををををっをををおををを!?!?!?」」」


 何故か知らないけれど大騒ぎである。

 怪我が治った人もこちらにすっ飛んできて土下座を始める始末。


「「「女神の使い……天使……天使降臨!!」」」


 やめて。

 女神降臨とかやめて!

 なんでたかがエリア・ヒールでこんな事になってるの!?

 魔術士なら誰でも使えるでしょ!?


 そういえば、自称大魔導の青年……私より少し年下の男の子に視線を移すと、彼だけが唯一村人の中で不満そうな視線を私に向けていた。


「ねえ、大魔導師さん? あなたはヒールを使ってあげないの?」

「う! うるさい! 魔力切れなんだよ!」

「こりゃプラッツ! 天使様になんつー口のきき方をするじゃ!?」

「なっ! なにが天使だ! きっと何かのインチキに決まってる! ゴブリン・・・・をこの村に集めたのもこの魔女・・かもしれないだろ!?」


 魔女という単語が出た途端、村中がざわついた。

 どうやら忌避される単語らしい。

 それにしてもゴブリン? ゴヴリーンじゃなくて?

 2000年の間に言葉が変化したのかしら。

 そう考えると、普通に会話出来るのは割と奇蹟ね。


「それにしても、酷いやられ方ねぇ」

「生き残っただけでありがたい事ですじゃ」


 簡易的な家のほとんどはゴヴリーン……いえ、ここは合わせましょう、ゴブリンに踏み荒らされて、ボロボロ。

 元が適当だからすぐに修理は出来そうだけれど。


「ねえ村長さん、これからどうする予定なの?」

「天使様のおかげで死人どころか怪我人もおりませんじゃ。これから柵を直して、家を直しますじゃ」

「柵ねぇ……」


 私は少し思案して、ブルーに耳打ちした。


「ねぇ、私たちが住んでいた洞穴、あそこに彼らを連れて行ったらどうかな? 洞窟は10人くらいしか入れないかも知れないけど、防御は完璧よね?」

「そうですね。それにこのレベルの家であれば、すぐに人数分揃えられます」

「オレンジがいるものね」


 製造型メイド人形のオレンジがいるのだ。その程度は朝飯前だろう。


「ねえ、村長さん、提案なんだけど……」


 しばらくの話し合いの末、村人全員が元自宅へ移り住むことになった。


 ◆


「す! 凄い! なんだこの柵は!?」

「こっちを見て! 水が流れてるわ!?」

「竹をそんな風に使うなんて……どうして水が止まらないんだ??」

「毛皮よ!? 毛皮がこんなにあるわ!?」

「どうして天使様は毛皮を着ないんだ?」

「葉っぱが好きなのよ!」


 別に好きじゃ無いのよ!?

 気温が良いのと、体温調整魔法があるから、優先度を感じなかっただけなの!

 そこ! やめて! 葉っぱ天使とか崇めるのやめて!


 やってきた33名の村人が、元拠点に到着した途端大騒ぎを始める。


「この槍の先についているのは……」

「それ、鉄じゃねーか?」

「なっ!? みやこでしか作れないっつーあれか!?」

「この天使様たちは何者なんだ??」


 ……今、都って言わなかった?


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