第十二話【私、ちゃっかりです】


 今、聞捨てならない言葉があったわよね?


「ねえ、今、みやこって言わなかった?」

「え? 言いましたぜ? 女神さまは都をご存じ無いんです?」


 天使なのか女神なのか統一して欲しいわね。

 いえ、どっちもイヤだけれど。


「えっと、この場合、人が沢山住んでる場所って意味で合ってるわよね?」

「俺は直接行ったことが無いんで、それならプラッツとレイムに聞くといいですよ」

「プラッツ君はプルーム村長さんのお孫さんだったわね。レイムって言う方は?」

「ウチの村唯一の神官ですよ。ルーシェ教の正式な神官でさー。プラッツとレイムは一緒に都に行って、6年修行して帰ってきたばかりなんでさ」

「へぇ。ありがとう、聞いてみるわね」


 首を回してみると、ちょうどプラッツ君とレイムさんが二人で話していた。


「ふん……みんな色々言ってるけど都の方が凄かったよな」

「建物はおっきかったけど、ここも凄いと思うの」

「みんな騙されてるんだよ」

「ミレーヌ様はいい人だよ?」

「だから、なんかインチキしてるんだよっ!」

「別にインチキでもいいんだけど、それって私に何か得があるのかな?」

「うわっ!?」

「ああ! ミレーヌ様!?」


 二人の話に割って入ると、予想よりも驚かれて、こっちの方がびっくりよ。


「ねぇ、少し都の話を聞きたいんだけどどんな所?」

「はっ! 都も知らないのかこの田舎魔女め!」

「ちょっと! プラッツ!」

「うん。だから教えて?」

「お!? お、おう……ま、まあ教えてやらなくもないかな」


 なんか急にプラッツ君の態度が変わった様な?


「都は歩いてひと月くらいかかる遠いところにあるんだ」

「ふんふん」

「木と石で出来たでっかい建物だらけで、城っていう、山みたいな建物に、王様っていう偉いヤツが住んでるんだ」

「凄い大きな建物なんですよ。あの木よりももっともっと高い建物なんです」

「まぁ俺たちは入れなかったんだけどよ」

「私はルーシェ教会にお世話になって、プラッツは有名な魔導士のお弟子になったんです」

「魔導士じゃねーよ! 魔導師だよ!」


 プラッツ君わかってるのかしら?

 お師匠様が魔導師で、自分が大魔導師って名乗っちゃってるの。

 それってお師匠様を貶める行為かもしれないのに。


「なるほど、それでそこは人口はどのくらいで経済体系と政治体系は? 王様がいるんだから王政だとは思うけれど、民主制の度合いも知りたいし……」

「あ……あ?」

「え? あの?」


 あー、これではダメっぽいわね。

 最低限だけ確認しましょう。


「えっとね、その都にどのくらいの人が住んでるかわかる?」

「沢山だ!」

「ええ、とっても沢山です」

「……」


 OK、沢山ね。


「それじゃあ、買い物ってどうしてた? お金ってわかる?」

「馬鹿にすんなよ! こーいうのだよ!」

「お金はこの村で村長さんが全て管理してるんです。私とプラッツは少しだけ自分のを持ってますが」


 プラッツ君が胸を張ってみせてくれたのは銅貨が数枚。

 ふむふむ。とりあえず貨幣経済は残っているようね。


「村長さんはどうやってお金を手にいてるのかな?」

「月に一度か、ふた月に一度、行商人っていう人がやって来て、毛皮と交換してくれるんです。それを溜めて、私とプラッツを都に送ってくれました」

「だけど都って何でも高いんだよ! イノシシ一頭分の毛皮の銅貨が、二食分くらいにしかならないんだ!」


 あー。

 これはぼられてるわね。

 まぁ、こんなジャングルの奥にまで来る行商人からしたら、それでも良心的な方かもしれないけど。


「ありがとう大体わかったわ」

「そうか。ふん。俺は物知りだからな。気が向いたら何でも教えてやるよ」

「プラッツ!」

「ありがとう」


 私は旧ねぐら……毎回言い方が違うと不便ね。今度から村で統一しちゃいましょう。

 村広場の隅で考え込む。


「ねえブルー、都の情報がもっと欲しいけど、どうしたらいいかしら?」

「偵察密偵型のメイド人形を作成して送り込むのが一番かと」

「ああそうね。その手があったわね」


 正直、この村で得られる情報は、今の二人の情報から大して増えはしないだろう。


「じゃあそれは魔核が溜まったらやりましょう。最近ヴォルヴォッドがいないから魔核が足りないのよねぇ」

「忘れていました。ゴヴリーンの魔核を集めておきました」

「集めるのは良いけど、村にも分けないとまずいんじゃ無い?」

「大丈夫です。村長が全てこちらで処理して良いと」

「随分気前が良いのね」

「それなのですが、どうも彼らは魔核の価値を知らないようです」

「……なんですって?」


 魔核の利用価値は高い。それがほとんど魔力の残っていないクズのような魔核でも、1日分の食費にくらいはなるだろう。


「ああそうか……魔術士どころか魔法士もいないんじゃ売るくらいしか出来ないけど……」

「そもそも貨幣経済が成り立っていませんからね」


 もしかしたら、行商人に売っているかもしれないと思って、プルーム村長に確認したが、むしろ、魔物が残す物として忌み嫌って捨てていたらしい。

 ならば大魔導師のプラッツ君なら知っているかもと思って話を聞きに言ってみると……。


「魔核? 師匠がすげぇ貴重な物だって言ってたな。一度も見せてくれなかったけどよ!」


 という事でした。

 見たことが無いなら、しょうがないかもしれない。それにしてもそのお師匠さんは随分と意地が悪いわね。


「プルーム村長、ちょっとお話があるんですが」

「なんですじゃろ? 葉っぱの女神さま?」

「それやめて!? せめてミレーヌって呼んで!」

「女神さまがそうおっしゃるなら……それでミレーヌ様、なんですじゃろ?」

「今後、この魔核って言う物は捨てずに必ず集めてください」

「はあ、女神さまがそう言うのなら、集めておきますじゃ」


 名前……名前で……はあ、もういいわ。好きに呼んで……。


「ブルー、当面の目標は魔核を集めつつ、村の生活基盤を安定させましょう」

「そこまでする義理はないのでは?」

「まぁそうなんだけど……見捨てちゃうのもねぇ」


 これが見えない場所で起こっていることなら、無視も出来たのだろうが、目の前にあわられてしまったのだ。どうにも見捨てられそうに無い。

 我ながら厄介事を抱え込んだ物だわ。


 ま、戦争よりいいわよね。


 目指せ! 芸術都市!

 麗しの快楽都市よ!


 ちゃっかり彼らを労働力として数えているのは、な・い・しょ(はぁと)


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