第二章
第十話【私、助けます】
— 第二部 —
「ダーク、人影は見える?」
この中で一番目の良いダークに尋ねると、こくりと頷いた。
良かった。どうやら人類は生き残っていたようね。
これは早速接触せねばいけないわ。
「じゃあさっそく行きましょうか!」
「反対です」
「え? なんで?」
「まずは私が接触し、安全を確保してから……」
「却下」
「し、しかし……」
「却下(はぁと)」
私は笑顔でブルーの意見を却下する。
基本的に私の命令に逆らえないブルーだ。さらなる反論の言葉が出てこない。
「大丈夫大丈夫。ブルーもダークもいるし、防御魔法だって練習したんですもの」
「それはそうですが……」
「いざとなったら魔法で引き籠もるから大丈夫よ」
「……わかりました」
代表的な防御魔法は2つある、1つがよく使われる”マジック・シールド”だ。文字通り魔法の盾を生み出すの。
半透明のその盾は半球状で自分の好きな方向へ向けられる。強度も高めで汎用度が高いわ。
もう一つよく使われるのが”マジック・バリアー”よ。
こちらは対象を中心に球状の半透明の盾を作り出す。盾というよりは卵の殻っぽいけど。バリアーの特徴は全方位に対して防御する事だが、欠点として動かすことが出来ないわ。
私が特に練習したのはバリアーの方よ。
基本的にはバリアーの中にいれば、後はブルーやダークが何とかしてくれるからね。
「じゃあ行きましょう。あ、ブルー運んでね」
「もちろんです」
跳ねるように岩山をくだると、生い茂る木々で、あっと言う間に集落の方向を見失うが、ダークがそれを間違うことはない。任せておけば安心よ。
岩山の頂上からだとそれほど遠く感じなかったが、やはり歩くと結構な距離があるらしい。
ダークが先頭で、木々を切り払いながら進んでいるのも遅くなっている原因だ。
ただ焦る事はないだろう。集落はそんな簡単に逃げたりしない。……と思うの。
「うーん。どんな人が生き残ってるかしら? エルフとかいないかしら?」
私はダークの背中をチラリと見やる。
彼女は伝説のエルフを参考にしている。私が生きていた時代より遙か昔にこの地上で暮らしていたらしいが、人間との戦争に負けていなくなってしまったらしい。
本当に戦争許すまじだ。
「私には想像も付きませんが、やはりミレーヌ様と同じ人間が生き残っているのでは無いでしょうか?」
「どうしてそう思うの?」
「それは……なんというか、しぶとい……いえ、逞しい生き物ですから」
うん。そうね。私も生きてるし、しぶといわよね。
それにこの周辺にだけ少ないだけで、大陸中央にいったら一杯いるかもしれない。
そんな話をしていると、ダークが足を止めた。
「……何か、変」
「何が?」
「……争いの、音、する」
「え?」
ダークの言葉にブルーの表情が険しくなる。
「ダーク、なんとか村の様子がわからない?」
するとダークは近くの大木をするすると駆け上って、戻って来た。
「村、魔物に、襲われてる」
「大変! 助けなきゃ!」
「反対です!」
「ダメよ! これは命令!」
「しかしっ!」
「ダーク! 先に入って可能な限り魔物を倒して!」
ダークはこくりと頷くと、するりと森の奥へ姿を消した。
「私たちも行くわよ」
「……はい」
なかば諦めるように返答するブルー。
「大丈夫よ。もしヴォルヴォッドの群れとかだったら逃げるから」
「約束してください」
「はーい」
「……」
本音を言うとね?
危ないから見捨てようとも思ったの。
でももし、彼らが人類の最後の生き残りだったら……って考えちゃって。
うーん。私らしくない決断よね。
まぁダークとブルーがいるから大丈夫でしょ。
◆
ブルーにお姫様抱っこされたまま、森を抜けると、そこは集落だった。
「何これ?」
最初に驚いたのは、その村の造りの酷さだった。
回りにいくらでも材料はあるだろうに、枝を集めて積み上げただけど簡易な家。
村の回りには柵が巡らしてあったが、これも枝を適当に集めて、縛り付けただけのシロモノだ。防げるのはウサギが精々だろう。
唯一村の真ん中にある建物が一番立派だった。
それは高床式の倉庫で、どうやら村人が避難しているようだった。
「くそっ! こっちにくるな! この大魔導師プラッツ様の大魔術をくらいたいのか!」
高床式倉庫の長い階段のてっぺん。倉庫の入り口で、若者が叫んでいた。
大魔導師ですって?
魔導師。それは魔導を目指す物の最終目標と言っても良い。
見習い時代を除けば、魔法使いは下から。
魔法士。魔術士。魔導士。魔導師と呼ばれる様になる。
魔導師と呼ばれるようになるのは、魔術を志す人間の最終目標と言っても良い。
それをあの若者が??
村の中は大混乱だった。
倉庫へ逃げ遅れた村人が、魔物から逃げ惑っている。どうやらダークはそれらの人間を優先して助けているらしい。
今も親子が襲われる寸前、魔物の頭に2本の矢が突き刺さった。
それにしても……。
「魔物って……ゴヴリーンじゃないの」
「そのようですね」
呆れるように答えるブルー。
横から襲いかかってきたゴヴリーンを石斧で一刀両断にしながらだ。
ゴヴリーン。
魔物の中でも最弱に分類される。
見た目は猿に近く、人間の子供くらいの背丈だ。緑色の肌と、大きな鼻が特徴で、それなりに動きは速い。
だが、魔法を使えるわけでも無く、原始的な武器で攻撃してくるだけの……雑魚だった。
「……なんで押されてるわけ?」
「さあ?」
人類のほとんどが使える魔法。魔術ならともかく魔法を使えない人間はほとんどいないわ。
つまり、魔法を使えば簡単に倒せる相手。
敵の数が圧倒的に多いなら別だが、ぱっと見、そんなに多くは無い。
なにより魔導師がいれば、何百匹いてもまったく問題にならないはずなのに。
「ちっちくしょう! よるな! よるなよ! 俺の超魔術を食らいたいのか!?」
騒いでいる自称大魔導師様は、体格の良い男性の背中に守られながら騒いでいるだけだ。
先ほどから倉庫を守っているのはその体格の良い男性だったりする。
私はなかば呆れつつ、1つの呪文を唱えた。
それはある意味で戦争の生み出した最凶の魔法の1つよ。
「マジック・アロー!」
64本の光輝く魔力の矢が、敵を求めて村中を走り回る。
あっと言う間に村中のゴヴリーンを、行動不能にした。
半分は死に絶え、半分は怪我で動けなかった。
「まっ!? まさか!? あれは幻の大魔術マジック・アロー!?」
1本の威力は大したことは無いが、高い自動追尾能力と、魔力に比例した同時発射数。何より魔術では無く
この魔法が開発された思想は簡単で。
「なあ、もしかして敵って殺すより、怪我さした方がいいんじゃね?」
という、まさに悪魔の発想から生まれた魔法だった。
もっとも、それに対抗してシールドやバリアーが生み出されたのだから、魔法の発達著しくもある。
「う……嘘だろ?」
大魔導師様が目を丸くしていたわ。
いや、大魔導師ならこれくらいやりなさいよ。
まったり初接触の予定が、バイオレンスになっちゃったわ。
私の平穏を返して!(号泣)
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