第六話【私、進化します】


「それでは私は一度森に戻りますが、くれぐれも注意してくださいね」

「ブルーの用意してくれた柵のおかげで楽勝だったから大丈夫よ」

「柵は万能ではありません! 最大の敵は油断です!」

「わかったってばー」


 お約束になってしまった、過保護攻勢が終わり、ようやくジャングルに戻っていくブルー。

 どうやらイノシシを狩って、血抜きの為に、枝に吊しているらしいわね。

 それを取りに戻るのだそうだ。


 しばらくすると、太い枝にイノシシをぶら下げたブルーが戻ってくる。


「大物ね」

「イノシシは牙が大型化している以外、2000年経ってもあまり変化していないようですね」


 なるほどよく見ると、牙が大きいように見える。


「私はそこの水場で解体しますので見ない方が良いですよ」

「頼まれてもイヤよ」


 昔一度見たことがあったが、それで懲りた。しばらくお肉が食べられなくなってしまったから。

 もっとも、戦場にいったらそれどころではなかったのだけれど。

 あれは確か、何かの事情で私が直接戦場まで、メイド人形を納品に行ったときだったと思う。


 うん。

 やっぱり戦争は良くないと思います。


 その日の夜は、焼肉だった。

 美味しかったデス!


 ブルー曰く、熟成させるともっと美味しくなるって!

 ……。

 ほんと原始人よね、私たち……。


 ◆


 それから数日が過ぎた。


「それでは新しいメイド人形を生み出すわよ」

「はい!」


 ブルーと散々協議した結果、狩猟型のメイド人形を生み出すことに決まったわ。

 理由は色々あるが、やはり狩りは専門のメイドに任せて、ブルーは私のそばにいるのが良いだろうと落ち着いたのだ。

 うん。

 私だって一人でお留守番より嬉しい。


 ここ数日で集めた獣肉を魔方陣に積み上げた。

 それは一番小さな魔核を使って、完全に別の物質へと変換する。これが生体ゴーレムの基礎となるのだ。

 元は獣肉だが魔術で完全に別物へと変わっているので、元の素材を意識する必要は無い。


「それじゃあ行くわよ……メイド人形創生クリエイト・ドール・メイド!!」


 目を焼くような魔力発光がジャングルの一角を埋め尽くす。

 光が収まると、そこにはスレンダーでやや小柄な少女の姿があった。

 少女といっても、16歳くらいの見た目だ。


 最大の特徴は、褐色の肌で、耳が長い。

 伝説のエルフを模しているからだ。

 褐色寄りのダークエルフの少女とでも言えば想像しやすいだろうか?


 髪はダークブラウンでショートカットよ。


 彼女は立ち上がると、ペコリと私に頭を下げた。基本的に狩猟特化型は無口なのだ。


「うーん。あなたの名前は……そうねダーク。ダークよ」

「……わかりました」

「じゃあブルー、彼女に服を渡してあげて」

「了解しました」


 まぁ葉っぱのビキニなんだけどね。

 全裸よりは良いわよね?


 一応現在毛皮を作っているのだけれど、必要なものが揃っていないらしく、ごわごわの毛皮しかない。

 今は主に敷物専用だ。


 ダークが着替え終わると、ブルーが事情を事細かに説明していく。

 彼女が調べた限りの周辺情報も含めてだ。

 全てを聞き終わると、ダークはブルーから装備を受け取り、ジャングルへと足を踏み入れた。


「これで、色々と拠点に手を入れられますね」

「うん。期待してるわよ」

「お任せください!」


 本当に頼りになるわね。ついお母さんって呼んじゃいそう。

 もっとも私のお母さんは戦争で早死にしちゃったんだけどね。


 ブルーと二人で、あーだこーだと、住み家を改造していたら、ダークが戻って来た。

 最近のブルーと同じようにイノシシを担いでいるのだが、それ以外に黄色い花を沢山抱えてきた。


「あら、綺麗な花ね? おみやげかしら?」

「……これはミモザ」


 ぽそりと花の名前を教えてくれた。

 小さな黄色い花が沢山咲いた、とても綺麗な花だ。うん。確かにミモザって名前だったはずだ。


「ミレーヌ様、もしかしたらおみやげではないかもしれません。ダーク」

「……タンニン」

「は?」


 タンニン? タンニンってなんだっけ?

 ああ、植物性の薬品名か何かだった気が……。


「ミレーヌ様。タンニンは動物の皮のなめしに使えます」

「え!? ほんと!?」

「はい。手順はわかりますか? ダーク」


 こくりと頷くダーク。

 そのままミモザを加工して、タンニンを抽出作業に入ったようだ。

 ……ちょっとは説明して欲しいわ。


 ◆


 それからさらに数日が過ぎた。

 生活環境は激変していた。

 まず食事。

 ダークのおかげで、お肉が増えて、さらに美味しくなった!

 さすがに本職だけあって、発見しやすい大型の獣だけで無く、小型だが味の良い動物を色々狩ってきてくれるのだ。

 すごいよダーク!


 居住環境もかなり改善された。

 ダークが狩りに出るので、拠点の近くで腰を据えられるようになったブルーが、石斧で周辺の木を切り倒しまくり、現在かなり見通しが良くなっていた。

 食器も、木のスプーン、木のフォーク、それと東方で使われていたという箸。

 美味しいもの好きの私は箸の使い方も完璧だ。

 やはり土地の食べ物は土地の食べ方で食すのが一番だからだ。


 他にも、木の皿や、木のコップ。さらに水場から竹を使った小さな水路まで引かれていた。

 一番嬉しいのはベッドが出来た事よ!

 ブルー頑張りすぎ。

 いいぞもっとやってね!


 とても優秀で丈夫なので、このくらいでどうにかなったりしないのだ!


 目の前に並ぶ数々の木製食器に、土器の数々!


 ……うん。

 やっぱり原始人。

 とほー。


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