第五話【私、石器時代に突入します】
「行ってまいりますミレーヌ様。いいですか? くれぐれも……」
「もう! 耳にタコができるくらい何度も打ち合わせしたじゃ無い! 大丈夫だからいってらっしゃい!」
「……はい。何かあったら、声を出すか、魔法を打ち上げるか……」
「だからぁ」
「わ、わかっています。私はミレーヌ様を信頼しておりますから」
「全然してないじゃないの!」
もうっ!
本当にブルーは過保護だわ!
私は洞窟の前に築かれた木の柵を見渡す。腕ほどの太さのがある丸太の先を尖らせ、外向きに配置されている。
いったいここはどこの戦場かと思うほどのバリケードだった。
それも三重に。
洞窟内には大量のバナーナと、さらに近くで見つけた食べられ木の実。かなり大量の枯れ枝。
丸太を石斧でくり抜いて作った臼型の入れ物には水もたっぷりと確保してあった。
……水くらい魔法で出せるのにね。
念の為と、やたら柄の長い石槍も10本立てかけられていた。
これらの準備をたった一日でやってのけたのだから、やはりブルーは優秀ね。
ヴォルヴォッドを倒したその日は洞窟で休み。次の日……つまり昨日一日を掛けてこれらの準備を終えたのだ。
今のブルーの装備は、石斧、石槍、何本もの枝を束ねて作った弓。コンポジットボウと言うらしい。
生体ゴーレムの狩猟特化型に比べれば腕は格段に落ちるけど、一般の猟師より腕は上でしょう。
そもそも生体ゴーレムの基本パターンは、それぞれ最上級の腕を持つ人間の情報を各国から送ってもらったものを基本としている。
だからこそ、大人気で引っ張りだこだったわけだけどね。
ちなみに戦争末期……というか私が逃げ出す頃は、私が(一応)所属していた王国に徴収され続けていた。
おかげで前線に立たされることは無かったんだけどね。
ブルーは後ろ髪を引かれつつも、ジャングルの奥へと狩りに出掛けていった。
本当はのんびりティータイムでも楽しみたいところだったが、状況を考えるとそれは無理っぽいわね。
少し悩んだ末に、魔法の練習がてら、
テーブルのような岩へ、魔方陣を書き込んでいく。
探査魔法に使うような雑なものではなく、かなり精密な魔方陣が必要だったので、こんな手順を踏んだ。
枝や炭ではとても緻密な魔方陣を書けないので、魔法を使って魔方陣を刻み込んでいく。
……これ疲れるのよね。
三十分ほど集中すると、汎用性の高い高魔術用の魔方陣が完成した。
これさえ作っておけば、色んな魔術が楽に使える。
私はさっそく、ヴォルヴォッドから手に入れた最高品質の魔核を二つ魔方陣に置いた。
そこの私の魔力の大半を流し込む。
ぴかりと魔力発光すると、中央に、あたらしい魔核が誕生していた。
正確には魔核ではないのだが、これが生体ゴーレム……メイド人形の心臓であり頭脳になるのだ。
ブルーに使っているものと遜色の無い最高品質のメイド人形用の核が完成した。
私の腕ではこの品質が最高だろう。
ブルーレベルのメイド人形を作るためには、この核以外に、肉体製作用に魔核があと2~3個は欲しい所ね。
久しぶりに労働して疲れたので、私はブルーが用意してくれたお弁当を食べる事にした。
バナーナがメインではあるが、ちゃんと料理してある。
潰したバナーナの実に、どこから見つけてきたのか、岩塩と香草を軽くまぶして、火を通してある。
バナーナの葉に包んだものを、熾火で暖めたのだ。
まったくブルーは優秀過ぎる。
良い香りのするバナーナ弁当を食べていたら、ジャングルの奥のシダ類ががさごそと揺れた。
ブルーが戻って来たのかしらと視線を向けると、サイ顔だった。
「……ヴォルヴォッドじゃないの」
それも三体もいた。
たぶんこの匂いに釣られてきたのだ。
涎をたらしたヴォルヴォッドたちが一斉に襲いかかってきた!
……が。
大量の柵に阻まれ、むきー! と怒りの声を上げていた。
私はゆっくりと立ち上がり、お尻の砂を払う。
「
「
「
三度放った攻撃魔術。
一匹あたり12本の灼熱の矢である。あっと言う間に死亡して、ジュウジュウと蒸発していった。
もし
しばらく別のヴォルヴォッドが出てこないか注意した後、魔核を拾いに行く。
三つの魔核を手に入れた。
二つは前回と同じ最高品質だったわ。一つはやや小ぶりだった。おそらく子供だったのだろう。
それといくつかの骨と牙、それに爪も転がっていた。
ブルーが矢を作るときに使っていたので集めておいたら喜ぶだろう。
私がニヤニヤしながらそれらを集めていると、再びシダ類がガサリと揺れた。
「大丈夫ですか!? ミレーヌ様!?」
少しは信用して欲しいの……。
それにしても……、私の贅沢ライフはどこ行ったの?
もう私の(贅沢)ライフはゼロよ!
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