第四話【私、原始人】


「ミレーヌ様……」

「ううう……」


 恥ずかしさの余り、逃げ出した私をつかず離れず追ってくるブルー。

 私が落ち着いたのを見計らって……葉っぱビキニパンツを履かせてくれた。

 ちなみに普通の服の時も彼女が着せてくれるので、別に今回が特別というわけじゃない。


 ブルーが私にこっそり洗浄ウォッシュの魔法を下半身・・・に掛けたのはたまたまだ。

 たまたまなの!!


「あの、落ち着かれましたか」

「うん……」


 半べそである。

 だって女の子だもん。


 私は深呼吸してから姿勢を正した。


「えっと、ごめんね。魔核を拾いに行きましょう」

「それならこちらに」


 さすが私の専用メイド人形である。抜かりがない。

 何気なく受け取りながらそれを見て、思わず声が漏れた。


「え?」


 黒い黒曜石のような魔核だが、太陽光を反射して虹色に輝く。

 それはちょっと信じられなような最上級の魔核だった。


「え? 何これ?」


 たしかにヴォルヴォッドは高品質の魔核を落とす魔物モンスターではあったが、それにしたって限度がある。


「これ本当にヴォルヴォッドから出たの?」

「はい。間違いありません。私も鑑定してみましたが、最高純度の魔核だと思われます」

「これって最低でもアルヴァーンでも倒さないと出ない品質よね……」


 ちなみにアルヴァーンとは、大きな羽根を持つトカゲに似た怪生物だ。

 爬虫類を思わせる羽で飛び回り、口から火炎弾を吐き出したりする。

 敏捷性に優れ、速度も速いが、あまり長時間は飛べないらしい。

 だが地上でもその巨体と、爪の攻撃は恐怖の対象と聞いた事がある。私は直接対峙したことは無い。

 2000年前はアルヴァーンを飼い慣らしたアルヴァーンナイトという騎士が若干だが存在していたわ。


 まぁとにかく一言で「つおい」魔物だった。

 それレベルの魔物が持つような最高級に近い魔核だったのだ。


「これは……凄いわね。理由はわからないけど、最高だわ」

「はい」


 とにかく私が生きていた時代は戦争も末期状態だったので、とにかく魔核は貴重だったわ。

 もしあの時代にこれを売ったら、今頃大金持ちだったかも知れない。

 ……きっと研究に使うか、メイド人形を作っていたと思うけれど。


「そうか。これだけの魔核があれば、新しいメイド人形が作れるわね」

「それは素晴らしいアイディアです!」


 薪拾いには失敗したが、何とかブルーの笑顔を見れて気持ちが晴れた。


「でも今作るなら量産型より、あなたと同じ様な特別仕様の方が良いわよね」

「……そう、ですね」

「そうなると、可能ならこの品質の魔核をもう一つ、出来れば二つに、何でも良いからタンパク質が欲しいわね」

「タンパク質は用意出来ると思いますが、魔核は……」

「またヴォルヴォッドを倒したら出ないかしら」

「確率はあるとお思いますが、危険です」

「私が倒すつもりは無いわよ」

「当たり前です!」


 ああそうか、私がそばにいる状態で戦闘状態になるのを嫌がっているのか。


「うーん。私はどこか安全な場所で待機してるから、その間に倒してきてくれれば良いわよ」

「そうですね……それならば先ほど良い場所を見つけました」

「良い場所?」

「言葉では説明しにくいので、直接向かいましょう」


 そういうとブルーが私をお姫様抱っこして、歩き出した。


 ◆


「ああ、なるほどね」


 連れて行かれた場所は、岩肌に大きな亀裂の走った場所だった。

 亀裂の幅は私が両腕を伸ばした長さの2倍くらいで、奥に行くほど狭くなって塞がっている。雨風を防ぐには丁度良い。


「ここに柵を作れば、借りにヴォルヴォッドなどの魔物が現れても、ミレーヌ様の至高の魔術で打ち払えると思います」

「そうね。私としても安心だわ」

「さらにそちらをご覧ください」


 ブルーの指す方向を見る。洞窟になっている岩肌の近くに、ちょろちょろと水が流れている場所があったのだ。


「水!」

「はい。もちろん魔法で生み出すことも可能ですが、手に入るに越したことはありません」

「うんうん! でかしたわ! もちろん飲めるのよね?」

「はい。安全は確認済みです」

「やった! 喉が渇いていたの! ……んぐんぐ……美味しい!」


 まるで人の手の入らない原生林の湧き水だ。美味しくないわけが無い。

 洞窟の出入り口からも少しだけ離れているのもポイントが高い。これが洞窟の中だったら、中はびしゃびしゃだった事だろう。幸いこの洞窟の中は乾いている。


「それと食べ物ですが。あそこにバナーナを発見しました」

「え!? ほんと!?」


 よく見れば特徴的な大きな葉を茂らせた、バナーナの木があった。


「食べたい!」

「はい!」


 ブルーがするすると木に登ると、大きな房を取ってきた。

 ハウスメイド型メイドであるブルーは、見ただけでそれに毒が含まれるかどうか高確率で判別出来る。さらに口にすれば完璧だ。栄養まで解析出来るのだ。

 ブルーが一つ皮を剥いて咀嚼する。


「……大丈夫です。おそらくこの房が一番甘いと思われます」

「やった! んぐっんぐっ! ああ! さすがに農園で育てていたものに比べると大分味は落ちるけど、充分甘くて美味しいわ!」

「良かったです。申し訳ありませんがそこの岩に腰掛けて、お待ちください。すぐに洞窟内を綺麗にいたしますので」

「お願いするわ」


 ブルーは私が腰掛ける岩の上に、さりげなく大きなバナーナの葉を敷くと、近くの枝を集め始めた。

 枝を束にすると、細めの蔓で縛り上げ、それを手頃な長さの枝に、さらに縛り付ける。


「凄い。簡易ホウキね」

「はい。すぐに中を清掃いたします」


 ブルーは洞窟に入ると、凄まじい速さで中を掃除し始めた。

 家事全般はハウスメイド型の独壇場である。場末の酒場から王侯貴族の晩餐室まで、綺麗に磨き上げるその手腕は、昔の王国でも高く評価されていた。


 ……そういえば王国とかどうなったのかしら?

 消えて戦争も無くなってたら最高なんだけどな。

 どうでも良いことを考えつつ、バナーナを味わう。さらにバナーナの葉で作ったコップが置いてあったので、それを使って水を飲む。


 ある意味では凄い贅沢な事をしているけれど……。


 掃除中のブルーを見る。

 葉っぱのビキニに、枯れ枝のホウキ。そしてその腰には石斧だ。


 さらに彼女が絶賛製作しているのは、大量のバナーナの葉を敷き詰めた簡易ベッドだったりする。


「……誰がどう見ても原始人よね」


 自分の姿を見下ろして、私は深いため息を吐いた。

 とほー。


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