第三話【私、闘います】
ある日、ジャングルに足を踏み入れたら、熊さんならぬ
その熊さん……じゃなくて魔物の名前はヴォルヴォッド。
猿かゴリラに似た体躯と、サイの頭を持つ凶悪な
「き……きゃあああああああああ!!」
しばしお互いの目が合ってしまい、お互いに見つめ合ってしまった。
全然ロマンチックな出会いじゃ無いわ!
キョトンとしていたヴォルヴォッドが、途端に低い唸り声を辺りに響き渡らせた。
ぐおーっという恐ろしい雄叫びに、思わず身体が硬直する。
向こうも慌てたのか、手にしていた太い木の枝を私に投げつけてきた。
それを避けられたのは偶然だった。
恐怖で腰を抜かして、地面にすとんと尻餅をついたのだ。枝が頭上をカスって飛んでいった。
「うひぃ!!」
そ、そうだ!
攻撃魔術!
殆ど使った事の無い術式を頭にイメージしようとするが、パニックでまとまらない。
「ぐをぉおおおおおおお!」
再びヴォルヴォッドが吠えた。
だが、それが悪かった。
もし魔物がそのまま私に襲いかかってきていたら、なすすべも無くやられていただろ。
しかしその僅かの時間が、なんとか脳裏に術式を組み立てる時間となった。
「ふぁ!
突き出した腕の周りに、12本の炎の槍が具現化し、それがことごとくヴォルヴォッドに火の粉を上げて飛んでいき、次々と魔物を串刺しにした。
身体の内側まで深く刺さった炎の槍が、ヴォルヴォッドを一瞬で消し炭に変える。
恐らく10秒もかからなかっただろう。
戦争用に開発された炎槍は発動が早く、高威力という、大変殺傷力の高い魔術だった。
「た……倒した……わよね?」
私は起き上がろうとして、コケた。
腰に力が入らなかったのだ。
しかし消し炭になったヴォルヴォッドを見て安堵した。
が。
それには少し早かった。
「ぐう゛ぉおおおおおおお!!」
それは私のすぐ後ろからだった。
背筋が泡立つ。
振り返るまでもない、別のヴォルヴォッドだった。
「しまった! ヴォルヴォッドはグループで行動するんだったわ!」
ヴォルヴォッドの習性に、家族単位のグループで行動するというのがあることを、すっかり忘れていた。
醜いサイの様な顔が、私のすぐ目の前にあった。
終わったわ。
「ミレーヌ様!!」
ずがしゅっ!
目の前にあったはずのヴォルヴォッドの額に石槍が刺さり、その勢いで真横にすっ飛んで行った。
「このっ! 不埒者めがっ!」
投擲した石槍から、石斧に持ち替えたブルーが、電光石火の素早さで私を守るように立ち塞がると、その石斧を振り下ろし、一発でヴォルヴォッドの頭蓋骨を粉砕した。
「大丈夫ですか!? ミレーヌ様!」
私は無言で、こくこくと頷いた。
さらにブルーは私のからだを隅々まで触りながらチェックする。
「良かった……ご無事で……本当に何よりです」
「う、うん」
「お手をどうぞ、この場を離れましょう」
「そ、それより、魔核を拾って頂戴。ヴォルヴォッドの魔核は喉から手が出るほど欲しいわ」
「しかし……」
「大丈夫よ、あなたがすぐそばにいるんですもの。それより! はやく!」
「は、はい」
ブルーが数歩離れたのを確認すると、私は自分に
じゅうじゅうと音を立てて溶けていくヴォルヴォッド。魔物は死ぬと形を保てなくなる。これが一般的な生物とは決定的に違うところだ。
だが基本的に骨や牙、爪などは残る。
そして魔物心臓とも言える魔核も残る。
「ミレーヌ様。魔核を二つ手に入れました」
「ほんと? それは良いわね」
私に魔核を手渡しながら、ブルーが余計な事を言った。
「大丈夫ですよ。ミレーヌ様」
「なにが?」
「葉っぱのビキニですから、いくらでも替えは用意出来ます」
「馬鹿ああああああああああああああ!!!」
私は顔を覆って走り出してしまった。
貴重な魔核を放り投げてだ。
うん。
ちょっとよ、ちょっとだけだもん!
私がへたり込んでいたところが湿っていたのは、宇宙最大の秘密なのよ!!
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