第6話
屋敷の中は少し空気がひんやりしていて、自然と独特な緊張感がある。
銀河たちは明川の案内でベースとなっている広間へ入った。
「ではお願いしますね。私はこちらで控えておりますので、何かあればお声をかけて下さい」
そう言って明川は隅の卓に陣取り、ノート型パソコンで仕事を始めた。
彼も忙しい身なのだろう。
「じゃあ、買い入れの仕事と平行して調べていこうか」
「分かりました。銀河さん」
「俺は別の部屋を見てみたい」
昨日は純粋に仕事で来ていたので、このベースとなる部屋しか見ていなかった芽多留は早速腕まくりを始めた。
「ちょっと芽多留。勝手に動こうとしないでよね」
すると明川が顔を上げた。
「いえ、中はお好きに見て頂いて構いませんよ。最初に言いましたが、来月には解体予定ですし、瀬古様からも了承を得てますので」
「おっし!んじゃ、全ての部屋を調べてやるぞ。おい氷乃。お前も付き合え」
「えっ、ちょっと。私は銀河さんと……」
芽多留はグイっと氷乃の腕を引っ張り、廊下へ出て行った。
「やれやれ。落着きがないなぁ」
銀河はため息を吐きながら、一先ず自分の仕事から終える事にした。
「よし。まずは二階部分から見てみようぜ」
いち早くベースから飛び出した二人は、最初に二階へ上がる事にした。
二回は瀬古家の息子夫婦が使っていた。
元々は平屋で、二階部分は昭和に入ってから増築されたという。
「ここからはちょっと木が新しくなっているのね」
「増築された部分ちて事か……。何かあるとしたらここはそれ程怪しくはないな」
それでも一応調べておいて損はないだろう。そう芽多留は勝手に頷き、ゆっくりと狭い階段を昇って行った。
「あ、二階は洋風なのね。壁紙とか可愛らしい」
「ここは寝室だったようだな。ベッドの痕が床に残ってる」
しゃがみ込んで芽多留はよく部屋を観察する。階段を上ってすぐの部屋は息子夫婦の寝室で。奥の二つの部屋が彼らの子供たちが使っていたようだ。
彼らはもう既に引っ越しを終えているので、中は何もなく、家具のあったと思しき痕しか見受けられない。
ついでに子供たちの使っていた部屋を見てみるが、こちらも同様異常はない。
こちらには古ぼけた学習机とベッドが残されていた。
「この小さい方の部屋は元々物入れで、兄弟の成長と共に物入れを部屋にして分けたようだな」
「ねぇ、もう二階はいいんじゃない?下に戻ろうよ」
「まぁ、そうだな。行くか……」
粗方調べて確認した芽多留は氷乃の呼びかけで下の階へ戻ろうとした。
その時だった。
一瞬地面がグラっと揺れた。
「うわっ、な……何だ?」
「きゃっ…」
思わず氷乃は芽多留の腕にしがみつく。
「地震?」
「………の、ようだな。それよりどこも怪我してないな?取りあえず一端、銀河のとこに戻ろうぜ」
「う……うん。そうだね」
何とか芽多留の腕から身体を離した氷乃は少し顔を赤らめて小さく頷いた。
だが、階下へ降りようと一歩踏み出した芽多留の足が止まる。
「ちょっとどうしたのよ。いきなり止まって……」
芽多留が顔を強張らせて振り返る。
「おい、何か変じゃねぇか?」
「だから何がよ」
氷乃は芽多留の横から顔を出してその先を見た。
「えっ……、何よこれ」
そこは先ほどの一階廊下ではなく、全く別の部屋が広がっていた。
「階段って、ここ一か所しかなかったよな?」
「そ…そうだけど、どうして……」
二人は同時に顔を見合わせた。
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