第5話

翌日。

今日は早朝から三人で再び瀬古邸へ向かう事になった。

最初に銀河が契約した屋敷を自由にして良いという期限が今日までで、この後銀河が最終的なチェックをして、不動産屋へと鍵を返還して終わりとなる。

つまり屋敷を見ていいのは今日までという事になる。


「なぁ、あの屋敷ってこの後どうなるんだ?」

瀬古邸へ向かう途中、車中の後部座席から芽多留がふとそんな疑問を投げてきた。

「何でも瀬古さんが他に売りに出す気がないらしくて、来月にでも解体されて更地に戻すらしい」

運転する銀河は前を向いたまま応える。

「へぇ、何か勿体ないよな。あれだけ広くて立派な日本建築だってのに」

「そうよね…。別にそのまま住居にしなくても、今って古民家カフェとか流行ってるし、リノベーションしたら素敵な店舗が出来そうよね」

そんな二人に銀河は小さく笑った。

「まぁ、あの区画はそのまま店舗としては使えないけど、一部を住居にしたら申請は通るよね。でも瀬古さんはどうもあの建物自体を無くしたいようなんだ」

「……何か妙だな」

芽多留は長い足を組み替えて目を凝らす。

「まぁ、あれこれ話すのは着いてからにしよう」

そうして銀河の運転する車は瀬古邸へと向かった。



瀬古邸は昨日と同じ、どんよりとした空の下、鬱蒼とした叢の中に鎮座していた。

同じ東京都内でありながら、まだここは自然が多く、空気にも草の匂いが混じっている。

瀬古邸の駐車スペースにはもう白のセダンがあった。

不動産屋の明川がもう来ているのだろう。

銀河はそのままセダンの横に車を付けると、すぐに隣からシックなグレーのスーツ姿の男性、明川が出てきた。

手には書類とネイビーの傘がある。

「うわっ。降り始めてんじゃん……」

車を降りるとすぐに冷たい雨がパラパラと落ちてきた。

「あぁ、これはこれは。寿さまですね」

「ええ。明川さん。このたびはお手数かけてしまって申し訳ありませんでした」

近寄って来た明川に銀河は笑みを浮かべて対応する。

「いえいえ。大丈夫ですよ。それよれ何か価値のありそうな物は見つかりましたか?」

「価値という程、目を惹く品は残念ながら…。しかし中々センスの良い依頼者のようで、骨董としての価値はありませんがデザイン的に優れた品は海外からのお客様に人気が出ると思うので、気持ち多く買い取らせて頂きますよ」

「ほぅ、そうですか。瀬古さまも喜ばれるでしょう」

明川は朗らかに笑って銀河の後ろの二人を見た。

「そちらさまは確か、昨日の……」

「ええ。昨日大きな荷物だけ運び出してもらった助手たちです」

「助手…手下の間違いじゃねのかよ」

芽多留が舌打ちと共に毒づく。

するとすぐに氷乃のエルボーが襲ってきた。

「バカ芽多留っ」

「ぐほっ……」

芽多留が悶絶する中、明川が屋敷の扉を開く。

昭和なテイストを醸し出す門扉の中、そこだけはしっかりと電気錠で制御されているのが中々面白い。

「では今日は最終的な確認という事でいいですね?最後に残った家財道具等は、建物と一緒に解体されてしまうので、何か目ぼしい物があったらこれが最後のチャンスですよ」

「有難うございます。では始めようか……」

銀河はゆっくりと屋敷を見上げた。


(以前来た時よりも「闇」が濃くなっている…。これはまさか…)

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