第7話

「………遅い」

「え、何がですか?」

一階の拠点としている広間では、銀河が眉間に深い皺を寄せていた。

買い入れの最終的なチェックは既に終わっていて、後は先に他の部屋を見に行った芽多留たちを待つのみとなったのだが、一向に二人は姿を現さない。

「いえ、芽多留たちの戻りがちょっと遅いと思いまして……」

「あぁ、そういえばあれからどのくらい経ちましたかね。済みません、私もすっかり自分の仕事に没頭していましたもので」

そう言って明川は腕時計を確認して眉を寄せた。

「あれ、もうそろそろ一時間くらい経ちますね。広いといっても全てのお部屋を確認するのにそれほどの時間はかからないでしょう」

「ですよね……。二人してどこかで居眠りでもしているのでしょうか」

「あははは。それは可愛らしいですね」

明川は笑っていたが、銀河の胸は悪い予感にざわついていた。

「ちょっと済みません。その辺りを見てきます」

「あ、ええ。では私もご一緒しますか?」

立ち上がろうとする明川を銀河は片手をあげて辞退する。

「いえ。多分何か珍しいものでも見つけてはしゃいでるだけだろうと思いますから、明川さんはこのままここで待っていてもらえますか?」

「そうですか?では、わかりました。お二人が揃ったらそこの商店街で蕎麦でもどうですか?今回はいい仕事をさせてもらえましたのでご馳走しますよ」

「それは有り難い。では少し外しますね」

「ええ。いってらっしゃい」

明川は再びノートパソコンを開いて仕事を再開した。

それを確認して銀河は広間を後にした。

「全く……あいつらはどこに行ったんだ」

屋敷は何回か増改築を繰り返した痕跡があり、使われている材木も年代を感じるものから真新しいものまで継ぎ接ぎ状態になっていた。

銀河は一階から丁寧に各部屋を確認していった。

「おい、芽多留。氷乃ちゃん、いるのか?」

居間、台所、浴室、脱衣所、物入れ、客間……と順に巡っていったが、二人の姿はどこにもない。

「おかしいな……。では二階か?」

拠点となっている広間から真っすぐいくと階段が見える。

何故かそこに足を向ける銀河の背筋が一瞬冷えた。

「………な…何だ?この妙な気配は」

実はこの屋敷に入った時から何らかの気配のようなものは感じていた。

だがそれはごく微弱なもので、何も害にはならないと思っていた。

だが今はその気配に悪意のようなものが混じっている。それが銀河の五感に小さな警告を促すように反応したのだ。

「二階……か」

銀河はぎゅっと唇を噛みしめると、ゆっくりと一段一段と階段を上がっていった。

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