第2話
「ところで今日は依頼主は来てないのか?」
いざ謎の怪死事件を追う事になったのはいいが、肝心の話を聞くべき人間がいない。
「うん。依頼主さん、瀬古さんっていうんだけど、神奈川県でサラリーマンしている人なの。これまでずっとこのお家から通勤していたんだけど、新居はそっちに移るんだって。それで今日は仕事で来れないって」
そう言って氷乃はサーモンピンクのコートのポケットから屋敷の鍵を取り出してみせた。
「もう新居に持っていきたい程大事な物はないから、後は私たちの好きにしてって言われてるのよ」
「ほぅ。それにしても他人に全て任せちまって不用心にも程があるよなぁ」
そう言って芽多留はしげしげと屋敷全体を見渡した。
「そういえば警察はいないのな。なぁ、その曽祖父さんが死んだのっていつの話だ?」
「さぁ。そこまでは私も分からないよ」
「うーん。じゃ一度帰って銀河に聞くか……」
「そうね。明日は銀河さんも来るっていうから何か分かるかもね」
「よし。んじゃ、そーすっか」
芽多留は一つ大きく伸びをした。
その時、視界に何か一瞬光のようなものが飛び込んできた。
「ん?」
芽多留は目を凝らしてみる。二人が作業をしているのは玄関からすぐにある右横の部屋で、十二畳の広い和室になっている。
そこに銀河が選定した荷物の入った段ボールが纏められているのだ。
大量の荷物に隠れ、以前は仏壇が設置されていただろう二畳ほどのスペースはそこだけ日焼けから逃れ、今は真新しい木目が晒されている。
光はその仏間付近から出たように感じる。
「な…何よ。芽多留。いきなり怖い顔しちゃって」
ただならぬ様子であらぬ方向を見つめだした芽多留の様子に氷乃が不安げな顔を向けた。
「い……いや。それより氷乃、お前今何か反射するような物振り回さなかったか?」
「反射?何よそれ」
「だから例えば鏡とか、時計とか……は持ってないよな」
「だから何よ」
氷乃の全身を見て芽多留は眉を寄せる。今日の彼女は荷物の搬入をする事が分かっていたのでシンプルな白のパーカーとジーンズ風のトレンカに白いショートパンツを合わせている。その上にはサーモンピンクのコートを羽織っていて、特に何か光を反射しそうなアクセサリーの類は付けていなかった。
勿論この屋敷の鍵も今はポケットの中にある。
「何か今、キラッと光ったような気がしたんだ」
「ちょっとやめてよ、そういうの」
「いやいや、担いでんじゃねぇって。マジで…」
そうは言ったものの、芽多留も一瞬の事だったのでいまいち自身がない。
時間が経つにつれてもしかしたら何か見間違いだったのかもと思えてきた。
「まぁいいか。んじゃ、これらを積んだら戻るぞ」
「う……うん」
氷乃はまだ少し表情を強張らせていたが、すぐに支度を始めた。
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