転生
そのまた翌朝。
挙:「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
島左近
(以下左近):「殿!如何為されましたか!?」
挙:「ジャガイモが!!ジャガイモが俺を追い掛けてくる!!!」
左近:「殿!?大丈夫でございまするか?」
「それに……。」
「(1598年伝来の)ジャガイモなんぞに何故、殿は追い掛けられなければ
ならないのでありまするか?」
挙:「倉庫の中にうず高く積まれた大量のジャガイモが。」
「出せぇ……。出せぇ……。水をくれぇぇぇ……。土をくれぇ……。
と俺に向かって問いかけて来るんだよ!!」
「こっちはこっちで。」
「お前たちの気持ちはわかっている。重々承知している。」
「だが肝心な売り先が無いんだよ。」
「お前ら(ジャガイモ)の望み通り、畑に戻すことも出来ないのだよ。」
「よしんば出来たとしても。」
「お前らはそれで幸せなのかもしれないけれども……。」
「お前らを捌き切ることは=。」
「……俺の首が飛ばされることになってしまうのだよ……。」
「そうなるぐらいなら。」
「いっそのこと。このまま封印してしまったほうがマシなのかと……。」
「思ってしまった私のことを許してくれぇぇぇぇ!!!」
左近:(殿は目を開けたまま寝ることが出来るのかな?)
「……殿。如何為されましたか?」
挙:「……悪い夢を見ていたのか……。」
と額から前髪に向かって手の平をかざす挙。
挙:「はぁぁぁぁあぁぁぁ!!!」
左近:「殿!!気を確かに持ち為されませ!!!」
「今度はいったい何が追い掛けて来たのでありまするか!!!?」
挙:「前髪が!!私のなけなしの……。」
「これまで大事に大事に保って来た……。」
「数少ない前髪の全てが……。」
「(この心労で)……全て抜け落ちてしまっているではないか……。」
左近:「……殿。それは元服をした成人男性の全てに共通することなのでありまするが……。」
「私の頭頂部をご覧あれ。」
と月代された左近の頭頂部を見た挙は。
挙:「……私は今。ここで何をしているのであるか……。」
左近:「……殿は殿でありまするが……。」
挙:「さっきからお前は私の事を『殿』と申しておりまするが……。」
左近:「殿。私のことをお忘れなのでありまするか?弱りましたな……。
仕官を断る私に対し、収入の半分を譲る故。と説得され。それ以来。
今日まで勤めておりまする左近でありますが……。」
挙:「……左近。お前が島左近なのでありますか……。」
左近:(静かに頷く)
挙:「……と言うことは私は。」
左近:「とぼけられるとは困りましたな殿……。」
「殿の名は石田三成でありまするぞ……。」
挙:「何!?私が石田三成と申すのか!?」
左近:(呆れながらも静かに頷く)
挙:「あの太閤秀吉の筆頭奉行として蔵入地を自由自在に操った……。」
「……あの石田三成に……。」
「私が……転生した……。」
「……と言うことなのでありまするか……。」
「いやぁ……人生。捨てたモノでは無いな……。」
左近:「……殿。」
挙(三成):「なんじゃ左近。」
左近:(調子に乗りやがって)
「……殿……。大変申し上げにくいことなのではありまするが……。」
挙(三成):「苦しゅうない左近。申してみよ。」
左近:(こんな人じゃ無かったような気がするのだが……)
「殿は今。亡き太閤殿下の筆頭奉行と仰られたように聞えたのでありまするが……。」
挙(三成):「そのように申したが。何かある?」
左近:「……実は……。殿は先日。福島正則以下7名の。
殿と同じく亡くなられました太閤殿下恩顧の武将に追われるハメに遭いまして……。」
「このままでは命が危ないと感じられました殿は機転を利かし。」
「福島らの上司にあたります徳川家康殿が住まい。」
「伏見城に逃げ込みまして……。」
「家康殿の取り成しにより、無事。危機を脱することに成功することは出来たのでありましたが……。」
「その引き換え条件であり。」
「此度の揉め事を収拾させる意味合いもあり。」
「……殿は奉行の地位を失い。」
「昨日。ここ佐和山の地に戻られたのでありまして……。」
「殿が仰られましたような……。」
(……こんな人じゃ無かったハズなのではあるが……)
「蔵入り地を自由自在に操ることの出来る立場には……。」
「……今はありませぬ……。」
挙(三成):「……何。ワシは天下の名奉行の立場に今は無い。と言うことなのであるか?」
左近:「御意」
内政面の功績により秀吉から絶大な信頼を得。
秀吉直轄地の管理を任されて来た石田三成に転生することが出来た。
と喜んだのも束の間。
転生先が
同僚との権力争いに巻き込まれ、
秀吉亡きあと豊臣家実質No.1の地位にある徳川家康の手により
左遷されることになった時の石田三成であったことを知った挙。
(……4月からの俺と変わらねぇジャンかよ……。)
(……ジャガイモが福島正則ら7名に代わっただけじゃねぇかよ……。)
(……でも待てよ。)
挙(三成):「現状のワシの石高は如何ほどである。」
左近:「殿にそのようなことを聞かれることになるとは思いもよりませんでしたが……。」
「20万石に御座りまするが……。」
挙(三成):「何か不良債権になるようなモノはあるか?」
左近:(このヒト。領内の全てを把握しているハズなのだけれど……)
「いえ。殿のこれまでの徳治により、
そのような不良債権となっている様なモノは御座いませぬ。」
挙(三成):(善し!!さすが三成。しっかりしておる。)
「で。左近。」
左近:「ハッ!!」
挙(三成):「ワシは昨日まで何をせよ。と申しておった。」
左近:「はっっ!!?」
挙(三成):「いやワシは昨日までのジャガイモ……。
もとい福島や内府(徳川家康)のことで疲れておって……。
記憶が定かでないことがあっての……。」
左近:「そうで御座いましたか。」
「殿はその内府殿から推奨されております
新田開発に乗り出すことを御考えになられておりましたが……。」
挙(三成):「何!?新田開発と申して居ったのか。」
左近:「御意。」
「なんでも我が所領の西にありまする琵琶湖と我が領内の間にある
広大な湿地帯を干拓することにより、コメの収量の増加を図る……。
そのように申しておられましたが……。」
挙(三成):(この期に及んでまた炭水化物に追われることになるのかよ……。)
「……左近。」
左近:「ハッ!!」
挙(三成):「その話。無かったことにしてくれ。」
左近:「はっ!?開墾を一時ストップせよ。とのことでありまするか?」
挙(三成):「左様。」
左近:「太閤殿下亡きあと、ただでさえ政情が不安定であることに加え、
そのターゲットとされているのが殿でありまするぞ。」
「それに備え、兵糧米の備蓄を少しでも増やすことは大事なことでありまするが……。」
挙(三成):「わかっておる。わかっておる。」
「……が。今は……デンプン質のモノを見たくはない……。」
と、これまでの政策を一時ペンディングした挙(三成)は
安堵された江北20万石の巡見に乗り出すのでありました。
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