星空の日、ハカセとの読書会で

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「お前が行く道は正しい道なのです」

あの黒くて大きなセルリアンのおおさわぎが片付いてから、ボクは島の港を仮のなわばりにしています。


サーバルちゃんは心細い思いをする僕に気を使って、一緒にくらしてくれているのですが、サーバルちゃんが出かけてボクひとりの日もたまにあります。

けれども、そんなときは他のフレンズさんとお話ししたり遊んだりする機会があるので寂しくありません。


今日はお天気のいい日なので、満天星空の夜にコノハはかせと一緒に読書会をすることになりました。


ボクの目はかせと違っていて、夜は火の明かりがないと本に書かれている小さな字が読めません。

小さな文字がたくさん書かれている本を暗い中で読むと目を悪くしてしまうそうで、はかせは気を使って文字より絵がたくさん描かれている本を持ってきてくれました。


ふたりでしばらく本を読んでいると、火がパチパチとなく音や波がザアザアと押しては返す音に気をとられて、ついつい顔を上げて暗い海の向こうに目をやってしまいます。


「かばん」


はかせが突然にボクのことを呼んだので、ぼうっとしていたボクはおっかなびっくりと返事をしました。


「は、はい」


はかせはじいっとボクの顔を見つめてから、星空とお月様が照らしてくれている海に目を向けながら言いました。


「やはり、この島をでてみたいのですか?」


「……自分でも、よくわかりません。けど、ボク以外にヒトがいるのなら探して会ってみたいって思っています」


はかせはさっきまで読んでいたとても分厚くて大きな本をゆっくりと閉じると、その本の表紙をちょっと見てからボクに言いました。


「かばん、もしこの島を出て二度ともどってこれなくなって、我々とも会えなくなってしまったらどうしますか?」


「え……?」


ボクはそのおそろしい質問に答えることができませんでした。

考えたこともなかったからです。

この島にもどってこれなくなる。

フレンズさんたちと会えなくなる。

サーバルちゃんと、会えなくなる。


なぜ、はかせはこんな悲しい質問をするのでしょう。


「かばんはデストピアというものを知っていますか?」


初めてきく言葉なので、ボクは首を横に振りました。


「もし……もしですよ?かばんが他の島に行って、そこで不幸な目にあってしまって、そこから動けなくなってしまったらどうしますか?」


「それは……」


「ここでずっと暮らそうとは思いませんか?せっかく、自分がなんの動物かわかったのです。みんなと友達になれたのです。そのほうが、よくわからないところに行って寿命を縮めてしまうよりいいのです。……本音をいうと、かばんのおいしい料理を毎日でも食べたいのです」


それまでの暗い言葉からとつぜんにはかせの本音が飛び出したので、そのことがおかしくてボクもはかせも小さく笑いました。


ボクはこれまでのサーバルちゃんとの旅路を振り返ってみました。

お世話になったフレンズの方々のことを、ひとりひとりていねいに思い出しました。


考えているあいだ、はかせはボクのことを心配そうにうかがってくれていました。


ボクはあまりまとまっていない考えを、しんちょうに言葉にしてはかせの目を見ながら言いました。


「ボク、島の外に行きたいです。ここにずっと住むのも幸せだし、みんなともっと一緒にいたいです。サーバルちゃんとも、もっともっと一緒にいたい。けど……行ってみたいんです。探しに行きたいんです。ボクの仲間を、まだ見たことのない景色を」


そこで言葉をとめて、もっと深く考えました。

はかせはボクのたどたどしい言葉を、黙って見守ってくれています。


「学べるかぎりのことを学んで、知っておいたほうがいいこともちゃんと覚えます。ボクひとりでもだいじょうぶだよって、みんなに言いたい。これまで助けてくれたフレンズさんのためにも、そんなボクを見せたい。やりとげたいんです。だからボク、行きます」


ボクは正直に、言いたいことを言いました。


きいてくれたはかせは、うれしそうにほほえんで言いました。


「かばん、図書館で私が言ったことを覚えていますか」


「おいしいものをたくさん食べるのが人生、です」


「ここをでて、また島にもどってきたときは、われわれの知らない料理をたくさん食べさせてほしいのです。……かばん、お前が行く道は正しい道なのです。われわれはいつもおかわりを待っているのですよ」


「はい、必ず」


ボクたちは会話のあと、また読書にもどりました。


風景の絵がたくさん描かれた本を読むと、これからの旅に思いを巡らせることができます。


時々、はかせといっしょに顔をあげて海の向こうをながめながら……

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