こじょう

アルケミスト

第1話

 ヒトがいる場所を探してキョウシュウチホーからゴコクチホーに渡ったかばん、サーバル、ラッキービースト。

 地図もあてもなく森の中の道をジャパリバスで走って行くが、突然激しい嵐と雷雨に襲われた。


「かばんちゃん、見て。ほらあそこ」

「良かった、雨宿りできそうだね、サーバルちゃん」


 ジャパリバスは、石造りの門を潜って街に入るが、ヒトやフレンズの気配はなく、植物が蔓延り、朽ちた外壁があちこち崩れ落ちていた。


「誰もいないね」

「あっ、あそこに入れそうだよ」


 街の大通りを通ってジャパリバスが堀に掛かる石橋を渡って開いていた入口から城の中に入った。

 バスを止めて降りてみるが辺りに明かりはなく真っ暗だった。


「真っ暗だね」

「かばんちゃん、探検してみようよ」

「ちょっと待ってサーバルちゃん」


 雷の光で一瞬照らし出されたテーブルの上にカンテラを見付けたかばんは、マッチを擦って蝋燭に火を付けた。


「わー、明るい」

「これで、真っ暗でも大丈夫だよ」

「やっぱり、かばんちゃんって凄いや」


 通路をカンテラの明かりを頼りに進んでいくかばん達は、暖炉のある食堂らしき広間にやって来る


「広い部屋だね」

「かばんちゃん、これ何だろう?」


 サーバルが暖炉の上の肖像画を触るのを見てかばんが止めようとするが、一瞬気配がして後ろを振り向いたが誰もおらず、ただ古い甲冑が飾ってあるだけだった。


「気のせいかな?」

「!!!!」

「どうしたのサーバルちゃん?」


 サーバルが震えながらかばんの後ろを指さすのを見て再び背後に気配を感じ振り向くと、あの甲冑がかばんの後ろにいた。


「うわぁぁぁぁ!」


 かばんとサーバルが部屋から慌てて逃げ出す。

 だが、今度は逆さ吊りの天狗が現れる。


「うわぁぁぁぁ!」


 再び逆方向に逃げ出すかばんとサーバルであった。



「エクスペクト・パトローナム!」


 城の最上階の部屋で黄金に輝く杖を降りながら呪文を唱えるカグヤコウモリ。

 だが、いつもの様に何も起こらず静かに肩を落とした。


「カグヤっ、大変でしゅ」

「また、メンフクロウ達ですか?」

「違うでしゅ、この辺では見かけないフレンズ達でしゅ」


 カグヤは思った、また誰かがこの城の秘宝を求めてやってきたのではないかと。


「今、シロヘラコウモリとテングコウモリが二人の相手をしているでしゅ」

「そうですか、解りました。」


 ウサギコウモリに案内され、カグヤは、黄金に輝く杖を持って部屋を出た。



「かばんちゃん、もう大丈夫みたいだよ」

「怖かったね、サーバルちゃん」

「うん、でも、ちょっと楽しかったかも…」


 サーバルが振り向くとそこに白い顔のお化けが立ち、窓から差し込む電で照らし出された。


「うっぁぁぁぁ!!!!」

「また、でたぁぁぁぁ!」


 一目散に逃げようとした瞬間、かばんが転んで倒れてしまう。


「かばんちゃん!」

「うっぁー、食べないで下さい!」

「かばんちゃんから放れろ、ウミャミャミャミャ!!」


 かばんを助けるため、サーバルがパンチを繰り出すが、白い顔のお化けは易々とそれを受け止めてしまい、サーバルの動きが止まってしまう。


「ふふっ、そう驚かないでくれ。これはこの私、メンフクロウが作った、タダのお面さ。意外とよくできているだろう?」


 白いお面を取って顔を露わにしたメンフクロウは、サーバルを見た。


「あなた、お化けじゃなくてフレンズなの?」

「そうさ、ここにお化けはいないよ。脅かしているのはみんなコウモリ達だよ。あの子達は、ここにある秘宝を守るために近付くフレンズ達を脅かして追い返しているんだ」

「見付けたぞ、メンフクロウ!」

「おやおや、もう見付かってしまいましたか?」

「今日こそイタズラ王のナミチスイコウモリがギャフンと言わせてやるからな!」

「はいはい、じゃあ。何して遊ぼうか」

「わーい、私も仲間に入れて」

「サーバルちゃん、怖くないの?」

「もう、正体分かったから平気だよ、それにフレンズはみんな友達だから」

「おい、そこのネコ。勝手に話に入ってくるな!」

「ネコじゃないよ。サーバルだよ」


 もはや、恐怖の古城の雰囲気が跡形もなく飛んでしまっていた。



 部屋を出たカグヤとウサギコウモリは、シロヘラコウモリとテングコウモリ達と合流し、城の謁見室である大広間にいた。

 だが、そこにキュウシュウフクロウとメガネフクロウが現れ、カグヤから杖を取り上げた。


「あら、驚かれましたか? 私はずっと、あなたの後ろにいましたよ」

「気付かなかったでしゅ」

「これは元々この城の長であるメンフクロウの物なのです」

「あなたが持っていても実用性がありません。諦めて大人しくしていなさい」

「それを返して下さいっ! それはこの城のいいえ、ここに住む全てのフレンズ達の閃なんです」

「戯言は休み休み言うのです」

「実用性が乏しいコウモリより、賢いわたくし達の方が長に相応しいのです」


 シロヘラコウモリ、テングコウモリ、ウサギコウモリが野生解放で構えると、キュウシュウフクロウとメガネフクロウも野生解放を発動する。


「みんなダメっ、争いをしたら…」

「わーい、楽しいね。狩りごっこ」

「サーバルちゃん、いろいろ間違っていると思うんだけど…」


 そこにナミチスイコウモリに追い掛けられたかばん、サーバル、メンフクロウが現れ、大広間はドッタンバッタンの大騒ぎになる。


「追い詰めたぞっ!」

「わぁぁぁぁ、食べないで下さい!」


 その時、キュウシュウフクロウが落とした杖をかばんが拾い上げて振り回すとラッキービーストがそれに反応する。


「かばん、エクスペクト・パトローナムと言ってみて」

「えっ」

「覚悟しろっ」

「早く」

「エクスペクト・パトローナムっ!」


 かばんの言葉に杖が反応して光を放つと、部屋の中に狼、鹿、白鳥など光で出来た動物達が現れ、部屋の中を縦横無尽に駆け回った。


「うわぁぁぁぁ」

「お化けェー」


 驚いたコウモリ達が右往左往逃げ回り、ドッタンバッタン大混乱する。


「これって、まさか!」

「魔法だね…」

「メンフクロウ?!」

「カグヤが待ち望んでいた魔法…。本当にあったんだね」

「…はい、先代達が語り継いできた魔法の閃が…」


 フレンズでは、発動しなかった魔法の杖がヒトであるかばんに反応してマジカルアトラクションがコウモリ達が語り守り継いできた希望の閃だった。


「かばんちゃん、すっごーい!」

「これって…」


 その時、ラッキービーストのメモリーから立体映像のミライさんが現れた。


「ようこそジャパリマジカルアトラクションへ。ここは神秘と不思議の魔法の世界…、さあ、フレンズ達と一緒に魔法の世界を体験しよう!」

「そうなんだ、だから…、あっ」


 かばんがふと見ると、玉座の前でカグヤコウモリとメンフクロウが互いに手を取り合って優しく微笑んでいる姿が見えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

こじょう アルケミスト @Alchemist-Erica

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ