カフェのあたらしーお客様 B案(2000字版)

毎月10万円欲太郎(ほしたろう)

カフェのあたらしーお客様 B案(2000字版)

 ジャパリカフェの雲を見降ろすテラスには今日も常連客が2人。

「『わたしはー♪ と~きー♪ じゃぱりまんはーおいしいー♪』」

 とトキ。

「歌ばっかりよく飽きないわよねぇあなた。……ある意味尊敬モノなんですけど」

 あきれているのが、ショウジョウトキだ。

「はいはいおまたじぇ~、紅茶が入ったよ~」

 カフェの主人であるアルパカ・スリが、カップを持ってきた。


 一服。

 アルパカの紅茶の味を2人はすっかり気に入っていた。

「おしょしょしょ……」

 アルパカも嬉しそうに2人のいるテラスを眺めながら、ソーサーを拭いている。

「はぁ゛~……こんな調子で、新しいお客さンがまた来てくれたら最高なンだげど……そうそううまくはいがないね~……」

 と、心の中にしまっていた思いがつい、口から漏れてしまった。

 角砂糖を取りに来たショウジョウトキは、その呟きを聞いてしまう。

「トキ、ちょっといい?」

 ショウジョウトキが、トキの手を引いた。


「新しいお客をさがす……?」

 2人はカフェの上空を飛んでいた。

「ええ。私たちで連れてこれない? アルパカきっとよろこぶと思うんですけど!」

「そうね、それは良い考えね……」

「私たくさん友達をつれて来るから、日が暮れる頃にここで集合ね!」

「わかったわ……じゃあ……コホン。『わたしはーとーきー♪ おきゃくをさがしてるー♪』」


 夕暮れ。

「どうだった?」

「……。『ごめーん♪ だれーもー♪ いなかったー♪』」

「歌わないで普通に話しなさいよ!」

「……あなたは……?」

「わ、わたしはー…………わたしも……」

 2人ともあまり友達が多いほうではないのをお互い知ってしまったトキとショウジョウトキだった。

 夕焼けに照らされた2人の影が、たそがれている。

 トキの白い全身がオレンジ色に焼けて、まるで別人に見えるなと、ショウジョウトキはふと思った。

「そうだ! 名案があるんですけど!」


「いらっしゃぁ~~あ゛い……え゛ぇ?」

 ドアチャイムを鳴らして入ってきた影を見て、アルパカは固まった。

 全身を葉っぱで覆われた草の塊が立っていたからだ。かろうじてシルエットからフレンズ? ではないかと疑われる。

「わ、わたしはミドリトキよ。トキのなかまなんですけど」

 塊がしゃべった。

 ショウジョウトキの名案とは、別のフレンズに変装してカフェにくることだった。

「ジャパリカフェに初めてきたの。私は新しいお客さんなんですけど!」

「あ、ああああ゛~……」

 アルパカは喜んでいるようだ。

「あ゛りがとね~、さ、座って座って」

 全身を覆っている草が落ちないように、ショウジョウトキが慎重にカウンターに座る。正体がバレてはアルパカを喜ばせられないばかりか、余計に残念がらせてしまう。

「じゃあ、いつもの頂戴!」

「いづもの~……? ……お客さん゛、はじめてきてくれたんじゃないの゛ぉ?」

 ……しまった。すぐにごまかさなければ……

「じゃあ、こ、こ……紅茶を!」

「お客さん紅茶知ってるの゛ぉ!」

 さらにしまった。紅茶を知っているフレンズは珍しいのだ。自分もカフェに来るまで知らなかった。

「だ、だってほら、紅茶ってここにあるんですけどっ!」

 メニューに乗っている紅茶の絵をさす、

「すごいね~メニュー読めんのもすごいね~」

 メニューはアルパカに教えてもらったものだ。絵の下についている模様が、文字といって紅茶を示す記号であることも。

 リカバリーを試みるが、手を打てば打つほどドツボにはまっていく……。


 そのとき、ドアチャイムを鳴らして入ってくるものがあった。同じような草の塊。

「良いお店ね……一曲良いかしら……?」

 中身はトキだ。……よかった、これでこの空気を変え……、一曲?!

「『わたしはー♪ あたらしいおきゃくー♪』」

「歌ってどうするのよ!」

 思わず、椅子から立ちあがる。

「バレちゃうじゃない頭を使って欲しいんですけ……あっ」

 立ち上がった拍子にショウジョウトキの全身から葉っぱが落ちるのと、歌の振動でトキを覆っていた葉っぱが落ちたのは同時だった。


 その様子をみて、アルパカが笑いだした。

「あははははは……いやだ~2人とも…うう゛…うえ゛え゛……」

 そして、泣きだした。

「うえ゛え゛え゛~ん、うえ゛え゛え゛~ん!」

「ごめんアルパカ、けっしてあなたを騙そうとしたんじゃ……」

 ショウジョウトキは背筋が凍る思いだった。だが、弁明の言葉も上手く口にだせない…。

「うえ゛え゛~!!!」

 その時、カウンターから飛び出したアルパカが2人にだきついた。

「ありがどね~ごめんねぇ、気をつかわせちゃってねぇ。新しいお客さんになってくれる常連さんがいで、こんな幸せでいいのかな~」

 2人の気持ちはちゃんと伝わっていたようだ。

「アルパカ……」

「私も幸せよ、こんなに素敵なカフェにこれからも通えるのが、嬉しいんですけど」

 

 その時、ジャパリカフェのドアを開くフレンズが2人。

「アイツはたぶんここにいるのだ! 入るのだフェネック!」

 待望の新しいお客様が、ようやくやってきたようだ。

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