のけものフレンズ

海星めりい

みずべちほーペパプ日和



「このあいだの初ライブは大成功だったわ!」

 

 プリンセスは、練習スタジオに向かう途中、興奮冷めやらぬ様子で少し前に行ったライブを思い返していた。

 

 来てくれたフレンズ達の笑顔は、今この瞬間も目を瞑れば思い浮かぶほどだ。


「今度のライブも頑張らないと!」

 

 次回もたくさんのフレンズに来てもらって、自分たちの歌と踊りを見てもらうのだ! と腕を強く握る。


 そのためにも、


「みんな! 今日も練習頑張りましょ……? 何してるの?」

 

 プリンセスがドアを開けて入ると、コウテイ、イワビー、ジェーン、フルルが背を向けて一カ所に集まっていた。


 ずいぶんと身体を寄せ合っている。

 暖め合っているわけでもないようだが……。


「どうしたの? そんなに顔を寄せ合って?」

 

 プリンセスが質問すると、全員が今、初めてプリンセスがいることに気づいたかのように、バッと顔をあげる。


「別に?」


「何でもないんだ」


「気にしないで」

 

 イワビー、コウテイ、ジェーンが首を横に振る。

 

 ただ、フルルだけが何かを言おうとしていた。


「うー……えっとねー」


「わ、わー!? フルル!」


「ん!? む、んんんん!?」

 

 だが、イワビーがそれを言わせまいとフルルの口をふさいで、そのまま羽交い締めのように引きずっていく。

 

 その様子に呆気にとられ、『何してるの!?』と言おうと思ったプリンセスだったが、


「プリンセスは気にしないでくれ」


「そうそう、大丈夫だから」

 

 コウテイとジェーンに遮られてしまう。


「そう……」

 

 腑に落ちないものは感じたものの、練習時間も差し迫っていたので、特にこのときは気にしなかった。


「じゃあ、練習いくわよ!!」

 

 プリンセスのかけ声に「おー!」と答え、PPP全員でいつも通り練習を開始したのだった。

 

 

 

 


 あれから何日かたったが、


「……おかしい。何故か最近、避けられている気がするわ」

 

 メンバーの様子に違和感を覚えるプリンセス。

 

 練習自体はみんなで揃って行うのだが、どうにもほかのメンバーの落ち着きが足りないように思えてしまうのだ。

 

 さらに、練習以外では最近遭うことすら少なくなってしまっていた。


「私、また何かやらかしてしまったのかしら……」

 

 プリンセスが思い起こしたのは先日の初ライブ。


 具体的には初代と二代目PPPにいなかった自分(ロイヤルペンギン)のことを、現マネージャーであるファンのマーゲイに指摘され、お客さんに受け入れられてもらえるのか、と悩んでライブ前に逃げてしまったことだ。


 あのときはメンバーのトークやマーゲイの声まね、かばんたちの協力で問題なくライブは終えられ、メンバーとは和解できたはずだ。


 現にあれ以来、問題は起こっていない。

 

 だけど、今はこうして避けられてしまっている。


「私、厳しくしすぎたかしら、せっかく三代目PPPとしての活動が始まったのに……もしかして、解散!?」

 

 悪い方にばかり転がる想像。


 だが、初ライブの一件でメンバーの絆を確かめ合えたと思った矢先だ。

 プリンセスがそう思うのも無理はない。

 

 そんな風に頭を悩ませていると、練習後コウテイから、「後でこの場所に来て欲しい」と場所と時刻を伝えられた。


 

 プリンセスは「わかったわ」と力なく答える。そして、内心で『何を言われるのかしら?』と戦々恐々していた。


 なぜなら、コウテイの顔が固かったからだ。

 

 自分がコウテイに『アンタ、リーダーやりなさい』と言ったときでさえあれほど険しい顔はしていなかった。

 


 ボロボロのメンタルで、プリンセスが呼び出された場所に向かい、ドアを開けると、




「三代目~」

「PPP!」

「結成一年!」

「おめでとう!」



 いきなりそんな声とともに迎え入れられた。


「え、えっ?」

 

 訳も分からず混乱するプリンセス。


「『はかせ』から教えてもらったんだ! ビックリしたろ?」


「うむ、こういった何らかの記念日を祝う風習がヒトにはあるらしい」


「だから、フレンズである私達もプリンセス相手にやってみようって話になったの!」


「『さぷらいずぱーてぃ』? って言うんだってー!!」

 

 そんな、プリンセスの様子を見て、イワビー、コウテイ、ジェーン、フルルが大成功とばかりに笑っていた。


『さぷらいず』の意味は分からないが、彼女たちが自分のためにこの場を設けた事だけはプリンセスにも理解できた。


「ほら! こっちこっち」


「ちょ、ちょっと!?」

 

 未だ混乱するプリンセスをイワビーはおかまいなしに引っ張っていく。

 

 連れられたプリンセスが見つけたのは、花などで飾り付けられた部屋とテーブル、そして皿に盛られたたくさんのジャパリまん。


(私のために……これを……)

 

 改めて今の状況を認識するプリンセス。


「う、うう…………」

 

 そのとき、目からこぼれたひとすじの滴が彼女の顔を伝う。


「あれ、もしかしてー、泣いてるのー?」


「……違うわよ、目にゴミが入っただけなんだから……」

 

 泣いている姿を見られて恥ずかしいのか、素直になれないプリンセス。

 

 イワビー達もそれは分かっているのか、ふふっと、笑顔がこぼれ出る。



「……でも」



「「「「でも?」」」」



「みんなありがとう!!」


 

 そう言ったプリンセスの顔は、初ライブ成功時にも負けないほどの特大の笑顔だった。








「ああ……いいですねえ……この麗しき友情……うっ! いけない何か拭くもの……拭くもの」

 

 そして、その様子を陰で見守っていたPPPのことが大好きなマーゲイは、マネージャーになっても相変わらずだった。


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のけものフレンズ 海星めりい @raiki

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