2日目の木登り

白神白紙

木漏れ日の中で

「ん? 見かけない顔……君はもしかして、サーバルキャットのサーバル?」


「ごめんなさい。踊ってたらぶつかっちゃったわ〜」


「塩? がどうのこうのらしいよ」


「キングコブラだ。何か頼み事か?」


 ここはジャングルちほー。生命力にあふれた木々と、蒸し暑い気候が特徴的な場所。水が豊富なこともあり、多くのフレンズたちが暮らしている。

 謎のフレンズ「カバンちゃん」と(他称)ドジなトラブルメーカー「サーバル」は、図書館へ向かうためジャングルちほーにあるという『バス』を求めて歩いていた。

 これはその途中のちょっとしたお話。



「ほんとにいろんなフレンズさんがいますね〜」

「ジャングルチホーハ 豊カナ自然環境モアッテ 特ニ多様ナ生態系ガ 広ガッテイルヨ」

「私もこっちには来たことないから新鮮だよ! 楽しいね!」

「それに皆さん優しくて……何の動物かもわからない僕にも普通に接してくれて、何か嬉しいです」



「な、なんだよー! あっち行ってよー!!」

「え、ええ〜……」

 そのフレンズは出くわすや否や、両腕を掲げて拒絶の意思を示してきた。カバンにとって(覚えている範囲では)初めての拒絶だ。思いがけずショックを受けてしまう。

「みゃっ……」

 一方のサーバルは——

「かーわいーーー!!」

「ふぎゃああああ!?」

 全く意に介さず、むしろ嬉々とした様子で抱きついた。

「ねえねえあなたは何のフレンズ? サバンナじゃ見かけないよね?」

「なんだよー! 離してよー!」

「サ、サーバルちゃん、ちょっと落ち着いて……」

「アレハ『ミナミコアリクイ』ダネ 温暖ナ地域ニ住ム動物デ 主ニ木ノ上デ暮ラシテイルヨ」

「へぇ〜。木登りが得意なフレンズさんなんですね」

「両手ヲ振リ上ゲテ体ヲ大キク見セルコトデ 相手ヲ威嚇スルンダ」

「あれ威嚇だったんですか……?」



 しばらくして。サーバルは申し訳なさそうに頭をかいていた。

「ごめんねー? なんか可愛くってつい……」

「べ、別にいいよぉもぅ……。図書館に行くんでしょ? 川を越えるんなら急いだほうがいいよぉ」

「あ、あのっ」

「どうしたの? カバンちゃん」

「ミナミコアリクイさんは木登りが得意なんですよね? 僕にうまい登り方を教えてもらえませんか?」

「ふぇっ?」

 思いがけない言葉に目を丸くするミナミコアリクイ。一方でサーバルも驚いた様子だった。

「ええー!? 木登りなら私が教えてあげるよ!」

「うん、もちろんサーバルちゃんも頼りにしてるよ。でも僕ホントにへたっぴだから、少しでも早くうまくなりたいんだ。そのためにはいろんなフレンズさんから教えてもらったほうがいいかなって……もちろんミナミコアリクイさんが良ければ、だけど」

 言われた当人はと言えば、まだ目を白黒させていた。しかし二人(と一機)の目線が集まっていることに気付くと、手をわたわたさせながら答える。

「……い、いいよぉ。ちょっとだけなら……」

「わあっ! ありがとうございます!」



「……そぉ、そこに手をかけてぇ……シッポ……はないんだっけ。じゃあ左足でぇ……」

「ん、んんんん……こ、これけっこうキツ……うわぁ!?」

 ぼすっ、と抜けた音が響く。柔らかい土が天然のクッションとして体重を受け止めてくれた。

 しかしこれで5回目の失敗である。

「ん〜……。向いてないわけじゃなさそうだけどぉ、慣れてないのかなぁ。シッポがないのも不便だねぇ」

「す、すいません……せっかく教えてもらってるのに」

「いいよぉ。誰かに教えるの、けっこう楽しいからぁ。あとはとにかくいっぱい練習するといいんじゃないかなぁ」

「はい!」

「ミナミコアリクイハ 木ノ上ヲ自由ニ移動スルタメ 腕ト尻尾ノ力ガ強イヨ」

「手でグイッて上がってる感じだよね。カバンちゃんはコアリクイのフレンズじゃなさそう」

「…………」

「もー、何か言ってよボス!」



「ありがとうございました!」

「ありがとねー!」

 カバンがぺこりと頭を下げ、サーバルはにゃんと手を曲げる。それぞれに別れを告げると、手を振りながら去っていった。

 ミナミコアリクイもまた手を振ってそれに応え、二人の姿が見えなくなるまで見送る。

「変な子たちだったなぁ……。木登りほめられたのは嬉しかったけどぉ」

 まんざらでもない顔で木に登ると、川のほうを眺める。木が生い茂っているため二人の様子は見えなかったが、楽しそうにお喋りしながら歩くカバンとサーバル、ボスの姿が目に浮かんだ。




「ふんふんふん……」

「どーお? アライさーん」

「匂いがするのだ……この上なのだ! 間違いないのだ!」

「木の上……? 帽子泥棒がこんなところでのんびりしてるかなぁー」

「はっきり匂いが続いているのだ! おのれどろぼー! アライさんの帽子を返すのだー! ふんにゅにゅにゅにゅにゅ……!」

「おー、はやいはやーい」

「ふぎゃああああ!?」

「ふぎゃああああ!?」

「あ、落ちてきたねー。帽子はぁ……持ってないかなー」

「な、なんだよー! あっち行ってよー!!」

「うにゅー! アライさんの帽子を返すのだー!!」

「何のことぉー!? もぉー!!」

「ふわぁぁぁぁぁ!? やめるのだ、アライさんに何をするつもりなのだ!!」


「フェネックーーー!! 助けてほしいのだフェネックーーー!!」

「またやっちゃったねー、アラーイさぁーん」

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