EPISODE19『山登り!~封印されていた精霊~』

少女の声に言われて瀬麗那の魔法で照らされた坑道のような道を徐々に下りながら進んで行くと先程と同じような広い空間に辿り着く。


「しっかし、よくこんな深い所に空洞があるよな…」


この広い空間の奥には、先程通った岩の扉に似ている扉があった。


「扉…かな」


「扉ってことは、きっとその先に精霊が居るんだよっ!」


扉に近づいてよくみると確かに魔方陣のような印が扉に刻まれている。


「よし、瀬麗那さっきのよろしく」


「わかった」


そして同じように瀬麗那が魔力を流し込むと大きな音をたてながら扉が開いていく。


「綺麗……」


目の前の人物の第一印象だった。すらっとした身体に白いドレス風の服、長身で整った顔立ちに桃色の長い髪はどこかの王女様を想像させる。


しかし着ている服は所々汚れていて可哀想とも思える姿。恐らくこの人がさっき頭の中で会話した相手なのだろう。


「先程の声の主は貴女ですね。よくここまで来てくれました」


「もしかしてこの人が昔封印されたっていう精霊なのか?」


光は不思議そうに訊ねてくる。それもそのはず今、瀬麗那たちの目の前にいる精霊をみる限りは過去にとんでもないことをしたようには見えないからだ。


「皆さん、よくここまで来てくださいました」


「確かにさっき頭の中で話したときの声…」


「じゃあこの人が…」


「はい。あ、自己紹介がまだでしたね。私は精霊サクラと申します。あなた方は…」


サクラと名乗る人が自ら自己紹介をし、それに続いて瀬麗那達も自己紹介をする。


「私は本宮瀬麗那といいます」


「俺は本宮光だ」


「私は本宮心春だよ~」


「俺は三鷹優斗です」


「皆さんご丁寧にありがとうございます」


そしてそれぞれの自己紹介が終わるとサクラは本題を話し始める。


「そろそろ私の事をお話します」


「あっそういえば、サクラさんは20年前にこの精霊山の頂上に突然現れて登山していた人達を襲ったって本当なんですか?」


いきなり聞くのはどうかなとは思いつつも本当の事を聞きたい気持ちが先走りしてしまったがサクラは丁寧に答えてくれた。


「実は20年前に襲ったのは恐らくもう一人の私なんです」


「「「「え!?」」」」


4人は精霊サクラの言葉に耳を疑った。


「もう一人の……ってどういうこと?」


優斗が聞き返す。


「はい。私は20年前、偶然この山の頂上に出現した私に驚いた人達の攻撃を防ごうとした時に突然、身体が二つに別れるような感覚に襲われるのと同時にその場にいた誰かの魔法で気を失いました。そして気がついたらこの洞窟内に封印されていたと言うわけです。また、残念ながら封印されていたのでその後の状況は分かりませんが…」


「つまり、襲った張本人はここに居るサクラさんじゃなくてその時に突然分裂したもう一人のサクラさんがやったと言うことか?」


「そういうことです。恐らく20年たった現在でも、いつ襲ってくるか分からない闇精霊に姿を変えて何処かに存在しているのは感じ取れます」


「闇精霊!?マジかよ…」


「闇精霊って?」


「あぁ。瀬麗那は知らなかったね。闇精霊っていうのは簡単に言うとふとしたきっかけで精霊の闇化してしまった存在で精霊よりも強力な精霊の事だよ。確か、強い魔法使いでもない限り生きて帰ってこれないとか」


「生きて帰ってこれない!?」


「その事で、あなた方にお願いがあるのですが、私と共に何処かに居る闇精霊を探して倒して頂けませんか?」


「そ、そんなに強い相手なのに私達に倒せるんですか?」


瀬麗那が尋ねると精霊サクラは僕の方を見て微笑みがら答えた。


「貴女の力なら倒せると思います」


「それってどういう…」


「理由はわかりませんが、瀬麗那さんには本来の魔法使いは持っていない精霊と対等に戦うことのできる力…つまり精霊力を持っているんです」


「やっぱりな…」


光と優斗が揃って頷いていた。


「えっ2人とも気づいていたの!?」


「まぁ並みの魔法使いの魔力保有量じゃないなとは思っていたよ」


光の話に優斗も付け足す。


「それに光の家の庭で初めて瀬麗那に会った時、魔力砲を放った直後の瀬麗那を見てみるとあまり体力を消耗しているようには見えなかったんだ。だから、もしかすると瀬麗那は精霊力を持っているんじゃないかってね」


「そうだったんだ…」


少し考えたあと、自分に何か出来ることがあるのならと瀬麗那はサクラのお願いを引き受ける事にした。


「分かりました。私でも出来ることがあるのならやりますっ!」


それに話を聞いた以上このまま闇精霊を放っておくわけにもいかない。


「ありがとうございます」


念のために光達にも聞いてみる。


「光達も闇精霊倒しに行くよね?」


「もちろんだ」


「俺も構わないよ。心春ちゃんは?」


優斗が確認をとろうと心春のほうを見ると、唖然としている心春の姿があった。


「えっ旅行はどうなっちゃうの!?」


「一旦ストップだな」


「うっそ~!?」


「まぁまぁ…また今度行けばいいんじゃないかな。とりあえず闇精霊をどうにかしないと」


なんとか心春を説得しようとしている優斗に根負けしたのか心春も納得してくれた。


「わ、分かったよぅ」


「よしっ!じゃあ決まりだな!闇精霊の事は瀬麗那がいれば倒すことも出来るだろうから」


自分達の今の状況を振り返ってみると、完全に忘れていたあることを思い出したので光達に伝える。


「そういえばここまで来て言うのもあれなんだけど……1つ忘れていることない?」


「何か忘れていたっけ?」


「なにか重大なことを忘れているような…」


「「「「………」」」」


そして、気づいたときには揃って叫んでいた。


「「「「あっ!!この洞窟から出られないんだった!?」」」


「そうだよ!俺達は、いきなり洞窟の入口が崩れてこの洞窟に閉じ込められたままだ!」


「それで出口を探していたときに突然、瀬麗那に聞こえたっていう声の案内の通りに進んだら精霊サクラに会ったんだったよな?」


「そうそう!……でも、3人とも…完全に忘れていたんだね…」


「あぁ…すっぽり頭から抜けてたよ…」


ようやく今までの出来事に加え為す術がないことまでも思い出し落胆している光達に対してサクラは気にしなくてもいいとばかりの笑顔で言った。


「その事なら心配なさらなくても大丈夫ですよ」


「どういうことなんだサクラ?」


「今私達が居る空間には、あなた方が入って来た入口とは別にもう1つ入口があります」


「って事はこの洞窟から脱出できるのかっ!よかった~俺達助かるんだ~!」


皆が喜び合っているが、瀬麗那は聖洞窟に入る前の嫌な予感を拭えないでいた。


すると、何かを察したのか優斗が僕の隣に来て周りに聞こえない程度の声で聞いてきた。


「まだ嫌な予感がする?」


「え?うん、少しね。どうしてもまだ何かあるんじゃないかって思っちゃって…」


「そうか。じゃあまた何か起こるかもしれないってことなのかもしれないんだな」


そう言って優斗は考え始めてしまったが、まず今はこの洞窟からの脱出を最優先にしなければいけない。


「でも、今は考えても仕方ないよ。さぁ!行こう♪」


「瀬麗那……」


「それでは洞窟の出口までご案内します」


精霊サクラの助けで聖洞窟から脱出できることを分かったぼくたちはサクラの案内に導かれて洞窟の出口を目指す。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



「そういえば、サクラちゃんの魔法属性ってなに??」


「私ですか?」


「おい心春!初対面の人に〝ちゃん〟付けはダメだろ!」


光は「すまない」とサクラに謝りつつ心春の頬をグリグリしていた。


「いえ構いませんよ。むしろ敬語よりも話しやすいのでしたら、そちらの方がいいと思います」


「いっ痛いよ~」


「まったく…光は手加減ってものを知らないのか?」


また、いつまでもやり取りが続きそうだと判断したのか見かねた優斗が二人を止めに入っていると、それを羨ましそうに眺めていたサクラが僕に光達のことを訊いてきた。


「光さんと心春さんは、いつもあのようにしているのですか?」


「まぁ1日1回はあんな感じになるかも。仲が良いんだか悪いんだか…」


「ですが、兄妹というのもいいものですね」


「そうですね」


20年もあんな洞窟に封印されていたらそんな気持ちになってしまうのだろうか。


「(でも、サクラさん楽しそう…)」


「もうそろそろ洞窟の出口です」


「ホントかっ!?」


サクラの一声で、疲れが出てきていた光達に元気が戻ってきた。


そして長い坑道を出ると、さんさんと降り注ぐ日差しをあびて、ようやく外に出たんだという事を実感していた。


「外だぁ!でもちょっと眩しいかな…」


「うぅ、でも眩しいよ……お兄ちゃん達は平気なの?」


「もう慣れた」


「光は早いね~俺もだいぶ慣れてきたけど、まだ少し眩しいよ」


「長いこと日差しが届かない洞窟の中に居たのですから仕方ないですね。私も少し眩しいです」


「でも外に出れたから、これで闇精霊討伐ができるね♪」


「そうだな」


「やっぱり何かおかしい…」


「どうした瀬麗那?」


「私達じゃない誰かの魔力を感じていたんだけど、洞窟を出る前よりも魔力が強くなってる」


「まさか闇精霊か?」


「いや、もしくは…」


「この魔力の感じ、前にどこかで……あっ!」


優斗が言い終えた直後に何かを感じ取った僕は皆に注意を促した。


「みんな避けてっ!!」


突然、どこからか先の尖った幾つもの氷が僕達の頭上に出現して一斉に降り注いできた。


「なっ!?」


「あっぶな!!」


「急になんなの!?」


「とにかく皆、防御魔法をっ!!」


防御魔法などを展開していきながら氷柱の雨を避けているうちに徐々に収まっていった。


「ふ~ん?避けられたんだ~」


「まさか、この声は!?」


光にとって聞き馴れた声なのか驚いている。


確信に変わった時、目の前に3人の姿が現れてきた。その中心には3人の中で一番背の高い、黒髪ロングヘアの少女がいる。


「やっぱりお前か!!」


「そう、私。時覇終よ」


3人の真ん中に居たのは、前に光が戦ったという時覇終(ときはおわり)だった。

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