EPISODE18『山登り!~聖洞窟にて~』

「ここが聖洞窟?」


「そうみたいだな」


「なんか…ただの洞窟みたいだけど…」


心春が言った通り、確かに見た目だけで言えばどこにでもありそうな洞窟だ。それでも瀬麗那にはなんとも言えない感じがしていた。


「なんていうか…人は見かけじゃないっていうか…」


いきなり心春は何を言っているんだよ…


「いや心春、それは人に対して言う言葉だからね…そもそもこれは人じゃなくて洞窟だから…」


優斗も呆れ顔で心春のボケにつっこんだ。


そしてもうひとつ気になった事。それは、登山道を登ってくる途中にあった山頂に行く道と聖洞窟に行く道の分岐点からここ聖洞窟までの間に誰一人の登山者や観光客にすれ違わなかった事だ。いくらなんでも誰にもすれ違わないで聖洞窟まで来れるとは思えないが。


「光?気になったことがあるんだけど」


「気になったことって?」


「さっき通った分岐点からここまでの間で誰ともすれ違わなかったみたいだけど…どうして?」


瀬麗那がそう尋ねると光は驚いたような表情で答えた。


「聖洞窟は偶然俺達が見つけた洞窟だからだぞ!?その証拠に分岐点には〝頂上方面〟って示されているだけで〝聖洞窟〟っていう看板は無かったんだ。ついでに言うと、何故だか聖洞窟の場所は地図には載っていないんだ」


光達にも理由は分からない。


「つまり光の昔の記憶だけで来たんだ…でも地図に載っていないってどういうこと?」


「それは私達にも分からないんだ~」


優斗は分岐点から聖洞窟までの間で誰ともすれ違わなかったことに疑問を覚えて問う。


「そういえば、分岐点から聖洞窟に来るまでの間に誰かとすれ違った人はいる?」


優斗は念のために頂上と聖洞窟への分岐点から聖洞窟までの道のりの間に誰かとすれ違わなかったか僕達に聞いてきた。


「私は誰ともすれ違わなかったよ?お兄ちゃんは?」


「俺もすれ違わなかったぞ?優斗もか?」


「俺もすれ違わなかったな…。瀬麗那は?」


「私もすれ違わなかったよ?ずっとこの4人で歩いていたのは覚えているから」


「そうか…」と言って光は少し考え込む。


「本当不思議だよね。俺達以外は誰一人も聖洞窟への道を通らないなんてさ。これじゃ誰かに誘われて来たみたいだよ」


「(〝誰かに誘われて来た〟か…)」


「もしかしてこの勢いで土砂崩れが起きちゃったりして~!」


「おい!心春…縁起の悪いこと言うなって」


その時、突然大きな地響きが起こった。


「え?何?」


「地震か?」


「まさか心春が言ったから地震が起きたんじゃ…」


「こ、怖いこと言わないでよ……」


しかし、いつまで経っても地震が収まらないので光は嫌な予感がした…。


「いや違う…これは地響きだ!!」


「光!上!」


「上?…うわっ!?」


直後、僕達の頭上から大きな音と共に巨大な岩が次々と落下してきていた。


「お兄ちゃん!どんどん岩が落ちてきてるよぅ…」


「どうするんだよ!!」


「とにかく聖洞窟に逃げよう!」


「よし!早く聖洞窟の奥に走るんだ!!」


「わ、分かった!」


「心春ちゃんも早くっ!」


「うん!」


「うわっ!…ったくッ!なんで急にこんなことになるんだよ!」


大きな地響きと落石の中、瀬麗那達は一目散に目の前の聖洞窟に逃げ込んだ。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



「はぁはぁ…」


「皆大丈夫か?」


「私は大丈夫だよ…」


「な、何とか…。でも危なかった……もう少し逃げるのが遅かったら俺達はあの巨大な岩の下敷きになっていたところだよ」


聖洞窟に逃げ込んだはいいのだが、中は真っ暗で皆の姿が見えない。


「誰か周りを照らせるものはないか?」


「へっへ~ん!実はこうなった時のために懐中電灯を持ってきたんだ~!』」


暗くて姿が見えないが心春が鼻を鳴らしてドヤ顔をしている姿が思い浮かぶ。


「おぉ~サンキュー心春!」


さっそく心春は懐中電灯のスイッチをつけようとする。


カチャカチャッ


「あ、あれ?」


「心春、もしかして…」


「つかない…」


「「「えっ…」」」


「こういうときに限ってなんでつかないんだぁぁぁ!?」


「(もしかして電池が入っていないんじゃ…)」


「心春ちゃん?それちょっと貸してくれる?」


そして心春から渡された懐中電灯の電池パックを開けてみる。やはり2本入れてあるはずが1本しか入っていないのでスイッチを入れてもつかなかったということだった。


「あ…電池が片方入っていないね…」


「なんだと!?まさか遊び半分でわざと片方の電池を抜いたんじゃないだろうな?」


「違うよっ!…急いで入れたから片方電池が入っていなかったなんて思わなかったんだもん…」


「そういうことは行く前にしっかり確認することだろ!」


また兄妹喧嘩が始まったようなのでとりあえず落ち着いてもらうことにする。


「まぁまぁ光…落ち着いて…」


しかし二人とも熱が入っているのか瀬麗那の話に耳を傾けようとはしなかった。


「(そうだ…こういう時は二人とも話を聞かないんだった…どうしようか…)」


「二人ともとりあえず落ち着いて。こんなところで騒いでも仕方ないだろ?」


そんなとき、優斗が呆れた様子で光と心春の喧嘩の止めに入る。


「(真っ暗なのに優斗はよく二人の場所が分かるなぁ)」


瀬麗那は優斗の空間把握に感心しつつ、このあとのことを考えることにした。


「だけどさ~こんなに真っ暗なのにどうやって辺りを照らすんだよ?」


「辺りを照らす物が無いなら出現させればいいんだよ」


さすが優斗こういう時でも冷静なんだ。


「おぉ!じゃあ俺の炎で明るくすれば…っ!」


「炎だと、もしもこの空間が密閉されていたら周りの酸素がどんどん無くなるぞ…それに一瞬でも加減を間違えればここにいる4人全員が即死するぞ…」


「じゃあどうするんだよ。この属性以外にこの場所を照らせる方法なんて……」


「いるじゃないか。この状況に一番可能性がある人物がね」


そう言って優斗は瀬麗那を指差した。


「わ、私!?でも、風魔法しか使ったことがないから周りを照らす魔法は今までやったことが無いんだけど……」


「そうか武器を介さない基本魔法なら瀬麗那でもやれるな!」


「大丈夫だよっ!瀬麗那さんなら出来るって♪」


「うん、分かったやってみる」


そう言うと瀬麗那は右手を前に出して魔力を集中させイメージする。すると、右手に丸い黄色い光が出現して洞窟内を照らすることに成功する。


「出来た…」


こんなに簡単にできること瀬麗那少し驚く。


「おぉ~明るいな…」


「瀬麗那さんやる~♪」


「えへへ♪」


「って照れてる場合じゃないだろ…」


「(そういえば聖洞窟の入り口はどうなって…)」


「光!入り口はどうなってる?」


明るくなった洞窟内で光に聞いてみる。


「……塞がっている」


「「「え!?」」」


「さっきの落石で入り口が完全に塞がれているみたいだ」


「それなら魔法で砕けば…」


光は考えていたことを行動に移そうとするが、勘づかれた優斗に制止される。


「魔法とかで砕いても次から次へと上から落ちてくるだけだと思う。それに下手をすると俺達が居る洞窟内の天井まで崩れる恐れがあるから止めた方がいい」


「じゃあ…俺達は何も出来ずにここで死ぬっていうのか!」


「そ、そんなぁ…私達ここで死んじゃうの?そんなの嫌だよ…」


色々と不安になってしまっているのか先程まであんなに元気だった心春は今は涙目になり、いつ泣き出してもおかしくない状態まで来ている。


「まだここから出られなくなったと決まったわけじゃないって、とにかくどこか脱出できる所を探そう」


」そうだな。いつまでもこんなところに居る気はないしな!」


「それしかないね!」


この広い洞窟に閉じ込められてからどのくらい経ったのか分からないが、それでも可能性を信じてひたすらこの空間から出られる所を探す。すると突然、僕の頭の中にに見知らぬ僕達とあまり変わらなそうな雰囲気の女の子の声が聞こえてきた。


「〝少し左に行った所に封印されている扉があるはずです〟」


「え?急に声が聞こえてきた??」


「〝詳しい話は後です。まずは貴方達を助けるのが先です〟」


「わっ分かりました」


女の子の声の言う通りに扉を探す。すると、女の子が言っている扉がある場所に辿り着いた。


「ここかな?」


「〝はい、そこです〟」


見た感じだとただの岩にしか見えない。でも、よく見てみると魔法陣みたいな紋章が印されていた。


「これは…魔法陣?」


「〝はい。それは数十年も前に私を封印した時の封印用の魔法陣です〟」


おそらく声が言っている数十年前ということは光や光達の祖父母が話していたとされる20年前の出来事なのだろう。


「(もし、この優しそうな声の女の子が本当に封印されてしまった精霊だとすると、なんで20年前の出来事が起こったんだろう?)」


「〝まずはその扉の封印と少し下った所にもう一ヶ所ある扉の封印を解いて私のところに来ていただきたいのです。そこで、直接あなた方に、あの時あった出来事をお話したい…そう私は思っています〟」


「あの時…と言うと、さっき光達と話していた20年前の紅葉山の話…」


「〝そうです。その為に、まずその扉の封印を解いていただけないでしょうか?〟」


「あの…解こうにも解き方が分からないんです…」


「〝大丈夫。貴女なら出来ます。右手を扉に印されている紋章にかざして魔力を流し込むだけです〟」


「(話を聞いているだけだと簡単そうに聞こえるけど…とにかくやってみるしかないね)」


「分かりましたやってみます」


そう言って瀬麗那は右手を扉の紋章にかざして魔力を流し込む。すると、魔力に反応して重量感がある岩の扉がゆっくりと開いていった。


「これは…」


「〝私が居る場所へと続いている道です。仲間の魔法使いさんといらして下さい〟」


少女の声に言われて瀬麗那が見つけたのは奥へ奥へと続く道だった。


「何か見つけたのか瀬麗那?」


他の場所を探していた光達が音に反応して瀬麗那のいるところに集まってきた。


「これなんだけど」


「これって道…だよな…」


「うん。さっき私の頭にいきなり少女の声が聞こえてこの道を教えてくれたんだ」


「なるほどな…確かに前に来たときはこんな道があったような…って突然少女の声が聞こえてきただと!?なんで!?」


「それは私にも分からないんだけど…でも『扉の封印を解いて貴方の仲間の魔法使いさんと一緒に私の居る場所に来てください』って言われて…声の言う通りにしたらこの扉を見つけちゃいました」


「どこの誰かも分からないひとの言葉の通りにしたのか…もし誰かの罠だったらどうするんだ」


「それは…」


「何はともあれ先に行く道が見つかったんだからいいじゃないか光?」


「そ、それはそうだけどさ…」


「助かったよ瀬麗那、ありがとう」


「うんっ」


「それじゃあ行ってみますか!」


「それしかないよね…いつまでもこんなところには居たくないもん…」


「うん!行こう!」


突如、落石で聖洞窟の中に閉じ込められてしまった僕達は突然聞こえてきた少女の声に言われて見つけた道を奥へ奥へと進んでいく。

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