EPISODE17『山登り!』
「え、これが登山道なんだ…」
紅葉山の登山道の入口に着いて早々、瀬麗那はそんなことを呟いていた。瀬麗那の知ってる紅葉山とは少し異なっていたからだ。
最寄りのバス停を降りたらすぐに登山道があるというところまでは同じ。しかし瀬麗那が居た世界の紅葉山の登山道は1つしかなかったために目の前にある2つの登山道のうちどちらの道を行けばいいのか分からない。
加えて、どちらの道も砂利道という…とてもではないがスニーカーを履いている瀬麗那でさえ歩きにくそうな道だ。それでも男の光や優斗ならスニーカーでも何とかなるだろうが、女の子になった瀬麗那にとっては……いまいち歩ける自信がなかった。
「大丈夫大丈夫!砂利道って言っても階段状になっているから心配ないよ!」
「そうなんだ…それなら何とかなるかな?」
「そういえば瀬麗那は紅葉山に来たこと無かったんだっけ?」
「あったような無かったような……」
「どっちだよ…」
「どっちだろう…」
「「………」」
そして瀬麗那が2つの道を交互に見つめていると優斗が聞いてきた。
「なんか不思議そうにしてるけど、どうしたの?」
「え?あ、うん…なんか道が2つあるけど、どっちの道を行けば頂上に行けるのかな?って思って…」
僕が話すと心春が不思議そうに言ってきた。
「瀬麗那さん?一応、登山道は3つあるんだよ?」
「え?そうなの?」
「確かにあると思うけど……でも草が生い茂っているから普通は気づかないかもね」
そう言って優斗が〝ほらあそこ〟と指差した方向を見てみるが道らしき道は見当たらない。
「どこにも道なんてないよ?」
「いま瀬麗那が立っているところの後ろだよ」
「後ろ?」
そう言われて後ろを振り向いてよく見てみると獣道のような幅が狭すぎてとても人が通れるような感じではない道みたいなのが確認できた。
「……これ?」
「いぇ~す!」
心春は自信満々に答えるけど草は凄いし虫とかがいそうで瀬麗那は到底入る気になれない…というより絶対入りたくない。
「そして、何故だか知らないけどここに来ると光はこの道を通ろうとするんだよね。まぁ半分は冗談だろうけどさ」
「そうなんだ…」
「そう!だから、お兄ちゃんが「面白そうだから行ってみようぜ!」って言うときは私と優斗が止めてるんだ~まったく困っちゃうよ…」
とにかく、これが道だと分かる人は居ないんだろうなと分かった。
そして、少し話がズレてしまった気がしたので本題に戻す。
「それで…それぞれどこにつながっているの?」
「えっとね~左の道は直接頂上に行けて、真ん中の道は半分くらいまで行ったところに噂の〝聖洞窟〟があるんだ~まぁ右の獣道は省くね」
「ということは、私達は聖洞窟に行くから真ん中の道を行けばいいんだね?」
、
「そういうことになるね」
瀬麗那たちが話していると心春達が言った通り、光は右の獣道に行こうとしていた。
「じゃあ俺は面白そうだから右の道を行こうかな~」
「光、そっちは道じゃないよ…」
やっぱり光は少しお馬鹿なのか何なのか、どう考えても通れるはず無いし目的地にたどり着けるはずがないのに通ろうとするところをみると野生人なのだろうか。
「いってらっしゃ~い♪一人で頑張ってね~まぁその道を行っても登って来れるか分からないけど♪」
「えっ!俺一人かよ!?な、なぁ優斗も右の道を行くよな?」
「流石に危険だと分かってて行くのは嫌だから真ん中の道を行くよ」
「じゃあ瀬麗那…」
「あっごめん。私も道とは言えない道を行くのはなんか嫌だから真ん中の道にするね」
しかも〝じゃあ〟とついでみたいに言わないでほしいと瀬麗那は呆れていた。
「え、瀬麗那まで…」
「そりゃあ普通の人なら普通の登山道を選ぶよ。しかも、こんなに可愛い女の子を雑草だらけの道に連れて行こうだなんて可哀想だと思わないのか?」
「へっ!?」
前の世界では、当たり前だけど〝可愛い〟って言われても照れたりはしなかった。前の世界では男子だったんだし…。ただ女の子になった今では自然に照れたりしていると自覚している自分がいた。女の子になると少しは変わってしまうのだろうか。
「わかったわかった…冗談だって」
「途中までは本気だったくせに~」
「まったく。光は冗談しか言えないのか…」
その後、真ん中の登山道を選んだ瀬麗那達は先程バスの中で話していた紅葉山の頂上の近くにある、精霊が封印されているという〝聖洞窟〟に向かって歩みを進めていた。
「まだ聖洞窟に着かないのかよ~。もう30分くらい歩いている気がするんだけどさ~」
最低限の舗装しかされていない登山道の影響で段々疲れてきたのか、光はそんなことを呟いていた。
「もうちょっとだと思うよ?さっき看板を見たらあと少しだったから」
「もう少しの辛抱……っていうかその洞窟に本当に精霊が封印されてるのか?あくまで噂なんだろ?本当に見た人が居たならまだしも…」
「まぁ確かに噂なのかもしれないけど…正直言って微妙なところだね…会ってみないと何とも言えない」
「でも、もしもだよ?…本当に精霊に遭遇しちゃったらどうするの?もしかしたら時覇クラスくらいの強い精霊かもしれないんだよ?」
「もしそうなったら逃げる!これに限るだろな」
なんか光の言うことはあっさりだ。
「え~戦わないの~?楽しそうなのに~」
そして心春は何を期待しているんだろう…ただ戦いたいだけなのだろうか。
「そうだな。相手の事が分かっているなら手の打ちようがあるけど、相手がどういう魔法を使ってくるのか分からない時は逃げるしかないかもね」
「じゃあ…もし逃げられなかったら…」
「最悪、応戦するしかないね」
「でも私、戦えるかな…まだ基本的な魔法しかやっていないし」
「大丈夫だ!今の瀬麗那でも普通に強いし俺たちも居るんだしさ!」
たまに見せるこういうときの光は頼もしく見える。ただ普段からこうしてくれていればいいのにとその場にいた誰もが思っていた。
「な~に格好つけてるのかなぁ~?いつもはそんなことを言ったことがないのにぃ~。あ、やっぱりお兄ちゃんって瀬麗那さんの事…」
「あーあー黙れ黙れ!」
光はあわてて何かを言おうとしている心春の口を塞ぐ。なにか不味いことでも言おうとしたのか。
「ん~んん~ん~!?」
「なに?どうしたの?なんか最後…」
「え!?あ!なんでもない、なんでもないぞ!?…あははは」
「そう?ならいいんだけど。ところで光?そろそろ手を離してあげてくれない?」
「ん~んん~ん!?」
ずっと口を塞がれている心春がじたばたして苦しそうにしている。
「あ、すまない心春…」
「げほっげほっ……はぁ生き返った~あとちょっとで窒息死するところだったよ~」
「ちょっとやりすぎだぞ?光。まったく、光は手加減ってものを知らないんだからさ…」
「はい…すみません」
「それで、さっきの話に戻すけど、とにかく俺達が居るんだし、それに、君は「基本的な魔法しかやっていない」って言ったけど君には強力な魔力砲があるじゃないか。あれだけでも十分戦えるしみんなの役に立つんだよ?」
「あ!それさっき俺が言った言葉!…」
「うんっ!そうだよね!ありがとう優斗♪」
「おいおい瀬麗那まで…」
「まぁ、お兄ちゃんは仕方ないね…」
「え~」
「光もありがとうっ」
「お、おう!」
「やっぱりお兄ちゃん…」
「もう一度殺れたい?」
「うわ~お兄ちゃん、女の子にそういうことするんだぁ~怖~い」
「このっ!」
「光、止めなって」
「そうだよ?兄妹喧嘩はよくないよ?」
瀬麗那にも妹が居たから少しは分かるがそうそうそのようなことはしてはいけないと考えていた。
「分かったよ」
「はーい!」
そう僕達が言い終えた、その直後だった。
ドクン
「えっ?」
一瞬だけど心臓が大きく波打ったような感覚を味わったと同時に光達とは違う誰かの鋭い視線を感じた。
そして、すぐに辺りを見回すが瀬麗那達以外に人の姿は無かった。
「(あれ?今、誰かに見られていたような…)」
「どうしたんだ瀬麗那?」
「今、一瞬、誰かに見られていたような気がして…」
そう言われて優斗達も辺りを見回す。しかし、どこにも人らしき姿は無い。
「いや、誰もいないぞ?」
「そんなはずは…」
「もしかしてストーカーとか?」
「ま、まさか…大体、なんでこんな場所にストーカーなんか…」
「え?そりゃあ瀬麗那が可愛いからに決まってるだろ?」
「うっ…それは…」
「(速答!?でも光達がそう言うんだろうなって予感はしていたけど…)」
「でもいくら瀬麗那が可愛いからといってストーカー行為をするやつは容赦しないけどね?」
「あ、ありがと…」
あまり周りには知られていないが意外と優斗は恐いところがある。
「さすがに瀬麗那が可愛いくてもストーカーってこんな山奥にまでついて来るものか?」
「るやつは世界のどこまでもついて来るんじゃない?」
「それ…かなり恐いよ…」
「まぁ~私が見つけたら即殴るけどね!」
「いや、それはそれで心春も怖いんだけど…」
「え?そうかな…だってやられる前にやっちゃった方がいいと思うでしょ?」
「お前の場合はやり過ぎるんだよ」
「え~手加減が出来ないお兄ちゃんに言われたくないなぁ~」
「あ、確かにそれは言えるかもな」
「マジか…」
「ごめん…私もそう思うかな」
「あ~!瀬麗那に言われたらマジなんだぁぁぁ!」
「とにかく頑張るしかないね♪」
「頑張るっていったってどうやって…」
「そりゃあ…どうにか意識して制御するんだよ。それ以外に無い」
「例えば冷静になったりすればいいんじゃないか?」
「冷静にか…」
「お兄ちゃんが冷静にって…ププっ」
「心春、なにか言ったか?」
「え!?ううん!別に!?」
「ほ~う?」
「なにも言ってない!なにも言ってない!」
「ふ~ん?」
「まぁ冗談はこの辺にしておいて、瀬麗那は少し疲れているんじゃないかな?あまり寝ていないらしいし」
「う~ん…そうなのかな…」
「(でも、確かに誰かに見られていた気がしたんだけどな…あの鋭い視線で僕を見ているような嫌な感じは気のせいじゃない気がするんだけど…でも、やっぱり気のせいなのかな…)」
と、瀬麗那が少し考え込んでいると前を歩いていた心春が何か見つけたらしい。
「あれ?もしかして、あのゴツゴツした洞窟みたいなところ聖洞窟じゃない?」
無いと言われていた聖洞窟に到着した。
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