EPISODE7『脱衣場ハプニング』

脱衣所に到着した後、瀬麗那はまだ着なれていない女物の服を脱いでからもう一度自分の身体を見てみる。透き通るような白い肌、腕はほっそりしていて何だか頼りなく触れてみると少しぷにぷにしていて柔らかな感触が全身に伝わってきた。


「(ん?ぷにぷにしていると言えば…)」


この、未だに違和感がある大きくもなく小さくもない丁度良いくらいだと感じさせる二つの胸。男だった頃は当然無かったので気にすることは無かったが、身体が女の子になっても心はまだ男なのだ少しは気になってしまう。


「(別に自分のだから少しくらいなら触ってみてもいいかな?って、いやいや!自分のだとしてもこれは越えてはならない一線だし!)」


しばらく自分と葛藤していたが結局は少しだけならと触れてみることにした。


「(ちょっとだけなら…)」


試しに人差し指でそっと触れてみる。マシュマロみたいな少し弾力がある不思議な感触だ。


「(…なんだか、今こんなことをしている自分が恥ずかしくなってきた…。と、とにかくお風呂入ろう)」


そう思って瀬麗那がお風呂に入ろうとした時、いきなり脱衣所の扉が開かれた。


「(誰だろう?)」


扉の方に振り向いた瀬麗那が開けた人物を確認して……固まった。何故なら脱衣所に入ってきたのは自室に居るはずの光なのだから。


「ひ、光!?」


「ん?……って、瀬麗那!?」


硬直状態の瀬麗那に対し光は、まさか瀬麗那がまだ入ってもいなかったとは思っていなかったようで驚きのあまり動揺した様子だった。


「………」

「………」


少しの間の後に何かに気づいた瀬麗那は自分の身体を見下ろす。こちらの世界に転生した瀬麗那は女の子、しかも今からお風呂に入ろうとしていたため全裸だ、それに加えて目の前には光が居る。


「(男に女の子の裸を見られている!?)」


考えただけで徐々に全身がが火照ってくる。


「きゃあ!!」


「お前、まだ入っていなかったのか!?」


「な、なな、何で光が!?部屋にいたんじゃ!?」


「いや、音がしなかったからもう風呂からでたものだと思って……」


今は急いで近くに置いてあったバスタオルで全体を隠しているのだが、突然光が来て驚いたのと男に裸を見られたという恥ずかしさが混ざり合い、ついには潤んだ瞳から涙が零れる。


「(ぐすんっ)」


「な、泣くなって!今すぐ出るから!(でも、ちょっと可愛いよな…)」


「お兄ちゃんどうしたの?……あっ」


余程騒がしかったらしく心春が来てしまった。


「あぁ~!!お兄ちゃんが女の子を泣かせた~!!」


「心春!?いやまて!これも本当に違うっ!俺が泣かせたんじゃなくて……と、とにかく誤解なんだって!!」


心春の誤解を必死に解こうとするのだが解こうとすればするほど悪化していく。


「お兄ちゃんってやっぱり、そういう趣味あるんだね…〝変態お兄ちゃん〟」


「だから誤解だっ!!」


この2人の言い合いをよそに瀬麗那は涙を拭いてから思っていたことを口にする。


「あ、あの……そろそろお風呂に入りたいんだけど…いいかな?」


流石に、いつまでもこの姿でいるのも肌寒いし辛くなってきたので二人には退室してもらうことにした。


「あ、ごめんね~瀬麗那さん。この変態兄ちゃんが脱衣所に入っちゃったばかりに」


「うん、もう大丈夫だよ」


「す、すまない…ってか、いつから俺は変態兄になったんだよ!」


「瀬麗那さんがこの家に来てからでしょ?」


「いや違うだろ!」


「本当は瀬麗那さんが気になっているんじゃないの~?」


「そんなわけ…あるか!」


「あ!いま行き詰まった!!」


「うるせー!!」


心春は、また、いつも通りのやりとりで光をからかっていた。


「じゃあ変態お兄ちゃんがうるさいと思うから、そろそろ私達はリビングに戻っているねっ。お風呂ごゆっくり~♪」


「は~い」


「俺は変態じゃないっつーの!!」


「はいはい分かった分かった。ほら行くよ!」


「その反応、絶対納得してないだろ!」


心春に変態扱いされて納得していない様子の光をつれて心春達は退室していった。


「(さて、2人とも行ったことだしゆっくりお風呂に入ろっと)」


先程、光が突然入ってきた時にとっさに巻いたバスタオルをほどいて浴室に入る。そして長い髪と身体を洗うのに苦戦しながらも、なんとか洗い終えて湯槽に浸かった。


「(はぁ~やっぱりお風呂は気持ちいい~。こういう感覚は男だったときとあまり変わらないんだね)」


「あっそうだ瀬麗那さん!」


「え!?な、なに?」


突然心春の声がして驚いたがそれが心春のものだと認識するとひと安心する。


「あ…心春ちゃん。また光が来ちゃったのかと思ったよ」


「あはは、すみません…。あ、浴室を出てすく右側の台にパジャマなどを置いておきますねっ」


「あ、うん!ありがとう心春ちゃん」


「い、いえ!私はただ瀬麗那さん着替える服などを持っていなかったのを思い出して持ってきただけなので」


瀬麗那が礼を言うと心春は照れくさそうにしているのがドア越しでも感じ取れた。


「じゃあ私はこれで」


「うんっ」


その後、しばらくお湯に浸かってからお風呂を上がったあと、自分の部屋に戻ってベッドに横たわって休んでいた。


「(コンコン)」


「はいっ!」


「ちょっと入っていいか?」


「光?良いよ!」


僕が促すと光が入ってきた。


「どうしたの?」


「心春が「明日買い物に行くから8時に起きてくれ」ってさ。なんか瀬麗那の服を買いに行くとかなんとか…」


「分かった!8時だね」


瀬麗那が返事をすると光は改まったような態度で謝罪してきた。


「あぁそれと…さっきは、なんかごめん…」


脱衣所での出来事だと理解する。


「正直、驚いちゃったけど、別にもう気にしてないし、それに光だって悪気があった訳じゃないんだし」


「ホントか!?」


「いいって」


そう言うと、光は「本当に悪かった」と一言いってから瀬麗那の部屋を出ていった。


その後、特にやることもなかったのと明日が早いので大分疲れていた瀬麗那は再びベッドに横になり目を閉じるとすぐに夢の中にいってしまった…

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