EPISODE8『出発前』
翌朝、あらかじめ8時に設定していた目覚ましが鳴り始めた。
ピピピッピピピッ
「んん……」
昨日約束した時間になったらしく、寝ぼけながらも目覚ましのボタンを押そうとするのだが何度やっても届かない。
「(も、もう一度)」
「(えいっ)」
今度は勢いをつけてみるが届かない。
と、そこで瀬麗那は今までの事を振り返る。
「そうだ、僕…女の子だったんだ。つい、いつもの癖でやってしまった」
何だか、段々ど自分が可哀想になってきたので普通に目覚ましを止める。
「……ふっ…ふふっ…」
「っ!?」
瀬麗那が少し驚きつつ声のする方に振り返ると、扉の入り口には肩を震わせながら微笑ましそうにこちらを見る心春の姿があった。だがよく見れば必死に笑いをこらえているかのような仕草にも見てとれる。
「こ、心春ちゃん!?」
「やだ、瀬麗那さん…可愛い」
「(今の見られてた!?)」
「心春ちゃん!どこから見てたの?」
「ごめんなさい…最初からです」
「(どうしよう、何かすごく恥ずかしい)」
「でもよかった~瀬麗那さん可愛いくて綺麗だから本当は緊張していたんです。でも、そういうお茶目なところもあるんですねっ♪」
「お願いだから……それ以上言わないで……」
「こういうの〝ドジっ娘〟って言うんですか?」
「そこまでじゃないよっ!?」
「はいはい」と心春が言うと瀬麗那の部屋を出ながら一言付け足した。
「そうだ、昨日お兄ちゃんから聞いてると思うんですけど、今日は買い物に行きますよっ」
「買い物?何か買うの?」
「瀬麗那さんの服を買いに行きますっ!」
「僕の服!?」
「はい。今のでは足りないと思ったので買ってしまおうと思ったんです」
「そうなんだ…」
「なので、とりあえず着替えておいてくださいね。それと、これ着替えです!」
そう言って渡されたのは心春の服だった。
長袖の上着に長袖のTシャツ、チェックのミニスカート、黒のハイソックスだった。なるほど、確かに今の瀬麗那の体型なら無理もなく着れる。
そして「また後で来ますので」と言い残して心春は部屋を出ていった。
ところが、ここで問題発生っ!
上着やTシャツ、ソックスは何とかなるのだがスカートの履き方がよく分からない。
これでも瀬麗那は転生前まで男だったのでスカートの履き方を知らないのは当然であって逆に普通に知ってたら怖い。
「瀬麗那さ~ん準備できましたか~?…って、スカートまだ履いていないんですか?」
瀬麗那がおよおよしているうちに心春が戻ってきてしまった。すでに着替え終わっていると思っていたらしく拍子抜けしている。
情けなく思いながら心春のとなりで小声で呟く。
「履き方……分からないんだけど…」
「えぇ!?…んもぅ…分かりました。それじゃあ後ろ向いてください」
「え?」
「う・し・ろっ!」
「は、はい」
瀬麗那は素直に後ろを向いた。すると心春はしゃがんでスカートの着用を手伝ってくれた。
「(なるほど、そういう構造だったんだ)」
「もしかして瀬麗那さんってスカート履いたこと無いんですか?……っていう事は……まさか、ブラも!?」
「う、うん。まぁ…」
「ふぅ…なんか、妹でも持った気分です」
仕方ない、元々男だったのだから。
そんなこんなで着替えが完了して立ち上ってみる。
一つ目に思った事は……とにかく下がスースーする。男だった時はボクサーパンツにズボンというかなりしっかりした服装だったので分からなかったが、スカートって足を覆ってくれないから何か落ち着かない。
二つ目に思った事は…こういう女物の下着を着てみたら、意識していないでいた胸が…その、胸に何かあるって凄く変な感覚なんだなという凄い体験をしている気がする。
「う~ん……」
しばらく複雑な気持ちを味わった後、心春が「早くっ」と言ってるようなので心春と一階に降りて朝食をとってからショッピンクモールに向かった。
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