EPISODE2『事故』

朝食を食べ終えた瀬麗那達たちは自宅から歩いて少しの所にあるショッピングモール〝アイランドモール桜ヶ丘〟に向かっていた。


アイランドモール桜ヶ丘は1週間ほど前にオープンした商業施設で、西側の〝ウエストコート〟、東側の〝イーストコート〟、中央の〝センターコート〟、そしてセンターコートの南側にある〝テーマパーク〟の3棟+αからなる桜ヶ丘市初の大型商業施設だ。駅から徒歩で行けることや駅から専用の循環バスでも行けることで有名なスポットになっている。


名前の由来はこのショッピングモールの周りを人工の川が流れており、その中に島みたいに商業施設が建てられている為だ。


ショッピングモールに着いた瀬麗那たちは暫く色々なショップなどを周ったりして楽しんでいた。その後昼食を食べてからも色々見たり買ったりして楽しんでいるうちに夕方になってしまった。


まだオープンから間もないからなのか、夜になると沢山の帰路につく人達に紛れて帰らなければいけなくなる。それに瀬麗那には今日、友達の拓斗とお泊まり会をする約束があり準備のためにそろそろ帰らなければならなかったので2人に伺うことにする。


「かなり楽しんだし、そろそろ帰らない?」


「え~もうちょっと居ようよ~」


「でも帰れなくなるとまずいし、拓斗が泊まりに来るから帰って準備しないと…」


「へぇ~妹との約束は忘れていたのに、友達との約束は覚えているんだぁ~?」


心春は朝の出来事を根に持っていたようで、ここになって掘り出してきた。


「い、いや、別にそういう訳じゃ……」


「ふ~ん?ま~いっか。じゃあ帰ろっ!お腹も空いちゃったし!」


「そうですね。そうしましょうか」



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



買い物を早めに切り上げてショッピングモールを後にした3人が少し歩いていると片道2車線の国道にある大きな十字の交差点に差し掛かる。そして歩行者用の信号が赤を示していたので歩みを止めた。


「いやぁ今日は楽しかったね!一昨日より混んでいたから疲れちゃったけど」


「一昨日は平日でしたからね。ああいう場所はどうしても平日、休日にかかわらず混んでしまうものなんですよ」


「でも僕は結構楽しめたし良かったと思うなぁ。あ、青になったよ」


歩行者信号が青になったので歩みを再開するのだが。


「〝助けて……ください〟」


「えっ?今、声が」


突然どこからか助けを求める鈴のような透き通った女の子の声が瀬麗那の頭に響く。同時に瀬麗那の足を止めてしまうが横断歩道を歩いている2人は気づく様子はない。


「あっ…」


一瞬何があったのか分からずに瀬麗那が歩みを再開しようと横断歩道に一歩踏み入れようとしたと時、偶然、左の方から猛スピードで交差点に接近してくる路線バスの姿があった。


当然止まるだろうと思っていたが瀬麗那の考えとは裏腹に路線バスは止まる気配が無い。


「(暴走バス!?)」


まさかと思い2人の方を見るとやはりまだ気づいていないようで咄嗟に2人に向けて叫ぶ。


「父さん!心春!あぶないっ!」


しかし瀬麗那の叫び声は横断歩道の丁度真ん中を歩いている二人には届いていなかった。


「(僕が一緒に歩いていればッ!くそっ…こうなったら一か八かッ!)」


このままでは2人とも暴走バスの巻き沿いになってしまう。そう思い瀬麗那がとった方法は1つ、全力で2人を突き飛ばす事だった。


自分のことは考えず、ただ2人を助けたい気持ちが溢れていく。


その行動が瀬麗那の運命を変えると知らずに。


「(間に合えぇぇぇ!!)」


瀬麗那は二人を突き飛ばすために全力で歩道を駆ける。そして暴走バスが2人に接触する寸前に間一髪のところで2人を突飛ばすが、当の瀬麗那は全力で走った影響と2人を助けられた気持ちが重なりその場に立ち止まってしまった。


再び身体を動かそうとするが全く身体が動かず、渡り終えてようやく気がついた2人が瀬麗那に向けて叫ぶ声がする気がするのだが瀬麗那には何も聞こえない。


「(何だろうこの感じ………周りの景色がゆっくり動いていている。全身の感覚も殆ど無くて……。あ、そっか……これが〝人が死ぬ前に感じるような一瞬が長く感じる時間〟なのかな…)」


「(僕………死んじゃうのかな………もっと生きたかったなぁ。まだ沢山やり残したことがあったんだけど…もっと…もっと生きたかったなぁ………ううん、せめてもう一度、どんな形でもいいから生きたいな……あはは無理だよね…)」


そういうことを考えていると突然、目の前が真っ暗になった。

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