魔法と転生と精霊とっ!

本宮蒼

序章

EPISODE1『いつもの日常』

みなさんは〝もし自分が今までとほとんど変わらない風景の別の世界に転生して性別も変わっていたら〟と考えた事はありますか?


これは、とある一人の男子が事故に遭い、異世界に転生し、女の子として生きていくお話です。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



場所は、埼玉県の最南東部に位置する桜ヶ丘市のとある住宅街にある二階建ての一軒家。


中学校の卒業式が終って帰宅した瀬麗那はだいぶ疲れが溜まっていたのかぐっすりと眠っていた。


主人公の名前は本宮瀬麗那(もとみや せれな)。私立桜ヶ丘学園中等科を卒業したばかりの15歳で、こんな名前だがれっきとした男だ。


小さい頃から「瀬麗那さんってなんか女の子っぽいね」とか「女の子の服を着せたら女の子見間違えちゃうよ」などと周りの人達から言われ続けているが確かにこの姿では仕方無いのかもしれない。


身長は165センチほどで黒眼で腰辺りまで伸びた黒髪が特徴。ロングヘアと呼ばれているらしい。また、女顔で名前も女の子っぽい名前なのに加え、声も全く低くないためか女の子だと勘違いされる。


なぜ髪を伸ばしているのか、それは小学生の頃に長くなった髪を切ろうとした際に偶然洗面所の近くを通った妹に「えっお兄ちゃん髪切っちゃうの!?女の子の見た目のお兄ちゃんに短髪なんか似合わないから伸ばした方が良いのに…」と半泣き状態で言われ、何故か精神的ダメージを負ってしまった瀬麗那はそれ以降は髪を一定の長さ(現在は腰辺り)まで伸ばすようになった。不本意だが自分でも短髪が似合わないことは薄々気付いていたし今では長髪の方が似合うんじゃないかって思っている。


そして何年も長い髪で生活してきた結果、外でも家でもあまり男だと思われなくなってしまい、今さら慣れた髪を切るのも面倒くさいと思っているのでこのまま生活している。


これなら一層のこと本当の女の子になっちゃった方が楽なんじゃないかと思うこともある。普通に考えたら無理な話だが。


「(はぁ……僕が本当に女の子だったら今の寝姿は凄く可愛く見えるんだろうな……)」


「(いやいやっ何考えてるんだ僕は!だいたい僕自身が男としての誇りを持たないでどうするっ!)」


そんなことを夢の中で考えていると、タイミングが良いのか悪いのか瀬麗那が寝ているベッドの近くに置いてあった目覚まし時計があらかじめ設定していた時間になって鳴り始める。


〝ピピッ、ピピッ、ピピッ、ピピッ〟


「んん…」


「(もう少し寝ていたいんだけど…)」


しかしそんなことを言っても目覚ましの音は待ってくれるはずもなく間隔を狭めていった。


〝ピピピッ!、ピピピッ!、ピピピッ!、ピピピッ!〟


「(う、うるさい……目覚まし設定したの誰だよ……あっ僕か…)」


〝ピピピピピピピピピピッ!!〟


「(あ~もうっ!)」


そろそろ目覚ましが騒がしくなってきたので一旦、目覚ましを止めてからもう一度寝ることにしたのだがそこでふと思ったことが一つあった。


「(あれ?僕、なんで目覚ましを設定したんだっけ?)」


そう〝なぜ目覚ましを設定したのか〟だ。


ただ単に起きるために設定したのかもしれないし、誰かと何処かに行く約束をしているから設定したのかもしれない。前者なら別に気にする必要はないから再び安心して寝る事ができる。でも、もし後者だとしたら…いや、考えたくはない。


「(なんで設定したんだろう?)」


瀬麗那が気になって考えている時、1階から一つの物凄い足音が聞こえてきた。


〝ダッダッダッダッダッ!〟


「(え、もしかしてこの足音って!?……心春じゃなければいいんだけど…)」


もし心春だったら色々と面倒くさいということを瀬麗那は知っていた。


なんだか嫌な予感がして布団を深くかぶり寝ているふりをする。


〝ダッダッダッダッダッ!〟


しかし、その足音は徐々に近づいてくる。


「(まずい…嫌な予感が現実に近づいている気がする…)」


〝ダッダッダッダッダッバタン!!〟


壊れるんじゃないかと思うくらい勢いよく扉が開かれて妹が瀬麗那の部屋に突入してきた。


「お兄ちゃんっ!朝だよっ♪起きて~!」


「(やっぱり心春だっ!)」


心春こと瀬麗那の妹である本宮心春(もとみや こはる)は僕より3つ年下の13才で私立桜ヶ丘学園中等科1年だ。


いつも元気すぎて困らせる事が多いが、以外に役立つときもある……と思いたい。


「なんだぁ~お兄ちゃんまだ寝てるの?春休みに入ったからってずっと寝ていると太っちゃうよ?」


「……………」


心春がわざとらしく言うが瀬麗那は無反応を貫く。


「(それは絶対嫌だけど、とりあえずここは寝ているふりをしないと)」


「あれぇ?なんか怪しいなぁ~?」


「(ギクッ)」


「もうっ!こうなったら~えいっ!」


無反応の瀬麗那に対して心春が行ったのは掛け毛布を勢いよく排除してしまう強行手段。


「えっ!?」


瀬麗那と心春の体重差があまり無いとはいえ、まさか布団を強引に剥がしてしまうとは……恐るべし妹…。


「うんっ!お兄ちゃん起こし作戦完了♪」


「き、急に何をするの!?」


「お兄ちゃんがなかなか起きないから最終手段を使っちゃいましたっ!テヘっ♪」


「「テヘっ♪」じゃないよっ!他に起こす方法あったじゃん…」


「まぁ細かいことは気にしない気にしない♪」


「気にするって!」


「ま、とにかく朝御飯食べよっ!お父さんも待ってるよっ」


「そんなに急がなくても……今日って何か予定あったっけ?」


確か昨日心春に何か言われたような気がしたのだが思い出せない。


「え!?昨日の夜に言ったのにもう忘れちゃったの!?」


「なんだっけ……」


「もう……今日はお父さんと三人で新しく出来たショッピングモールに行くって約束したのにっ!」


「(あ~そういえばそんな約束をしたような…)」


「分かった、先に下で待ってて。すぐ着替えて行くから」


「とか言って、私が行ったらお兄ちゃんまた二度寝しちゃうんじゃないの?」


「それはないっ!」


一体どれだけ心春は心配性なんだろうか。


「そう?じゃあ早く降りてきてね?」


「わかったよ」


心春は「絶対だからね?」と言いつつ瀬麗那の部屋を出ていった。


とりあえずこれ以上時間がかかると心春が戻ってくる可能性があると考えた瀬麗那は急いで着替えると朝食をとりに一階に向かう。


「おはよう」


「おはようございます瀬麗那さん。昨晩は良く眠れましたか?」


丁寧な敬語で話すのは父の本宮利也もとみやとしや。父と言っても実は本当の父親ではなく義理父だ。怒るとかなり怖いが滅多に怒ることはなく普段はとても優しい人でもある。


昔から眼が悪くいつもはメガネを欠かさずしているため眼鏡をとった姿を見たことがない。


「うん、まぁ良く寝れたかな。寝起きは最悪だったけど…」


「お兄ちゃんが早く起きないのが悪いんじゃない。〝明日は早く行かないと混んじゃうから早く起きてね?〟ってあれほど言っておいたのに全然起きないんだもん…」


「そんなに混んでいるなら、わざわざ今日行かなくても…」


「今日じゃないと売っていない物とかがあるの!」


「例えば?」


「福袋とか」


「他には…?」


「福袋とか……福袋とか……福袋とか……」


「福袋しか無いじゃん…」


「い、今はいいの!他の物は向こうに行ってから見つけるから」


「そうなんだ…」


「まぁまぁ二人ともそのくらいにして…さぁ朝御飯が出来ましたよ」


「あ、美味しそう!それじゃあ食べよっか」


「そうだね♪」


「「いただきま~す!」」


僕はこんな何処にでもありそうな、ごく普通の日常がいつまでも続けばいいなって思っていた。

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