EPISODE3『白い世界で女神に出会う』
「あれ…?ここ、どこだろう」
気が付くと、瀬麗那は先程までいた街中の風景とは違い一面真っ白な空間に立っていた。そこは360度・上下・前後・左右どこを見回しても白い空間しかなく試しに少し歩いたりしてみたが、どこまで歩いても何もないので「僕も天国に来たんだ」と思っていた。
「残念ですがここは天国ではありませんよ」
「え?」
そんなとき、どこからか聞こえてきた綺麗な若い女性の声によって瀬麗那の考えが否定されてしまった。
「ここです、ココ」
「(一体どこに…)」
「ココココ」
「……?」
「後ろですっ!」
「え?……うわっ!?」
「(さっきまでは僕しか居なかったのに一体どうやって…)」
振り向くと、そこには綺麗な女性が立っていた。水色の眼に腰辺りまで伸びている金色の髪。よく見れば前に瀬麗那が観ていた魔法少女もののアニメに登場していた女神の姿に凄く似ている。
そして、もう1つ感じた事があった。それは……
「背、高っ!」
瀬麗那の身長は165センチと同年代の平均身長より少し低い、それでもこの女性の背は高く見えてしまう。
「そうでしょうか?貴方の背が低いだけではないですか?」
「そ、それは……」
「ちなみに私の身長は170センチです」
「やっぱり背高いよっ!?僕なんか165センチなのに…」
「それは、つまり〝牛乳とか飲んだりしたのに全く背が伸びなかった〟という事ですか……わかります。私も昔は身長が低かったので」
この女性がさりげなく酷いことを言ったような気がしたが今はスルーする。
「(このひとを見た限りだと昔は低かっただなんて思えないんだけど…)」
「ですが貴方は……残念ながら、これ以上は伸びませんね…」
「えぇ……」
「(まったく…初めて会った人にまでいじられてしまうのか……)」
そういえばこの人は一体、誰なのだろうか?
「あの、失礼ですがあなたは?」
とりあえず名前を訊ねることにする。もしかしたら何か疑われるのではと思ったりしたのだが女性は優しい面持ちで答えてくれた。
「あ、自己紹介がまだでしたね。私は、この科学世界〝地球〟と、もうひとつの地球である魔法世界〝アース〟を管理している女神と申します」
「女神なんだ………って女神っ!?」
「はい」
「本当に本物の?」
「そうですよ!本物の女神です!」
なかなか信じてもらえず頬を膨らませる女神。
「へぇ…女神って本当にいたんだ……」
「いますよ!もしかして信じていなかったんですか?」
「いや、だって女神とかって空想の話だと思っていたし実際に会ったこともなかったから、まさか本当にいるだなんて思わなかったんです」
「言われてみれば確かにそうなのかもしれませんね。普通は会うなどあり得ませんし。あははは……はぁ」
段々と女神が落ち込んできていることを察した瀬麗那はこの流れを変えるためにも先程から気になっている事を女神に訊ねることにする。
「ところで女神さんは僕なんかに何か用ですか?」
「あっそうでしたっ!実は貴方の今後についてお話をするために呼んだのを忘れていました」
「忘れてたの!?」
「まぁまぁ落ちつ…「最初から冷静だよ!」」
女神はコホンと1度咳払いをしてから瀬麗那が事故に遭遇した経緯などを話し始めた。
「まず、私と貴方がいるこの空間は〝白い世界〟と呼ばれるところです」
「なんか…そのままなんですね…」
「はい。ですが仕方がないのです。なにせ周囲が白一色なものですから」
見たままの一言に女神は苦笑してそう答える。
いままで普通に話していた為に忘れていたが、この空間が天国ではないとすると一体ここはどこなのだろうか。
「〝白い世界〟……ということは天国ではないんですか?」
「はい。先程も言いましたが天国とは違う空間です」
そのまま女神は話を続ける。
「貴方は突然暴走した回送バスから横断歩道を歩いている2人を助けるのですがバスにひかれて亡くなりました」
「(え?ちょっと待って……それじゃあ今の僕は一体…)」
「あの……僕ここにいるんですが?」
「今の貴方は肉体を失った魂そのものなんです。そのため物を持ったりすることはもちろんのこと、それに触れることすら出来ない状態なのです」
「試してみますか?」と言われ女神に触れてみるが。
「本当だ、触れない…」
確かに、触れているはずなのに空気をかいているようだった。
「いやんっ」
「え?あ、いやっ!別にそういうつもりで触れたわけじゃなくて!?」
「冗談ですよ、冗談」
「……ですよね」
「(なんか僕が想像していた女神と少し違う…)」
「何か言いました?」
「いえっなんでもないです!」
瀬麗那はこのとき女神は地獄耳なのではないかと思った。
「おっと…少し話が逸れてしまいましたね。えっと……」
何かを思い出そうとするそぶりを見せる女神。
「どこまでお話しましたっけ?」
「おいっ!」
気づいたときには思わずつっこんでいた。女神が先程まで話していたことを忘れるとはどういうことなのだろうか。
どうやら本当にド忘れしているみたいなので女神に助言をすることにした。
「〝暴走した回送バスに轢かれて死んでしまった〟という所までです」
「あっそうでしたね!」
女神は「それでは…」と言って今までとは少し違い真面目な面持ちで瀬麗那がここに呼ばれた理由を話し始めた。
「初めは貴方に話して良いのか迷ったのですがお話します」
「はい…」
「まず、何故、貴方は事故に遭ったあと天国ではなく白い世界に〝呼ばれた〟と思いますか?」
女神の〝何故呼ばれたのか〟という問いに少し疑問を持ったが思い返しても特に悪いことをしたことはなく普通に過ごしていた筈だが少し不安になってくる。
「呼ばれたってことは何か僕は無意識に悪いことをしたのでしょうか…」
最近、妹と「悪いことをしたら地獄に行くんだって~怖いよねぇ」と話したのを今になって思い出す。
「いえ、悪い事ではないのですが…」
悪い事ではないという女神の言葉に安堵の溜息をつく。しかし、それなら何故瀬麗那は天国ではなく白い世界に居るのだろうか。考えてもますます謎が深まっていくばかりだ。
「本来ならば人間は死後は天国に行くのですが……」
女神が非常に言いにくそうにしているのをみて徐々に緊張してくる。
「最初に貴方には不慮の事故だと話しました。ですが実際は私の手違いで貴方を死なせてしまったんです……」
「へっ?」
あまりにも予想外の言葉だったからなのかその話を聞いた瀬麗那は拍子抜けした声を発した。
「それって…」
「本来ならば交差点でバスに轢かれて亡くなるという運命は貴方ではなく他の人が背負うはずで、普通に過ごしていれば貴方は95歳まで生きることができたのです。ですが別の人の運命と貴方の運命が入れ替わり、その結果、貴方の運命は生まれたときから少しずつズレが大きくなっていき最期には貴方を不慮の事故で亡くしてしまいました……申し訳ありません…」
女神は胸が痛くなる気持ちで瀬麗那がこうなってしまった経緯を告げると頭を深々と下げ謝罪する。事実を聞いた彼は相当悲しんでいるのだろうと思ったが、口を開いた瀬麗那の言葉に耳を疑う。
「でも、良かったよ」
「えっ?」
「だって僕の代わりにその人が生きてくれているって分かったから、それだけで十分だよ」
瀬麗那はそう言って微笑む。
「貴方は本当に優しい方なのですね。そう言ってくれた方は貴方が初めてです」
そろそろ頃合いかなと思った瀬麗那は間を置いた後に覚悟を決める。
「僕、天国に行きます」
「ですが、それでは貴方が…」
「もう死んでしまったことは仕方ないですし、それにいつまでもここに居るわけにもいかないんじゃないですか?」
「それはそうなのですが」
その言葉を聞いた女神は少し考え込むと、これだとばかりにあることを瀬麗那に提案する。
「そらならせめて今回は特例として私の〝女神の権限〟を行使させてください」
「それってなんですか?」
〝女神の権限による魂の転生〟
一度死んだ世界にはもう一度生き返ることが原則できないということが決められている。そこで女神は同じ世界ではなく別の世界に〝転生〟させて新しい人生を歩ませたいと考えたのだ。
「転生…」
思ってもみなかった出来事に戸惑っていたが、せっかく人生を歩む手段を女神が提案してくれたのだ、それに乗らない理由など瀬麗那には無かった。
「転生…します!」
「分かりました。では、権限を行使する前にお聞きしてもよろしいですか?」
「え?は、はいっどうぞ」
「まず、貴方は異世界が実際に存在すると思いますか?」
「まぁ僕が観ているアニメとかによく出てきましたけど、存在するかしないかって言ったら流石に現実には存在しないんじゃないですか?」
あれは、あくまでアニメの中の設定であって実際には存在しないと思っている。確かに本当に存在すれば面白そうだが。
しかし、女神の放った言葉に瀬麗那は再び耳を疑った。
「実は異世界は存在するんですよ」
「え?あるの!?本当に!?」
「ええ。最初に少し話しましたが、貴方が居た世界は魔法が存在しない世界である科学世界〝地球〟です。そしてもう一つ、科学世界〝地球〟と対をなす魔法が存在する世界が魔法世界〝アース〟です」
魔法世界と聞いても科学のみの世界で生活してきた瀬麗那にとって一体どんなところなのだろうかと気になって仕方がない。
「〝アース〟ってどんな世界なんですか?」
「〝地球〟は魔法が存在せず科学のみで成り立っています。ですが〝アース〟は地球と異なり魔法も科学も存在し、その両方で成り立っています。そして〝アース〟にはもう一つ異なる点が、〝地球〟には存在しなかった〝魔獣〟などが〝アース〟には存在するということです」
「なんか、いかにも危なそうな生き物がいるんですね…」
「魔獣といっても頻繁に見かけるものではないですからあまり心配しなくても大丈夫だと思います。それに、この二つの世界は魔法が有るか無いか魔獣が居るか居ないかということ以外は殆ど違いがありません」
「魔法…」
魔法の有無だけで結構違うような気がするが、それよりも転生と聞くとアニメでは痛みを伴っているようには見えないのだが実際はどうなのだろうか。
「あの、転生するときって痛かったりとかあるんですか?」
「いえいえ痛みは伴いませんよ」
その女神の一言で今まで張りつめていた緊張が溶けた気がした。
「では、転生するための手続きを行いますね」
そう言って女神が何やら呪文のようなフレーズを唱え始めると黄色い光が瀬麗那を包み始める。その光は、なんだか暖かくて、懐かしいような、そんな感じがする。
そして光が完全に包み込んだ時、女神が訊ねてきた。
「転生の手続きが完了しました。それで最後に貴方のお名前を教えていただけますか?」
「はい。僕の名前は、本宮……本宮瀬麗那です」
「瀬麗那さん……良い名前ですね」
「ありがとうございます」
白い世界に来て色々あったが、いよいよ転生する時がやって来たみたいだ。
「短い時間でしたが沢山貴方とお話し出来て楽しかったです。ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ。事故に遭って死んじゃったって分かった時は凄く落ち込んでいたけど、こうして転生して再び生きるチャンスをくれて本当にありがとうございます。〝アース〟に転生しても頑張って生きますっ!そしてこの命大切にします!」
「その気持ちをいつまでも忘れないでください。それでは、転生後もお元気で!」
「はいっ!」
そう言って、瀬麗那はゆっくり眼を閉じる。すると目の前が真っ暗になり意識を失った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「(父さん、心春、急に居なくなってごめんね。あのあと僕は白い世界というところで女神に出会って女神のお陰で〝アース〟っていう魔法が存在する異世界に転生することになったんだよ。最後になるけど、父さんや心春とは違う世界に転生しても頑張って生きるから二人ともいつまでも元気でね。今まで本当にありがとう……)」
最後にその言葉を二人に残し、瀬麗那は異世界〝アース〟に転生した。
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