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 人によって生み出された雨がぼくたちの体を容赦なく濡らす。ロンドンやマンチェスターで降るような、工場の煤煙をたっぷりと含んだ汚い雨よりかは幾分マシだったが、どちらにせよ環境同化回路カモフラージュを使えないので結局面倒なことには変わりない。

 廊下の角から警備兵が複数飛び出してきた。こちらに向かってモーゼル弾やら飛弾回路バレットを撃ってきたが、環境同化回路カモフラージュの代わりに障壁回路ウォールを周囲に纏わせていたので幸い被弾せずに済んだ。

 隙が出来たところに、リズが飛弾回路バレットを飛ばす。先ほど敵が撃ってきたものとは威力も速度も段違いで、群がっていた警備兵たちをすべて吹き飛ばした。

「おい、死んじまうぞ」

「大丈夫です。非殺傷制圧回路サプレッションも書き込んでますから」

「銃はどうしたんだ」

「この雨のせいでジャムっちゃいました。もうただの鈍器です」

 新しい銃火器をぼくたちに回してくれるのは結構だが、大抵の武器がこんな風にすぐ故障する。今回みたいに悪天候に遭遇した日にはなおさらだ。なので、大体の任務で最終的に手に持っているのはエンフィールドだったりする。

「まったく、こんな中途半端な似非機関銃、しかも信頼性なんてあってないようなものを実働部隊に配備します?俺たちはラットじゃあないんですよ」ダグラスが天井に向けてマドセンの引き金を引いている。ぼくも同じことをやってみるが、ぼくとダグラスの分合わせて二つの銃口から五七ミリの鉛が吐き出されることはなかった。

 ぼくたちは保険として持ち合わせていたライフルM L Eを取り出し、非殺傷制圧回路サプレッションの入ったブリティッシュ弾を込める。劣悪な環境でも問題なく動作する安心と信頼のボルトアクション銃。室内なのでいささか取り回しにくいが、蛮族みたいに鉄屑を振り回すよりははるかにましである。

「やっぱりこれが一番使いやすいっすよね」

「ああ。よく手に馴染む」

 ふとリズのほうを見てみると、銃を取り出しているような様子が一切見られない。

「やっぱり私は導力戦闘のほうが得意みたいです」とリズは言う。士官学校の学長に「英国版ジャンヌダルク」と言わしめるほどに、彼女は導力取扱技術の才に溢れていた。ぼくらを軽く凌ぐほどに。

 幸い熱視覚化回路サーモイメージャは環境に関係なく動作するので、未だ戦闘における優位性はこちら側にあった。曲がり角の先を四、五ほどの赤い塊が移動しているのが見えたので、ぼくらはそれが来るのをじっと待ち、顔を出した瞬間ライフルで撃ち抜く。

 行く先々の扉が鍵回路ロッカーによって施錠されていたが、ダグラスが反導子A L弾が込められたショットガンですべて破壊していく。万能鍵マスターキーとはよく言ったもので、敵が丹精込めて書き込んだ回路はドアノブごとズタズタにされ、やがて蒸発した。

「事前のブリーフィングでは、ここが大宴会場ボールルームになっていたな」

「今のところ出てきたのはその辺で雇ったような警備兵だけですから、この中に名簿にあった軍人連中が集合している可能性は十分にありますね」

「各員、万が一に備えて導力を可能な限り障壁回路ウォールの導子濃度上昇に回しておけ。作戦通りスタングレネードを使い突入、宴会場を制圧する」

「了解」

「それで、この扉だが」ぼくは宴会場と廊下を隔てる扉に目をやる。見るからに分厚い金属扉と、見ただけでは何層かも判別できない多重鍵回路マルチロッカー。ダグラス自慢の万能鍵マスターキーですら破壊するのは困難そうだ。

 ここでクリフォードが待ってましたと言わんばかりにポーチから手のひらサイズのスティックを取り出した。小型のダイナマイト。しかし起爆装置はない。おそらく中に導子回路が書き込まれており、爆破タイミングはクリフォードの思考次第といったところだろう。

「こいつを扉に貼り付けてと」

 貼り付けたダイナマイトの周囲に、さらに導子回路を書き込む。自身に纏わせていた障壁回路ウォールで、今度はダイナマイトを球状に包み込んでいく。局所を爆破、破壊したいときによく用いられる手段だ。

「準備できたぜ、隊長さん」クリフォードはぼくに向けてサムズアップを示した。

「よし、総員扉から離れろ」

 雨がいつの間にかやんでいるのにようやく気付いた。起爆を妨げる障害はすべて取り除かれていた。

「起爆」

 けたたましい爆音が屋敷中を駆け巡り、間もなくリヴァプールの街へと飛び出した。

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マドウ国 白発中 @esh121

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