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まだこの国がイングランドというブリテン島の一部を支配するだけの小さな国に過ぎなかったころの人間たちは、ここリヴァプールがよもや英国第二の都市と呼ばれるほどにまで成長するなどとは夢にも思わなかっただろう。王都ロンドンから遠く離れた小さな漁村は、今では帝都ロンドンと鉄道で結びつき、マンチェスターの綿織物やブラッドフォードの石炭が毎日なだれ込んでは世界各地に送り出されている。
ロンドンほどではないものの、この街も「霧」に覆われていた。発生源は主に貿易船や軍艦。リヴァプールの港はアイルランドや北米大陸、そして各地に点在するイギリス植民地のすべてを線にしていた。
アイリッシュ海を背景に、四五個の星を抱えるアメリカ国旗を掲げた蒸気船が浮かんでいた。ぼくたちのご先祖様が国旗に州の数だけボーダーを引いた名残からか、かの国は持っている州の数だけ星を入れようと決めたそうだ。独立したてのときには円形に並べられて比較的見やすかった国旗は、ここ数十年でただ縦横に並べただけの雑なものへ姿を変えてしまった。もしかすると一世紀後には一〇〇個ほどの星がそこに並んでいるか、加えるのも面倒になって巨大な星が一つ中央に鎮座しているものになっているかもしれない。
そんな海に面した中世的デザインのコンクリート建造物の前に、ぼくたちはマドセン軽機関銃を背負って立っていた。正確には、北ドイツ国外労働者支援機構リヴァプール支部の建物の眼前にちょうど設けられていた船着き場に泊められた、蒸気貨物船の甲板に立っている。
背中に抱えている銃は、ボルトアクションのエンフィールドやレバーアクションのウィンチェスターを嘲笑うかのような、引き金を引きっぱなしにするだけ弾が出るというとんでもない代物で、まるで分隊員すべてが小型化したマキシム機関銃を持っているかのよう。
どういうわけか、情報執行局のもとには世界中の銃火器企業やら変態的発想力を持った個人が新しく開発した個人用小火器が次々と送りつけられ、ぼくたちはその
取り付けられたマガジンと、ウェストポーチに入っている予備弾倉三つには、
「各員、
ぼくの命令と同時に、分隊員たちの姿がリヴァプールの風景に徐々に飲み込まれていく。加えて
最近は、最新のテクノロジーを駆使して技術的に二回りほど劣っている敵をタコ殴りにするような作戦ばかりだ。というより世界中のどこを見ても、先の普仏戦争以降からズールー戦争だとか清仏戦争といった、列強が後進地域を虐めるだけの戦争があまりにも多すぎる。三ヶ月前から始まったオスマンとギリシャの戦争の話題が英国中のパブで持ち上げられるほど、近年の戦争というのは退屈なものになっていた。
だが今回は違う。敵はあのフランスに勝利したプロイセンもといドイツ帝国。れっきとした先進国だ。将来起こるかもしれない英独戦争の前哨戦ともいえる作戦の司令官的役割を、ぼくは背負っている。
ただちに船を降り、建物の周りを八つの分隊が取り囲む。偶然にも、四方すべてに建物内へ通じる入り口が存在していたので、二分隊ずつがそれぞれの入り口から進攻、包囲制圧するというのが今回の作戦の大まかな流れだった。入り口がなければ外壁を爆破してでも侵入する手筈だったので都合が良かった。
建物の左右、そして奥から赤い線が宙を駆けていった。それぞれの分隊長が発射した熱信号弾だ。突入する準備はすでに完了したらしい。
「クリフォード、02分隊の準備は?」
「完璧だ。一つの抜かりもないぞ」
「リズ、ダグラス」
「問題ありません。今連中が中から飛び出してきても秒で黙らすことだってできますよ」
「導力戦、楽しみですね」
「大丈夫そうだな」ぼくは熱信号弾が一発込められたウェブリーを空に向ける。「突入だ」
発射と同時にぼくたちは扉を押し破って突入する。早速警備兵と思わしき人間が二名いたので、先頭にいたぼくが片方の胴体に向けてバースト射撃した。もう片方は後ろにいたクリフォードが相手をしたようだ。
警備を二人倒したところで敵が異常に気付いたのか、ロビーの階段上から銃弾が飛んできた。ぼくは清の磁器が飾られていた大きな飾り台へ身を隠し、ほかのメンバーも近くのテーブルや椅子の陰に隠れる。もっとも敵に今のところぼくたちの姿は見えていない。
ところが、頭上から大量の水滴がスコールのように降ってきた。敵の誰かが
ぼくは咄嗟にスモークグレネードを階段に向けて投げ込み、ダグラスがテーブルの隙間からマドセンで制圧射撃をする。何発かが敵に命中したのか、射撃が弱まったので、ぼくはスモーク漂う階段へ目を向けると、まだ人の形をした赤いシルエットが右往左往していた。そこへブリティッシュ弾を叩き込むとシルエットはその場に横たわった。
「どうする、
「当初の予定通りだ。ぼくたちと07、08分隊は二階の制圧へ向かう。おそらく
リズがこの上なく楽しそうな顔で
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