狂愛烈花
馳月基矢
一
なんと華やかに
天正十年(一五八二年)六月二日、洛中は本能寺にて織田信長が死んだ。腹心の家臣、明智光秀に討たれてのことである。
その明智光秀もまた、信長に遅れること十三日、山城国大山崎にて羽柴秀吉の軍に敗れ、近江国坂本へ落ち延びるさなか、山城国
日本中、天地が
巨星を明け方の薄闇に葬ったのが明智
あの織田軍きっての忠義者と称賛された男が主君に弓引こうとは、と憤る者がいた。あの目立たぬ男のどこに謀反を起こす覇気などあったのか、と眉をひそめる者もいた。あの不気味なまでに賢明な男がなぜ三日天下の愚行を為したのか、と首をかしげる者もいた。
忠興は一人、動転する者たちを憐れんでいる。やはり、信長と光秀の間に交わされた真の君臣水魚に気付いたのは、忠興だけなのだ。
そう、
先だって、珠の住まう
忠興は珠を
「
小袖を掻き分けて珠の白い肌を吸えば、鮮やかに赤い花が咲いた。子を二人産んだ珠の体はようよう熟れ始め、もっちりと甘く香って、忠興の肉欲を
「意図がどうあろうと、父の振る舞いは造反、それ以外の何者でもありませぬ。罪は罪でございましょう。明智の血は子々孫々まで逆賊と
ああ、と女の鳴き声をあげて、珠は
「俺が何か?」
「……殺しなさい」
逆賊たる明智の者を生かすべきではないと、珠その人が再三、忠興の前で繰り返すのである。珠は光秀の子らの中でも殊のほか才気に恵まれ、父に愛されていた。
「俺に珠を殺せと?」
「ええ。殺して首を取り、逆賊の血を滅ぼしたと天下に誇りなさい」
珠は、融け落ちそうな嬌態をちらつかせつつも、凛然と言い放った。
殺す、か。俺が珠を殺すのか。それを想像すると、甘い昂ぶりが忠興の体の奥に沸き起こる。返り血のぬくもりは、珠の体内の潤う熱に似ている。それらはどちらも、無上の興奮をもたらすものだ。
「殺してくれようか」
口に出すと、獣の衝動が加速した。珠を貫く。
「殺しなさい」
ああ、珠よ、何と聡く恐ろしい女だ。わずか一言で、たやすく俺を狂わせる。
忠興は、ただ愛欲のままに暴れた。意識が赤く燃え、後はもう覚えていない。貪るように珠の体を堪能し、果てて、崩れ落ちて眠った。
目を醒ませば、全身に鬱血の痕を残した珠が髪を乱して寝息を立てていた。
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